左スライドによる「戻る」は便利だ
考えられるもうひとつの理由は、スライド機能です。左スライドでも「戻る」ことができるようにしている例が、アプリではよく見られます。特にスマートフォンを片手で操作する場合では、画面の上の方にあるボタンは押しづらいものです。また、画面サイズの大型化が進んでいる現在、持ち方によっては、端末の下にある「戻る」ボタンが押しにくくなることもあります。そこで、左スライドに「戻る」機能を割り当てる例が多くなっているわけです。
例えば、AndroidアプリのFlipboardは、左上の「戻る」ボタンには親指が届かず押しづらく、さらに、左下のハードウェアの「戻る」ボタン(白く発光している「<」印)も、右手の親指では、やや押しづらい位置にあります。

使ってみると、iOS、Androidを問わず、左スライドで戻れる機能は便利です。スライドで戻るという操作も直感的です。そのため、左スライドを戻る機能に割り振ってしまい、残った反対側の右スライドを「スライドメニュー」に割り振った方が、より自然で使いやすく感じられるということが起きているのです。
例えば、iOSアプリのfacebookでは、左スライドで「戻る」を、右スライドで「スライドメニュー」を展開できます(画面上に右スライドのボタンは表示されていません)。



また、iOSアプリのFlipboardでは、同じく、左スライドで「戻る」を、右スライドで「スライドメニュー」を展開できます(なお、左スライドで「戻る」ことができるのはAndroidアプリでも同様です)。



実際、スライドメニューのボタンを左におきつつ、左スライドに「戻る」を割り当てているアプリも多くあります。そういったアプリは、空いている右スライドをもっと有効活用したほうがよいと感じさせます。
例えば、iOSアプリのZiteでは、トップページで左側にあったスライドメニューが、下層では消えてなくなってしまいます。つまり、スライドメニューはトップだけでしか見ることができません。



iOSアプリのIMDbでは、トップページから下層に進むと、メニューボタンの位置が微妙に変わってしまいます。左右スライドでメニューが展開されたりもしません。



「戻る」は「スライドメニュー」よりも優先される
まとめると、スライドメニューが右側におかれる理由は、以下の2点から来ていると考えられます。
- ヘッダにおく「戻る」ボタンとバッティングさせたくないため
- 左スライドの操作でも「戻る」をできるようにしたいため
面白いことに、どちらも理由もスライドメニューそのものは関係がなく、「戻る」機能がどうあるか、ということに立脚しています。そこから、インターフェースにおいて「戻る」という機能がいかに重要かということがわかります。
スライドメニューだけのことを考えれば、素直に左側にある方が、これまでの習慣的にも自然であり、便利であるはずです。しかし、スライド機能を前提としたスマートフォンやタブレットにおいては、左スライドで「戻る」、右スライドでスライドメニューを出す、というほうが、より合理的であり、自然なインターフェースにもなりうるのです。
このようにインターフェースは、個々の要素や機能がお互いに影響しあって成り立っています。そんなところに、デザインの妙味もあるのではないでしょうか。
著者紹介
原田秀司(はらだひでし):Webサイトやアプリの設計を行うインターフェースデザイナー、Webディレクター。また、TV画面で表示するインターフェースや、ゲームコントローラなどを使った設計なども行っている。自著『UIデザインの教科書』(翔泳社)