IPMの運用モデル
― 媒体社のメリットとして、「単価」と「フィルレート(Fill Rate)」の向上を挙げていますが、これはどのように実現していくのでしょうか。
小山 広告在庫の売上を上げるための施策を大きく分けるとその2つになります。在庫を有料広告でどのくらい埋められるかというフィルレートと、その販売単価をいかに向上させるか。現状では、結構強いプラットフォーマーが出てきていて、フィルレート自体は100%に近い運用ができている媒体社が多いので、IPMで求められるのは単価向上のほうが強いですね。100%フィルしていても、ものすごく安い単価で売られている。しかし運用に割けるリソースがないという場合に、このサービスが刺さると思います。
― 運用モデルを見ると、アロケーション軸とウォーターフォール軸、この2つで配信をコントロールしているのですね。

小山 ウォーターフォール軸は、より高く売れる可能性のあるプラットフォーマーを優先し、そこで売れなければ、次にどこに渡すかという順序を決める。順序を決めながら、同時に100%の在庫を横軸のアロケーションで見て、プラットフォーマーごとの配信比率を変える。単価の上下で戦いながら、配分の組み合わせでも競合させて、より単価が向上するような配分にしたり、優先順位を入れ替えるということを繰り返していきます。
安藤 ひとつひとつのブロックの中には、さらにフロアプライス(Floor Price)という概念もあります。同じプラットフォームでも、フロアプライスを2パターン用意して、どちらが高く収益につながったのかを見比べたりといった細かい作業をやります。
小山 フロアプライスはいわゆる「足切り価格」。eCPM100円で設定したら、100円未満では買われないようにするというものです。同じプラットフォームでも、100円と80円なら、高いほうがいいんじゃないかと思われがちですが、高いと当然フィルする量が変わります。いままで漠然としていた最適なプライスについても根拠を明確にして、たとえばバイサイドのどういうところがいくらで買ってるという情報をもとに2パターン選定し、2つのフロアプライスを競合させたりします。

― この比率というのは、リアルタイムに変えていくものなのでしょうか。
小山 変えられますね。実際アドサーバーを設定させていただいているところは、アドサーバー上で比率を変えられますし、SSP等を利用して自動的に比率変更を設定することも可能です。
― このほかにも重要な要素はありますか。
安藤 この縦方向のブロックをどう設計するかというのがキモですね。今年に入っていくつかの媒体社でテスト的にオペレーションを行ない、簡略化されてはいますがモデルを構築しました。というのは、前月と比べて今月はどうなのかを比較しようとしても、前月と同じ広告主が入ってるわけでも、単価が同じであるわけもないので、IPMというサービスによって成果が出たのかの検証が難しかった。仮説を立てて、それが本当に有効なのかを検証するサイクルを回していくためには、基本的なモデルが必要だったのです。「こうしたからこういう結果になった」というのをきちんとアウトプットすれば、媒体社の社内レポートや意思決定もしやすくなるでしょうし。
― そのための管理画面もあるのでしょうか。
小山 複数のプラットフォームを使うということは、それぞれの管理画面があり、そこからレポートを取り出さなければいけません。まだ社内利用のみにとどめていますが、専用の収益管理ツールでeCPMやフィルレートの動向などを一元管理できるようになっています。
プライベート・マーケットプレイスと透明性の担保
― 何カ月か前にWPPグループのメディアバイイングを担っているGroupMが、オープンなアドエクスチェンジには今年限りでもう予算を投下しないとい方針を明らかにして話題になりました(参考記事)。
安藤 いつかそうなるだろうなとは思っていました。特にブルーチップクライアントが出稿する際に、こんなところに広告を出していいのかという声が上がるのはありうることです。

従来は事前に掲載可否を取っていましたが、現在の運用型広告の領域では、掲載後にNGとなれば降ろすという文化。我々は基本的に自社のプラットフォームも純広告と同じオペレーションで、事前に媒体社に掲載を確認できるツールを提供しています。そういうところは結構手間がかかるんですが、リスクを減らしたいという意向がクライアントも媒体社にもありますから、GroupMのあの宣言は理解できます。
― また、人間が目視できる状態で広告が表示されているのかというビューアビリティの問題もあり、米国では業界団体がガイドラインを出しています。
小山 プライベート・マーケットプレイスは特にそうだと思うのですが、媒体にとっても、クライアントにとっても、透明性の担保が重要だと思います。どこに広告が出るのか、どこが広告を出すのかが担保ができる。従来の純広告の販売はメールベースでやり取りをしていましたが、システムやプラットフォームを通じて、その世界観を作っていこうというのがプライベート・マーケットプレイスかなと思っています。単純に高い単価帯だけで売る目的だけじゃない、透明性を担保することで出稿してくれるクライアントも出てくると思うので。
― 現在、国内にはいくつくらいプライベート・マーケットプレイスが存在するのでしょうか。
安藤 Google、Rubicon Project、PubMaticなどはもう稼働していると思います。先日、電通PMPでは、Googleをまず使っていくという発表をしていましたが(参考記事)、将来的にほかのプラットフォームを使う可能性もあります。クライアントニーズを優先し、プライベート・マーケットプレイスの選択に関しては、我々はニュートラルでやっていこうと思っています。我々がSSPになってしまうと、そういうことができなくなってしまうので。
前年比180%売上アップはなぜ可能だったか
小山 IPMの試験的な運用ではありますが、非常に成果が出た事例をひとつ紹介します。ある生活情報サイトの事例なのですが、広告在庫すべてをお任せいただいたので、通常の純広告もそれ以外の領域も伸ばすことができました。我々が関わる前年の実績と比べたときに合計で約180%の売上アップが実現できたのです。

安藤 IPMをやることで運用型広告の売上が伸びるのは、ある意味当然です。しかし、上のグラフで注目してほしいのは、運用型広告だけでなく純広告の売上も伸ばせていること。ではなぜ純広告が伸びたのかを考えると、やはり我々がその媒体社の広告枠全在庫を預かっているということが大きい。今後IPMを提案していくなかで、運用型だけでなく予約型も伸ばしていく戦術を媒体社と一緒に考えていければと思っています。
― IPMの登場によって、CCIの広告の運用というのは、ひとつ上のレベルに上がっていくと考えていいでしょうか。
小山 はい、そう思ってます。IPMに携わっているメンバーは現在10名ほどですが、このサービスは全社的に推進すべきものだと思っていますし、そのことは全社員の前で何度も口を酸っぱくして伝えていきます。IPMが運用型広告の領域だけだと思われると「私は関係ない」「アドテクノロジーは苦手だから」という人間が絶対に出てくる。でも、そうじゃないんだと。
― IPMの今後についてはいかがでしょう。
小山 全在庫をお預かりするのはなかなかハードルが高いのですが、ここの一部の枠、このサイトのこの枠だけすべて預けてみるか、というふうに部分的に預かるケースも決まってきています。
安藤 今後はすでに展開しているDMPから生まれるチャンスを活かしたり、高単価化、コンテンツやウェブサイトにどう流入させるかといった、マーケティングの観点でのサポートもしていきたい。そういうストーリーをどんどんつなげていきたいなと思ってます。今回のIPMサービスは、媒体社向けのサービスですが、媒体社の収益が上がって元気になっていくということは広告代理店にとっても絶対良いこと。この業界、このマーケットをどんどん活性化、健全な活性化をしていきたいと思っています。
小山 リリースしてから多くの引き合いをいただいていて、非常にありがたいですし、やっていて面白い。社内で「IPM、なんだか楽しそうだな。一緒にやりたいな」と思わせたいですね。
安藤 それならまず髪を切って、ひげ剃ったほうがいいかもしれない(笑)。
小山 失敗して責任とったみたい(笑)。
― これからもIPMを含めて、日本でのプライベート・マーケットプレイスの発展に期待しています。本日はありがとうございました。
