メディアのニーズや課題に日米の違いはない
オーディエンス拡大と収益性の向上。現代のメディアはこの両輪を回していかなければならないが、バランスよく強化できている企業は少ない。アウトブレインCEOのヤロン・ガライ氏はメディアの収益化という領域にたずさわり、立ち上げた会社はアウトブレインで4社め。米国ネットユーザーの8割以上にリーチする、そのレコメンデーションサービスについてあらためて話を聞いた。
まず最初に、「Outbrain」というサービスを立ち上げた、創業当時のお話をうかがえればと思います。
ヤロン・ガライ(以下 ヤロン) 当時は、面白いコンテンツを探すということが難しかった。広告手法にフラストレーションがあり、レコメンデーションによって面白いコンテンツと出会う機会を生み出す必要性を感じていました。これは、ウェブに検索サービスが出てきたときの状況と同じだったのではないかと思います。
アウトブレインのサービスを導入することによって、メディアとオーディエンス双方にどのようなメリットがあるのでしょうか。
ヤロン 私たちのサービスの根幹になっているテクノロジーは、基本的にそのユーザーが何に興味があるのかをベースにレコメンデーションを行うというもの。メディアにとっての価値は大きく2つあります。1つは、より高いユーザーのエンゲージメント。ユーザーの回遊によるページビューの向上、広告スペースの有効活用が挙げられます。
もうひとつが収益性です。従来のレコメンデーションは編集者が行うか、もしくは外部の有料サービスを導入するしかなかった。私たちはレコメンデーションを収益機会と捉え、過去に検索サービスが実現したように、機能を無料で提供し、外部サイトへの送客によって新たな収益を提供するモデルを構築したのです。
昨年、日本に進出しましたが、日本と米国のメディアの違いというのは何でしょうか。
ヤロン 日米のメディアで何か大きな違いがあると問われると、「ない」というのが答えです。世界中どのメディアを見てもそのニーズや課題は似ているのではないかと思います。ただひとつ大きな違いがあるとしたら、米国のメディアには、メディアどうしの送客、トラフィックを送り合うということに関して、同業他社を警戒するのではなく、相互にマーケットを作り、相互に読者を育てていく土壌があると思います。
いま米国の多くのメディアにとっての競合は、FacebookやTwitterのようなサービス。いかにユーザーの興味や関心を引くか。この部分に私たちはソリューションを提供していると認識しています。
ユーザーの“その瞬間”に対してレコメンデーションを提供する
アウトブレインのレコメンデーション技術には、どのような特徴があるのでしょうか。
アミット・エリシャ(以下 アミット) 私たちはこの7年間、アルゴリズムの精緻化に注力してきました。私たちの最終的なゴールは、雑誌を読んでいるような感覚でコンテンツに接する感覚を実現すること。ページをめくるまで、次にどのコンテンツが出てくるかわからない。そういったユーザー体験を実現しようとしています。
現状では、日々60億にのぼるさまざまなユーザーのデータシグナルを吸い上げて、50を超えるアルゴリズムに落とし込んでいます。そのアルゴリズムは、テキスト分析、行動分析、パーソナライズなど、さまざまなカテゴリがあり、最終的には、ユーザーごと、しかも、その時間、その瞬間のユーザーに対してのレコメンデーションを出しているのです。
同じ人であっても、時間帯によってレコメンデーションが変わってくると。
ヤロン 最新の記事が次々と公開され、話題のトレンドは動いています。それに合わせて数分ごとにレコメンデーションを変えることができるのです。ですから、2人同時に同じページを見ても、違うレコメンデーションが出てきますよ。
エイタン・ガライ(以下 エイタン) つまり、アウトブレインのレコメンデーションというのは、表示されている記事に対する関連性ではなく、その表示されている記事を読んでいるユーザーに対して主眼を置いたレコメンデーション。そこが非常に重要なポイントだと思っています。
ネイティブ広告はユーザーにとって有益なトレンド
アウトブレインはネイティブ広告の文脈でも注目されています。IABが昨年公開したネイティブ広告についての資料のなかで、アウトブレインは「レコメンデーション・ウィジェット」のカテゴリに分類されていました。
ヤロン ネイティブ広告については、ユーザーにとって非常に有益なトレンドであると思っています。ただし、見た目だけではなくて、実際にコンテンツの内容としてもネイティブであるということが重要です。
実際はネイティブな広告ではないのに、ネイティブ広告と称してユーザーをだますようなかたちでコンテンツを見せている会社や広告手法が存在している点が問題です。しかし、ネイティブ広告における展望というのは明るいと思っています。