スマホ事業の不調
もうひとつの目的は、スマートフォン事業のテコ入れにあると思われます。Amazonは2014年6月にスマートフォン「Fire」を発表。バーコードはもちろん、商品や楽曲などを認識して、購買へのアクションへ即座につなげることができるFireflyテクノロジーを搭載しています。
Fireは利用者がすぐに"注文"できるような機能を豊富に取り揃え、ハードそのものの売上ではなく、買い物の入り口を押さえることを主目的とした、オムニチャネル時代のショッピングインフラを目指す戦略的事業と推察されます。しかし、この事業がうまくいっていないのです。
Amazonは毎年戦略的にギリギリ赤字決算を出してくるのが定番化していますが、2014年第3四半期に470億円という大幅赤字を計上しており、その原因がスマートフォン事業の想定外の絶不調にあるといわれています。その最大の要因は、ハードウェアそのものの評価がすこぶる悪いことと分析する向きもあるようですが、私は"アピール力"にも一因があると考えています。
スマートフォンは使用感が大事な商材であり、実物を見て触ってもらってこそ魅力が伝わるものです。スマートフォン市場をリードしてきたAppleは、全世界にApple Storeを置き、商品の魅力や世界観を伝える努力をしています。新しく参入するAmazonにとって、未知の非常にハードルの高い課題です。しかも、Amazonを取り巻く状況を観察してみれば、自社流通を持たないうえ、各小売業からライバル視されており、こうした状況を打破する準備が十分になされたいたとは思えません。
したがって今回の実店舗の展開は、スマートフォン事業の不振を含む厳しい状態を打開するべく、Apple Storeにならって実店舗を持ってアピールをしていこう、という作戦と見ることもできるでしょう。Amazon Storeがどんなショップになるのかを想像するに、「Fire Phone」が所狭しと並び、その魅力を体感できるサービスが提供される、Apple Storeを模倣した店舗となるのかもしれません(そもそも商品力がないと勝てないという前提はあるので、成否はわかりませんが……)。
EC×実店舗は最強のタッグ
実はAmazonと同様、ECを起点にビジネスを始め、実店舗展開に成功している企業はすでに多数出始めてます。米メンズアパレルブランドの「Bonobos」は、当初自社ECサイトだけで販売をしていました。しかし実験的に、"Guideshop"と呼ばれる試着専用の店舗をWashington D.C.に展開したところ、これが大ヒット。購買単価がWebサイトの2倍になり、現在では全米10箇所以上に店舗を展開するなど大きく成長に寄与しています。
このように、EC事業者が必要最小限の機能を有する実店舗を展開することで、ECの低コスト体質は維持しつつ、実店舗の持つアピール力とサポート力を享受するようなパターンは非常に有効と思われます。今回のAmazonの成果次第では、今後急速に一般化する可能性を秘めています。
10年後の小売業界マップには"EC出自"の注釈がつく?
このように考察していくと、今まで別業界のように扱われてきたECと実店舗は、実は相当相性がいい組み合わせであることがわかります。これはMacy'sをはじめとした小売各社もECを活用することで大きく業績(特に利益)を伸ばすことに成功していることから、いずれが出自であっても正しいといえそうです。
今後、小売業界では実店舗とECはそれぞれの"いいとこ取り"が進み、10年くらい将来には今のようなEC業界/小売業界といった境が体をなさなくなり、就活生が読む小売業界マップの各企業の横に"EC出自"、"実店舗出自"といった注釈が必要となるような時代が来るのかもしれません。Amazonはその試金石ともいえる取組であり、今後の動向に注目していきたいと思います。
