翔泳社が2014年5月に刊行した『Hooked ハマるしかけ』は、これまで暗黙裡に活用されていた「ヒットの法則」を理論立て、解き明かしてしまった画期的な1冊でした。「習慣化」をキーワードに、新サービスをどのようにユーザーへと浸透させ、継続的に使ってもらうかがフック・モデルに従って解説されています。
好評をいただいた本書ですが、今回改めてこの「フック・モデル」を紹介します。また、本書の翻訳者の1人であり、実際にこれを活用して女性のためのファッションSNSアプリ「iQON」を継続的な大ヒットに導いた金山裕樹さんにもお話をうかがいましたので、ぜひ参考にしてみてもらえればと思います。
フック・モデルとは?
著者のニール・イヤールさんによれば、フック・モデルは4段階に分けて考えることができます。トリガー、アクション、リワード、インベストメントです。これらを自社のサービスやいま持っているアイデアに当てはめて戦略を組み立てることが重要です。
トリガーとは、人々がその製品やサービスを使うきっかけをいいます。広告や口コミなどの外的な動機だけでなく、「暇を潰したい」「用事を簡単に片づけたい」など内的な動機もトリガーとなります。フック・モデルのサイクルを回し始めるには、なによりまずターゲットとなる人々にトリガーを引いてもらう仕掛けを作らなければなりません。
トリガーによって顧客のモチベーションを充分に高めることで、アクションが起こります。製品を使ってもらうことをいい、そのために必要な費用や手間をかけてでもアクションを起こしてもらうために、やはりトリガーが重要になるわけです。
アクションを起こした結果、リワードがなければ人々は興味を失ってしまいます。楽しかった、面白かった、認められたと欲求を満たせたり、金銭やプレゼントを得たりできなければなりません。ある研究によると、人間は金銭を得るよりも他者に承認されることのほうが嬉しいのだそうです。
最後にインベストメントが起こります。リワードを得て満足した人々が製品に支払うお金や時間の投資をいい、この投資によって次のトリガーが発動するのです。そうして、習慣化が始まっていきます。
フック・モデルはこの4段階をぐるぐる回すことで、顧客に製品やサービスを習慣的に使ってもらえるようになると結論づけます。もしかすると経験的に分かっていた方もいらっしゃるかもしれません。ですが、理論として一般化されたことで、初めて事業をおこす方であっても使える方法論となったわけです。
iQONはフック・モデルに則って成功した
先にご紹介した金山さんは、iQONを運営するVASILYの代表取締役CEOであり、DevelopersSummit 2015(デブサミ)でiQONとフック・モデルについて紹介していただいています(『Hooked ハマるしかけ』を実践しビジネスをグロースさせた「iQON」)。iQONがいかにフック・モデルを取り入れて成長したのか、非常に明快な論理で説明されており、これ以上ないフック・モデルの事例となっています。
今回は金山さんに、本書刊行後の反響や、フック・モデルの活用と応用についてうかがいました。翻訳者として本書の「はじめに」で、「これはヤバい」という印象的な一言で本書を評していらっしゃいますが、その「ヤバさ」はどれくらい波及していったのでしょうか。
たいへん嬉しいことに、同じスタートアップ業界の方たちからよく「『Hooked ハマるしかけ』を読みました!」というお声をかけていただきました。本書には最近のウェブサービスを事例としてケーススタディが多く掲載されているので、フック・モデルを実際の業務に落としこむときにイメージしやすいという意見も多くいただいております。
出版後はデブサミ2015でフック・モデルをテーマに講演もさせていただきました。当日は会場で売られていた本書が売りきれになったという話も聞いています。いい反響をいただけて本当に嬉しいです。
フック・モデルはどんな製品や業界で使えるのか
本書ではフック・モデルを「習慣的に使われる可能性のある製品やサービス」、特にウェブサービスやアプリなどIT系のサービスに適用できると主張されています。ですが、一見フック・モデルを活用できなさそうな業界でも実は使えるかもしれない、ということはあるのでしょうか。
多くの人に使われているウェブサービスのほとんどは、フックモデルにあてはまると思います。本書が出るまではそれが体系化されて解説されていなかったので、ヒットさせた人たちだけの秘密のレシピみたいになっていたと思うのですが、本書によって秘密のレシピが公開されてしまいました(笑)。
フックモデルの導入が上手という点ではフックサイクルの検証が早くできるIT系ということになってしまいますが、あくまでスピードの点というだけの比較論だけだと思っています。
思いきったことを言ってしまうと、顧客が何度も利用するシーンがあるような業態――例えば美容院などのIT系でない「サービス業」でもフックモデルによる習慣化が可能だと思います。本書に書かれているすべてのポイントがあてはまるわけではないですが、どこか応用できる点は少なくないのではないでしょうか。
また、日々の生活も不思議とこのモデルに当てはまる点が多いと思います。それほどこのモデルは応用が効き、柔軟性の高い優れたフレームワークだというわけです。
日常生活においても、習慣づければこなせるようになることもあるということですね。それは例えば、ダイエットや禁煙などが考えられます。いろいろなことを三日坊主ですぐにやめてしまう方は、フック・モデルを試してみるといいのかもしれません。
時間はかかっても、フック・モデルでサービス設計をする
最後に、金山さんに本書を読んでもらいたい方や、これから読もうとしている方にアドバイスをいただきました。
自社で運営しているサービスが伸び悩んでいる方、これから新規に事業を立ち上げようとしている方は特に、騙されたと思って自社のサービスをフック・モデルに当てはめてみてください。きちんとフック・モデルに沿ってサービスを設計していけば、時間はかかるかもしれませんが、きっと成長を達成できると思います。
本書に書かれていることをストレートに実行しチェックすることをおすすめします!