「広く浅く」「深く密に」を実現するものとは
オンラインでのブランディングの施策においては、様々な仮説にプライオリティをつけて、いろいろと試してみたくなるものだ。しかし、限りある予算を使ってスタートするならば、どの辺りから取り組むのが現実的なのか。
森下氏は「商品やサービスの種類、キャンペーンの内容などで異なる」と前置きしながら、広く浅いオンライン広告と、密度の濃いコミュニケーションが可能なソーシャルメディアを併用することが、現在の現実解の1つと語る。
「ただし、ニューバランスさんの場合、スポーツシューズは一般消費財と異なるため、ターゲットとなる消費者にアプローチしなければ意味がありません。広く浅くといっても、漠然とオンライン広告を行なっても効果は薄まるだけ。費用対効果を考えると、CRMデータなど今あるデータを活用してあらかじめオーディエンスを絞る方が効果的でしょう」(森下氏)
また、ソーシャルメディアではあらかじめオーディエンスが絞りやすい上、コミュニティ内でのバイラルにも期待ができる。ユーザーがFacebookやTwitterに費やす時間は月に何百時間ともいわれ、検索やネットサーフィンをする時間よりも格段に増えている。その上適切にソーシャル広告を使うことでエンゲージメントをブーストすることができ、Marinのソーシャル広告向けソリューション「Marin Social」により、Facebook、 Twitterそしてブランドロイヤリティにとって重要な位置を占め始めているInstagramのキャンペーンを一元管理・最適化することが可能となっており、さらに密度の濃いコミュニケーションの展開の場として、現時点ではソーシャルメディアが最適だという。
なお、オーディエンスを絞り、コミュニティに働きかけることの効果は、リアルにおいても実証されている。ニューバランスでは、マラソン大会の協賛も行っているが、それはたかだかリーチが多くても2万人しか過ぎない。ただし、参加者がソーシャルメディアと連携し自分の記録を自動的にポストし、自分だけの記録ムービーが作成できる「ソーシャルマラソン」の企画をしたところ、5,000人以上が登録し、ブランドへの態度変容など高いエンゲージメントを得ることができたという。
「リアルでもオンラインでも、一度接点を持ったユーザーをブランドファン、顧客にするための施策を考える必要があります。そこに細く薄くつながれるネットの強みがあるといえるでしょう。私たちはテクノロジーを提供する側として、 “広告”をフォーマットにそうした一連の流れを作り出すお手伝いができると考えています」(森下氏)
エコシステムが実現する真のブランディングとは
ブランディングには店舗や製品など、リアルな接触を含めた「全体設計」が不可欠と鈴木氏も森下氏も認める。しかし、そう理解していても、継続的な施策として実現するのはなかなか難しい。その原因はどこにあるのか。
「ブランディング広告側の問題として、どうしてもキャンペーン単位に考え、新製品をローンチしてオシマイ、イベントが終わったらオシマイ、という感覚に陥りがちです。正直、従来のメディアの考え方が、オンライン広告でも残されている印象は否めません」(鈴木氏)
現在は、まだキャンペーンごとにユーザー設定も行い、終わるとリリースする形だ。しかし、実際に結果を分析すると、想定と実際とで異なる点も多く、多数の改善すべき点に気づかされた。そうした経験を経て、一度コミュニケーションしたユーザーとの接点を保ちながら連続した流れを作り、ユーザーに留まってもらいながら、「ライフタイムバリュー」を高めることが重要だと痛感するようになったという。
「広告のコピーが、ビジュアルがという単発でのクリエイティブの品質以上に、ユーザーが気持ちよく繰り返し利用し、コミュニケーションしてもらえるオーガニックなエコシステムを作ることが大切だと考えています。結果をきちんと捉え、それを踏まえて次につなげられる仕組みを構築できると良いのでしょう」(鈴木氏)
リアルイベントも、企業メッセージを込めた動画も、単にクリエイティブや効果だけを考えるのではなく、それに反応する・反応しないユーザーが何を考え、何を望んでいるのかを把握することが肝心だ。そのためにデジタルツールやソーシャルメデイアの活用が有効と考えられるが、「何のためにやるのか」を意識しておく必要があるという。確かに、目的意識を持たないまま、数値的な結果だけを追えば、運用のための運用になりかねない。
「オンラインでの効果把握となると、急にPVやコンバージョンなど数字に振り回され、肝心なユーザーのインサイトを見逃す傾向にあります。目的を踏まえ、そのための情報として数字があることを忘れてはならないことを、関係者全員に理解してもらうことが大切だと考えています」(鈴木氏)
そのために、担当制を廃してマトリクス組織へと再編し、各人が複数の役割をもつ形へと変えたという。業務を横連携させることで、目的意識を強く持ってもらうことがその意図だ。鈴木氏の言葉を受け、森下氏は「運用側からも、目的やビジョンにコミットする重要性を認識している」と語る。
「広告・検索・ソーシャル・動画などを単発で施策を設計することは可能ですが、全体のコミュニケーションデザインを設計することは私たちにはできません。目的や役割を共有し、ブランドそのものを理解することができれば、それによって、テクノロジー側から提案する施策も、結果に対するコミットも変わってくるでしょう」(森下氏)
運用や目的意識というマーケターの視点と、分析や効果に敏感なテクロジー側の視点が歩み寄ってはじめて、裏付けのあるエコシステムが構築でき、継続性の高いブランディングがかなうのだろう。今後、さらなるデジタルとリアルの融合のもと、ターゲットとの関係性を深めることが重要な戦略となることは間違いない。マリンソフトウェアはそのビジョンを共有し、オンラインプラットフォームとしてテクノロジー側からそれを支えていく。