Amazonが実店舗展開を始める
10月9日、Wall Street Journalが報じたニュースが全米メディアを駆け巡りました。
"Amazon to Open First Brick-and-Mortar Site"(Amazonが実店舗第一号店を開店する)
店舗を持たない低コスト体質と配送網を武器に急速な成長を見せ、今や年間約7.5兆円の売上を誇るECの雄、Amazonがついに実店舗に打って出るというニュースでした。しかもNYマンハッタンを起点に、成功したら全米各都市に展開していくのではという憶測も付いてきたから大変です。現在までAmazonから公式発表はなく、具体的な姿はヴェールに包まれているのですが、「故障・荷物受取などのサポート窓口」や自社スマホ「Fire Phone」などの展示・販売が行われると各種メディアが報じています。
店舗を持たないことによる低コスト体質が最大の武器であるEC小売各社にとって、タブーともいえるこの施策。なぜAmazonはその一手を打とうとしているのか、そしてその勝算はどこにあるのでしょうか。本稿ではこのニュースを分析していくことで、次の小売業の姿を考察していきたいと思います。
EC小売にとって実店舗展開は禁じ手
まず、なぜAmazonは実店舗を出店したいと考えたのか、というところから考察を始めたいと思います。実店舗がECに対して持つ優位性は大きく2つに分けられます
- サポート力(故障受付、商品受け渡しといったサービスを提供できる)
- アピール力(集客、販売接客が行える)
これまで、店舗を持たないことを強みにビジネスを展開してきたEC小売各社は、EC市場が成長し、ターゲットとする商品カテゴリ/ニーズが拡大するとともにこの2つの壁を感じるようになってきます。というのも、「実物を見ながら買いたい」「すぐに持って帰りたい」といった消費者ニーズは多少のお得感では拭いきれるものではないようで、米国などの先進国でもEC化率10%程度という低い水準にも関わらず、EC市場の成長鈍化が見え始めてしまっているのです(参考記事)。
当然「この壁を越えて行きたい」というのがEC各社の目指すところではあるのですが、そのために実店舗を持つというのは既存小売業と同じコスト体質になるわけで、低コスト体質という最大の武器を捨てるに等しい選択です。したがって、これまでECの世界ではタブー視されてきました。その代わりに発展したのが、Zapposのチャットや返品受付サービスといった、実店舗を持たずにその代替機能を提供する手法でした。
ではなぜAmazonは今回、実店舗出店という禁じ手を選択するに至ったのでしょうか。私はこれを読み解く鍵は「サービスのインフラ化」と「タブレット・スマホ事業の不調」にあると考えています。
Amazonの成長に"サービスのインフラ化"は欠かせない
Amazonの戦略を語るにあたって外せないキーワードが"インフラ化"です。一気に事業を拡げてビジネスの基盤を構築し、コスト効率とサービス品質を最大化して、他社が追随し得ない圧倒的な事業を構築するという経営戦略です。
ジェフ・べゾスCEOは創業以来、物流を最注力投資分野として巨額の赤字を出しながらも物流のインフラ化を目指してきました。現在では決済とPV(集客)をセットで提供することで、多くのモノを売りたい事業者が利用する圧倒的な流通プラットフォームを構築することに成功しました。
ただ、前述のとおりモノを流通させるだけで担える消費者ニーズは限定的で、Amazonもアパレルやシューズといったカテゴリでは未だ充分なシェアを得られていないほか、主力である家電でも「直接接客を受けたい」「故障対応が不安」といった理由から多くの売上を取り逃していると考えられます。
このような未開拓のニーズを獲得していくためには、接客や故障対応、受取方法の拡充といった"サービス"は不可欠であり、そのインフラ化に乗り出すのはAmazonにとって当然であるといえます。