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未来を「つくる」天才を育てる学校“BAPA”に迫る

「専門外の領域に一歩踏み出す勇気を持ってほしい」バスキュール朴正義氏が 語る、クリエイティブの未来

新コンテンツフォーマットへの挑戦

――モバイルに乗り出すにあたって何から始めたんですか?

 正直、不安でいっぱいでした。まだスマホがこの世にない時代です。ガラケーのプアーなディスプレイ環境で表現したいものが、全然ないんです。誰も見たことのないようなすごいのつくろうぜ! と思って、優秀なフロント開発者に集まってもらったのに、ガラケーに魂をぶつけてくれ! と言える企画を見つけられなかったんです。ただ、ラッキーなことにWebの仕事は最高潮なくらいにたくさんあったので、お金の心配をせずに、さまざまな実験に取り組むことができました。

 そこで、原点に返ってやってみたのが、ガラケー環境で実現するマルチユーザーコンテンツです。複数の人が同時に見られる大型デジタルサイネージをメインディスプレイとし、モバイル端末をディスプレイ付きコントローラーと規定してみたんです。そう規定した途端、プアーだとバカにしていたガラケーは、高性能なバイブレーション機能付きパーソナルコントローラーになり、マルチユーザーデジタルサイネージコンテンツという、まだ誰もチャレンジしていないコンテンツフォーマットが目の前に現れたのです。

 自分たちなりのモバイルとの付き合い方にたどり着いた瞬間ですね。この延長線上に今のテレビ連動企画があるわけですが、ディスプレイに映しだされるビジュアルだけでなく、体験全体のクリエイティブをより重視するようになっていきました。

バスキュールでは、コンテンツのみでなく、
インタラクティブなメディア体験を実現するためのプラットフォームも自社開発している。

――かなりの大転換だったということでしょうか?

 僕は、ネットのクリエイティブの本質は気持ち良いコミュニケーションを提供することだと考えていて、大きな意味では変わってないのですが、やはりディスプレイや利用シーンの違い、そしてビジネスの違いはものすごく大きなものでした。あわせて、2009年頃には、普通の個人でもクリエイティブ作品を発信できるようになってきた。アプリ開発者とかニコ生主とかYouTuberとか良い例ですよね。Twitterのフォロワーが万を超す人もたくさん出てきた。そうした環境下で、プロとして何ができるかを改めて考える時期だったんだと思います。なので、モバイルシフトは、僕の興味をプラットフォームに向けてくれました。

 個人クリエイターと競争するのではなく、彼らがコンテンツを提供したくなるような器をつくることがクールなんじゃないかと。少なくともこれから5~10年は、新しいプラットフォームづくりや、その上で動くコンテンツフォーマットづくりという、もう少しメタな場所にクリエイティブを込めるべきだと考えた。こうなると、制作会社1社で戦うのは難しい。

 当時、最も活発なソーシャルグラフを有していたmixiといっしょにバスキュール号をつくったのはそれが理由です。そのトライを通じて、次に考えたのは、ネット端末化していくであろう未来のテレビこそ、未開拓のコンテンツフォーマットが眠っている場なのではないかという思いです。テレビのカウンターとして生まれた会社が、未来のテレビに夢を投影するようになりました。

専門外にコミットする勇気が必要

――「新しいフォーマット」と「コラボ」がキーワードですね。

朴:そうですね。少し話は飛びますが、個人的に、ここ最近影響されている広告は、Kindleでコミック第1巻が無料で読める、です。ついつい2巻、3巻を買ってしまいます。あとは5年前に世に出たモノですが「NIKE+」。みんなのラン報告をみて、走っている人は充実した毎日を過ごしているんだろうな、といつもうらやましく思わされます。これらは商品そのもの、売り方そのものに広告が練り込まれている。

 こうした新しい広告のカタチを今のバスキュールだけで実現できるか? と問われたら、NOと答えるしかありません。プロダクトやサービス設計など未踏の領域に足を踏み込むことになるし、スケジュールも予算も検討がつきません。それでも、チャンスがあるなら、ぜひ挑んでみたい。そして、本当に実現したいなら、様々な領域の人たちと手を組んで「一緒にやろうぜ」と話を進めるしかないんです。

 でも、そのためには声をかける勇気もいるし、金銭的にも失敗したら終わり、というギリギリの局面にも立ち向かえる勇気も必要。このような勇気を持った人が若い人の中でも増えてほしい。そうじゃないと新しいクリエイションは絶対に生まれない。これがBAPAの取り組みの背景にあります。

――勇気ですか?

朴:自分の専門外のところにもコミットできる人間になる、勇気あるクリエイターを増やすことが、BAPAでの目的です。言葉では簡単なのですが、なかなか難しい。うちの社内でも注意しないと、デザイナーとエンジニアが牽制し合って、互いのアウトプットを評価し合わなくなり、クオリティが上がらないことがあります。良い結果が出るプロジェクトは、デザイナーとエンジニアが、かなり早い段階からコミュニケーションしている。お互いに踏み込みあって互いのミッションを理解しあえているので、安心して良い悪いの評価もしあえるのです。

 BAPAには、デザイナー、エンジニアという違いだけでなく、広告、Web、テレビ、メーカー、学生と異なる業界の人材がたくさん集まっています。普段出会えない人たちと意見を出し合って、最終アウトプットを作って、評価を得るという経験をすれば、今までと違う景色が見えてくると思うんです。

――BAPAは技術というよりも、自分の専門領域から視野を広げて、外部へ足を踏み込める人材育成を目指しているのですね。

朴:正直、専門技術を教え込む時間はありません。作りたいものができたら、自分で技術を調べる手段はたくさんある。それより、そもそも作りたいもののレベルを上げよう、とか、自分の守備範囲の領域を拡げようというきっかけづくりが重要だと考えています。

 現在、テクノロジーが進化して、素人作品や人工知能・機械学習が台頭し始めています。そんな時代の中で、「自分たちは何を作っていくのか」を若い人には考えてほしいんです。

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この記事の著者

伊藤 桃子(編集部)(イトウモモコ)

MarkeZine編集部員です。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2015/04/24 13:00 https://markezine.jp/article/detail/22307

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