ユーザー視点で見る米国のサービス
米国ユタ州ソルトレイクシティに住む清水氏は、サービスを使うユーザーとして、生活に密着した状況もレポートした。ひとつ目は、アパレルメーカーAMERICAN EAGLE OUTFITTERSのHTMLニュースレター。ある店舗が閉店するので、次はこちらのお店をどうぞという案内である。
「隣町のお店に行くのはめんどうでしょうから、代わりに20%オフのクーポンをさしあげますという内容で、ちゃんと自宅近くの店舗を勧めています。アメリカの場合、ひとつひとつのお店が何十マイルも離れてるので、行ってお店がなかったらがっかりしてしまう。クーポンつきなので、ちょっと行ってみようかなという気持ちになりましたし、実際に行きました」
次は、米国ではfoursquareよりも人気があるというロケーションサービスの「Shopkick」。Shopkickに登録するとお店の近くを通ったときアラートが表示される。たとえば「3マイル先のこのお店でポイントがもらえるよ」といった告知である。
「ロケーションベースでポイントがもらえるアプリなのですが、このバブルを押すとポチーンと弾ける感じがして快感なんです(笑)。ゲートをくぐると来店ポイントがもらえて人のマークが踊り出す。よくできてますよこのアプリは。さらに、商品の前に行ってQRコードをスキャンするとポイントがもらえるようになっています」
次に登場したのは郵便局。この写真は、ドライブスルーの真ん中にある大きな郵便ポストだが、ここには大きな小包や段ボール箱も入れることができる。
「アメリカの場合は切手を買わなくていいんです。サイトで切手3ドル分をクレジットカード決済で買って、プリンタで打ち出して貼ればそのまま投函できる。しかもネットだと割引があったりする。郵便局で割引ってすごいですよね(笑)。でもウェブを使うと割引があるというのは、オフィスや人のコストがかからないので理にかなっています。私が行った郵便局には人が一人しかいなくて、ノリやハサミ、申込用紙が一切ない。便利で早いからウェブでやってくれという誘導がかなりきつい」
不動産情報のアプリでは「Trulia」や「Zillow」が人気がある。右はTruliaの画面だが、地図上の物件に「ベッドルームが3つ、バスルームが2つのマンションが家賃900ドル」といった情報が表示される。
「このアプリの面白いところは、もう契約済みの物件でも情報が出てきたりすること。歩きながら地図を見て、『あそこの家賃は10万だ』『あそこは12万だ』とわかるんです」
「パーソナルデータが出まくりですね」と驚いたようすの宮一氏に、清水氏は次のように説明する。「アメリカの場合、公的データとしてこういう情報がオープンになっています。この住所の物件はいくらで売れて、いま半分以上抵当に入ってるという情報まで個人名で出てくる。こういうことを体験していると、何を個人情報と見なすかは国によるんだなと思います」
Wi-Fiを使った追跡サービスが問題に
続いて清水氏が紹介したのは小売業界の試み。「Euclid Analytics」というサービスは、スマートフォンのWi-Fiをオンにしているときに送信されるシグナルをキャッチして、「この人は3回目の来店だ」「いま店舗の奥のほうに移動した」というような分析を可能にする。清水氏は、「個人情報ではないけど(ユニークデバイスを)特定できるというのは、ウェブ上のCookieと一緒」と説明する。
ところが、去年の3月頃、アメリカの百貨店NordstromがEuclid Analyticsを使って、店舗にいる人の動きを追う実験をしていたことが問題になった。Wi-Fiのシグナルを取っていたことよりも、それを知らせる看板がお店の端のほうに置いてあったり、技術用語ばかりでオプトアウトの方法がわかりづらかったことが批判された(実際の看板はこちら)。
「LightHaus」というシステムは、街中に置いてある既存の監視カメラの映像を処理して、人の顔や属性、動きを認識するリアル版ヒートマップだ。店舗内の人が通った通路と滞在時間をリアルタイムでヒートマップ表示する。また、大学の研究から派生したベンチャー企業affectivaは、人の表情の認識を利用したサービスを展開している。
多様化するデータと“試す文化”
「3年くらい前からWi-Fiやカメラなど、ウェブに限らず多様なデータを集めて、顧客を理解し、ビジネスにつなげていく試みが増えてきました。こうした新たなサービスが次々と生まれる延長線上に『ビッグデータ』という言葉がある」と清水氏。そして最後に、次のようなスライドを引用した。
※清水氏のプレゼン資料より転載
「昔はアナリティクスというとウェブ解析だけでした。けれど、次第にいろんなものを包含するようになって“ビジネスアナリティクス”にまで広がっていき、そのデータを扱えるのはデータサイエンティストだという話になった。もともと“ビッグデータ”というのは英語では普通の言葉で“膨大なデータ”と言っているに過ぎなかったのですが、それが一種のバズワードになり、データやシステムが広がっていくなかで、連携が大変になってきたという悩みを表す言葉にもなっていった」
清水氏のプレゼンを受けて宮一氏は、「紹介された事例のいくつかは、日本だったら完全にアウトになる。アメリカは試していく文化ですね」と感想を述べた。次回は、国内のネット広告業界の取り組みを紹介する宮一氏のプレゼンテーションをレポートする。
