メディアの価値を再認識してプランニングしてほしい
横山:会社として、デジタル活用に本腰を入れて向き合っているのですね。その中では、新しいスキルセットが求められることも多いと思いますが、例えばメディアではどういったことが必要ですか?
戸井:デジタルがわかり、ジャーナリズムがわかり、かつ英語が話せる。...と言っては身も蓋もありませんが、やはり個人で担おうとするには限界があると思っています。日経では、社内とグループから比較的デジタルに知見がある人を集めて、部門として機能させているのが現状です。電子版でも、発行人機能を組織で担うデジタル編成局の下に編集と販売と営業の部門があり、チームでPDCAを回しています。それは紙の新聞の組織体制と同じですね。
でも、私が日経BPから出向してきて勉強になったのは、組織体制というよりも、そこでおこなわれているコミュニケーションの量が多いことです。最初は実現不可能だと思ったアイデアも、皆でディスカッションして叩かれていくと現実に即した事業プランになって、決まったら一気に動く。そんな風土が大事なのではないでしょうか。

横山:なるほど。私も本書の中で、広告代理店が進化するためにはデータサイエンティストのような突出した能力の人を連れてくるのではなく、ハイブリッドな人材が生まれる環境を整えることが第一だと書いているのですが、組織的にという点では同じですね。では、メディアとして広告代理店に期待する役割とは何でしょうか?
戸井:一つは、先ほども話が出ましたが、メディアと広告主のデータが直結するような時代のビジネス構築の調整です。もう一つは、やはりメディアの価値を理解して使い方を広告主に提案していただくことです。
いま接触したいユーザーに適切なタイミングでリーチできる、プログラマティック・バイイング(データにもとづいた自動的な広告枠買い付け)が米国で伸びていますが、どの広告枠に価値があるかを最終的に判断するのは人間です。自動で効果を上げるようでありながら、実は改めて人の力が強く求められているのではないか。この点で、幅広い知見にもとづいた広告代理店のプランニングには大いに期待しています。
横山:メディア側も時代に合わせて進化しているわけですから、広告代理店もメディアの価値を常にアップデートしてとらえていく必要がありますね。
戸井:そうしてもらえるとよいですね。我々も、コンテンツやサービスをさらに磨いていきます。例えば動画コンテンツも強化していく方針ですし、「マイページ」のような自分の関心がある記事を集められる機能を強化したりもしています。
横山さんからご説明あったように、いま欧米の広告業界ではプレミアムメディアの広告枠の価値が再認識されています。そうした大きな潮流も踏まえて、メディアを再評価してもらえたらと思いますし、自分としても貢献していきたいと考えています
対談者プロフィール
戸井 精一郎(とい・せいいちろう)
日本経済新聞社 顧客サービス本部副本部長兼CRM部長兼デジタルビジネス局 1962年生まれ。84年上智大学卒業、同年日経マグロウヒル社(現日経BP社)入社。以来、専門媒体(紙・ネット)の広告営業と新事業開発に従事。ウェブサイトの評価について、「ページビュー」のみならず、表示された「コンテンツの質」、それを見る「オーディエンスの属性」という三つの指標で立体的に測るべきだと考え、これを「Page Value」(ページバリュー)として提唱。2010年に日本経済新聞社へ出向、日経電子版の広告セールスプランニングと日本経済新聞社のデジタル事業推進がミッション。2014年2月から現職。
編集部より
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■目次
第1章 土俵際の広告「代理」店
第2章 データを制するものがビジネスを制す
第3章 データマーケティング時代の広告主
第4章 塗り替わる業界地図
第5章 明暗がわかれる日本の状況
第6章 次世代型広告マンに必要なスキル
第7章 近未来予測
第8章 10年後の広告業界
第9章 広告主、メディア側から見た存在価値