決済もユーザー体験を左右する
米国・カナダでサービスを展開するスクエア社が日本進出を決めた理由の一つに、日本が現金払い中心の社会であることが挙げられる。カード利用率が低い原因を消費者側だけに求めるのではなく、クレジットカードに対応している店舗の少なさにあると考え、そこに普及のチャンスがあると考えたのだ。そこで、同社はこれまで消費者と店舗の両方面へのアプローチを続けてきた。
カード決済に対応しているか否かは、店舗が提供するユーザー体験にも関わると清水氏は考える。「現在、日本でカードが使われるシーンは、日常のちょっとした支払いよりも美味しいものを食べたり、本当に欲しい買い物をする場合が多いです。そのような時には、気持ちが上向きになっているもの。そこでカードが使えなかったら、気分が一変してしまう。カードに対応することで、より良いユーザー体験を提供することができる。この視点も重要だと思います」
しかし、多くの店舗にとってカード決済対応の優先順位は低いことも体感しているという。例えば、清水氏は機会があるごとに店舗に現在の課題を尋ねている。「多くの場合、一番に挙がる答えは集客です。そのため、ソーシャルメディアや口コミサイト活用などへの関心が高いようです。一方で店舗での購入にフォーカスした場合、決済はプロセスの最後です。クレジットカード対応よりも先にすることがある、という発想を多くの方が持たれているように感じます」
しかし、清水氏はこの考えに疑問を持ったという。「もちろん、集客も重要ですが、店舗の機能性やポテンシャルを高めることが来客の増加につながると考えました」そこで清水氏は、カード利用の実態調査を行った。その結果、カード非対応の店舗は潜在顧客の21%を逃していることが明らかになった。また、若年層を中心にカード利用のニーズが増えてきている傾向も見えてきた。「カード決済への対応が集客にも関係することが明らかになりました。消費者側はカードを使いたいにもかかわらず、そのニーズに店舗側が気付いていないために機会損失が発生しているのです」
消費者と店舗をつなぐ施策「カドリク」
調査から見えてきた、店舗と消費者の間での認識の違いについて、清水氏は、店舗と消費者のコミュニケーション不足に原因があるのではないかと考えた。「長年経営をしている店舗の場合、今更カード対応をする必要がないと考えている節もあります。なぜなら、これまでも成り立ってきたからです。ですから、カードを使いたがっているお客さんの姿を店舗側に見せて、理解してもらう必要がある」そこでソーシャルメッセージを店舗に伝えるためにはじめた施策が「カドリク」だ。
カドリクは、クレジットカードを導入してほしいという声を、消費者の代わりにスクエア社が届けるサービス。ユーザーはサイト上に店舗へのリクエストとメッセージを登録する。1つの店舗に3通のリクエストが発生すると、店舗にDMが送付される。店舗はDMを通してユーザーメッセージを読むことができ、店舗がカード対応をしたら、ユーザーにフィードバックされる。リクエストを登録したユーザーは、Facebookで応援を募ることも可能だ。「これならば店舗側は集客につながるし、消費者側から見ると気になっていたお店がもっと便利になる。当社を介して、店舗と消費者の新たなコミュニケーションが生まれるのです」
Webサービスは認知が難しいところだが、どのように消費者に伝えたのだろうか。「現段階では、クレジットカードのコアユーザー層に届くように情報を発信しています。日本にはコア層が約1~2万人存在すると言われています。まずはこの人々に“どこでもカードが使えるようにするためのインフラ”として使って頂き、利便性が認められればマスに波及すると考えています」清水氏は語る。9月のローンチから、約2か月で1,200以上の声が集まっているという。
国内には店舗が無数にあり、リクエスト3通も低いハードルではないという。しかし、他のユーザーのリクエスト直近50件を閲覧できるようにするなど工夫を施した。その甲斐あってか既にDMの送付も始まっており、様々な地域にリクエストが届けられている。「リクエストは東京に集中すると思われがちですが、カード対応のニーズは各地に存在します。観光地は地域単位でリクエストしたいという声もあります。業種別に見ると飲食店が圧倒的ですが、個人経営の事業など様々な店舗へのリクエストが届いています」