広告主の事業や顧客を知り尽くす、地道な努力を怠るな
横山:先ほど分析ツールの話を例に挙げられましたが、マス広告の運用やイベントの運営などの実施系の業務に比べて、広告代理店はコンサルティング力や分析力が弱いですよね。かといって、データサイエンティストと呼ばれる人材が外部から来ても、広告業界のロジックがわからなければ仮説立てなどはできません。

真野:そうですね。「マーケティングにおける分析」が重要だと思います。
横山:僕はそこで、広告代理店のマーケティングプランナーやストラテジックプランナーがこれまでやってきた、定性調査にもとづいた仮説立てのスキルが活きてくると思うのです。いま、データマネジメントプラットフォーム(DMP)に大きな期待が寄せられていますが、それを使って定性的な仮説立てを実証しようとするアプローチがあまりに貧弱です。ぜひ、マーケティングプランナーやストラテジックプランナーの人たちには、この流れに気付いてキャッチアップしてもらえたらと思っています。
真野:定性情報と、傾向を見る定量情報も併せてどう使っていくかが課題ですね。どれだけ情報を集めて分析しても、それをフィードバックしてPDCAを回わしていかなければ仕方がないので。
「次世代型の広告マン」を目指す皆さんには、そんな自分のスキルの見直しやチューニングもしながら、自社のこれからのポジションを確立していってもらいたい。この仕事は、どういう広告主と組むかによっても力の発揮具合が変わってきますから、チャレンジングな姿勢の広告主に出会えるといいですね。仮にそうでなくても、イエスマンにならずに、他社や市場の情報を提供して刺激して広告主を「教育」していけばいいと思います。
横山:ニュートラルな視点で広告主の将来を考えると、それも必要なことですね。
真野:そうです。いま、マーケティング領域にいわゆる大手コンサルティング系の会社なども参入しはじめていますが、広告代理店がこれまで培ったような広告宣伝のコミュニケーションに関するノウハウなしには、かなり難しいと私は思っています。
ただ、日本の広告代理店がもっと努力すべきなのは、広告主の事業や顧客についてよく知るという点です。米国では、マーケティングの企画を頼まれたら広告代理店はクライアントの工場から販売現場からすべて歩き、開発者の話を聞き、顧客の声もよく調べる。そういうことにすごく時間を費やします。それに、クリエイティブテスト一つとっても、日本では十分におこなわれていません。最新の技術などを勉強する一方で、そうした地道な努力も怠らないでほしいですね。
横山:その点は、次世代だとかは関係なく、仕事の原点に戻って改める必要がありますね。
真野:ええ。また、環境がいくら変わっても、何らかのクリエイティブによって人の心を動かすという広告の原点も変わりません。これまで自分たちが蓄積した経験や知見を活かして、マーケティング戦略パートナーへと進化していってくれることを期待しています。
対談者プロフィール
真野英明(まの・ひであき)
1949年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。キリンビール メディア担当部長、eビジネス推進室長、日本アドバタイザーズ協会「Web広告研究会」代表幹事、日本ラジオ広告推進機構代表を歴任。現在は日本インタラクティブ・マーケティング代表取締役を務める。
編集部より
5月14日刊行『広告ビジネス次の10年』はアマゾン/SEshopで絶賛予約受付中です。横山隆治氏、渾身の一冊!自身の経験をもとに広告ビジネスの未来を示しています。ぜひお買い求めください!
■目次
第1章 土俵際の広告「代理」店
第2章 データを制するものがビジネスを制す
第3章 データマーケティング時代の広告主
第4章 塗り替わる業界地図
第5章 明暗がわかれる日本の状況
第6章 次世代型広告マンに必要なスキル
第7章 近未来予測
第8章 10年後の広告業界
第9章 広告主、メディア側から見た存在価値