アドテクノロジーとCRMテクノロジーの出会いがCRMを変えていく
ここまでは比較的テクニカルな解説に終始しましたが、実はDMPとCCCMの連携、広げていえばアドテクノロジーとCRMテクノロジーの連携にはもう少し本質的な意味があると思います。
それはCRM型コミュニケーションにおける「Customer(カスタマー)」概念の拡張です。
これまで顧客データといえば自社の既存顧客や見込顧客の個人情報がベースでした。CCCMも基本的に登録された個人情報に基づくOne-to-Oneコミュニケーションを前提としています。
一方で、オーディエンスデータは個人を特定することはできませんが、「ある人」がどのページを何回見ているか、どの広告に反応したか、という情報から「ある人」の現在の状況や心理状態、傾向などを推定することができます。最近はその「ある人」への広告配信もOne-to-Oneに近い形で行うことができます。
現在の消費者は製品を購入して顧客になる以外にもTwitterでフォロワーになったり、Facebookページに投稿したり、アプリをダウンロードしたり、様々な形で企業と関わることができます。例えば、
- 現在顧客ではないが製品の熱狂的なファンで周囲に熱心に勧めてくれる人。
- 今はまだ製品を購入できないがブランドに憧れを抱いていて、毎月のニュースレターを楽しみにしている人。
- 今まさに購入を検討していてwebサイトや関連情報を熱心に調べている人。
- 何となく製品のことが気になってwebサイトを覗いてみている人。
これらの人たちは顧客ではないし見込顧客ですらない場合もありますが、自社と何らかの接点がある、企業にとっては重要な存在です。今後顧客になってくれるかもしれないし、ブランドを支持し広めてくれるかもしれません。
このような人たちの存在はcookieベースのオーディエンスデータによって初めて可視化されるようになりました。
今後は従来のCRMが対象としてきた既存顧客や見込顧客だけでなく、「まだ見ぬ顧客」や「ファン」も含めた広い意味での「お客様」を対象にしたトータルでのコミュニケーション設計が重要になってくるでしょう。
企業と何らかの接点を持つ人たちを総称して何と呼ぶべきかは難しい問題ですが、本稿では参考にさせていただいたアーロン・シャピロ氏の著書「USERS 顧客主義の終焉と企業の命運を左右する7つの戦略」(翔泳社)に倣って「ユーザー」と呼びたいと思います。
「ユーザー」に関するデータは最初はcookieベースのアクセスログなど「足あと」データしかありません。その時点ではアクセスログから興味関心を判断して、オンライン広告やWebサイトのパーソナライズによって最適なコンテンツを提供するのが精一杯です。リターゲティング広告もその一つです。
アプリをダウンロードしてもらえれば、その利用状況が分かりプッシュ通知も送信できるようになります。メールアドレスを登録してもらえればより精緻なプッシュ型のコミュニケーションも可能になります。
やがて一度商品を購入して顧客になってもらえれば、そこからは購入履歴や来店履歴も把握できます。
この一連のプロセスには「新規顧客獲得」と「獲得後のCRM」といったモデルはあてはまりません。あえて言えば「足あと」データの獲得が「新規ユーザーの獲得」で、以後は「ユーザー」に関するデータが次第に増えていく過程です。データが増えるとより的確なコミュニケーションができるようになります。
CCCMによる顧客・見込顧客とのコミュニケーションにおいても、今後は「ユーザー」の存在を無視できなくなるでしょう。CCCMによるクロスチャネルOne-to-Oneコミュニケーションは、その対象を個人情報ベースの顧客・見込顧客だけでなくオーディエンスデータに基づく「ユーザー」全体に広げることになると思います。
