ツールの前に、まずは自社のビジネス課題を考える
この1、2年の間に、マーケティングオートメーション(以下、MA)の概念は日本のデジタルマーケティングシーンに一気に浸透した。ツールも続々登場し、現在では各社がそれぞれ強みを打ち出して、クライアント数を伸ばしている。中でもMA市場を牽引するプレーヤーとなっているのが、マルケトだ。
2007年に米サンフランシスコで創業した同社は、2013年にナスダック上場という異例の成長を遂げ、現在のユーザー数は4100社。日本法人も開設1年半の間で着実に存在感を増し、国内導入ユーザーは150社を超える規模となっている。MAツール専業ベンダーとして製品開発への投資に積極的で、パートナー企業との連携による機能拡張のスピードも著しい。また、東京ユーザー会を立ち上げ、ユーザー間のナレッジ共有にも注力している。
「よく、MAツールはどのような業種や業態で有効かと聞かれますが、本当に幅広く活用できるツールであるというのが現状です」と福田氏は語る。
実際、マルケトのユーザーはBtoB、BtoC問わず、また大手から中堅中小企業にまで偏りがない。業種も製造からITベンダー、コンシューマーサービス、不動産やNPOまで非常に多岐に渡る。MAツールを検討中の企業にとっては「自社で本当に役に立つのか」を知りたいところだが、福田氏はそういった問いに対し「ツールありきではなく、まずは自社のビジネス課題を考えてみましょう、とお答えしています」という。
今自分たちはどこにいるのか、企業の4つのステージ
自社のビジネス課題を考えるにあたって、第一歩となるのは「自社がどんなステージにいるのか」を明確にすることだ。一般的にいわれる企業や事業のライフサイクルには、Start up、Growth、Maturity、Declineの4つのステージがある。
今向き合っている事業が、これらのどの段階に位置しているのか。そして、解決したい課題は何なのか。「MAツールは、これらすべてのステージで役に立つと思っていますが、課題によって機能のさせ方が異なります」と福田氏は解説する。
例えば、Start upというと起業や新規事業の立ち上げをイメージするが、海外へ新たに市場を広げる場合などもこのステージに含まれる。ここでは、ブランド認知や新規顧客獲得を主なテーマとしてMAツールを適用できる。あるいは、成熟した市場での利益確保が求められるMaturityのステージでは、クロスセルやリテンションがテーマになるだろう。
なかでも福田氏が「最もMAツールが有効に働く」と語るのは、企業や事業をスケールさせる、Growthのステージだ。「この場合の『スケール』にうまく当てはまる日本語がないのですが、Growthの段階では予算や人員などのコストに見合う順当な成果だけでは足りないと私は考えています。コストに比して、ぐっと成果が高められるかどうか。これがその後の成長を左右しますし、MAツールが効果を発揮するポイントでもあります」
多くのマーケティング部門が抱える課題
とはいえ、通常のマーケティング活動において、飛躍的に成果を高めることは簡単ではない。福田氏はこの1年半の間、主に企業のマーケティング部門を支援する中で「業種業態で多少の違いはありますが、多くの企業で同じことがマーケティング部門の課題になっていました。それは、営業部門との連携が不十分であることです」と語る。
背景にあるのは、扱うデータ量が膨大になっていること。特にGrowthのステージでは見込み顧客リストを増やし、勢いよくアプローチしていく必要があるが、リストが増えると人手による対応ではどうしても画一的なアプローチになってしまう。すると、まだ温まっていないリードも営業へと引き渡してしまい、マーケティング部門ではコントロールできないまま担当任せとなって、成果にもつながらない。
そもそも顧客は営業にアプローチされるのを好まないし、営業もすべてのリードをフォローする時間はない。「営業は『見込みの高いリードを供給してほしい』といい、マーケティングは『現実はそんなに甘くない、引き渡したリードを活かしてほしい』と主張する……。このように、営業とマーケティングの仲が悪いという状況は多くの企業で課題になっています」(福田氏)
宝の山を見逃すな! 農耕型マーケティングのすすめ
一方、理想的なモデルは、リードナーチャリングをしっかりと行うこと。見込み顧客リストが増大してもパーソナライズなアプローチを実現し、個々にエンゲージメントを築いた上で、購買に達するステージだと判断できるホットリードのみを営業へ引き渡す。
「これによって、スムーズな受注につなげられます。ただし言うは易し、行うは難しで、実際にはここにまだ大きなチャレンジがある。マルケトのMAツールでは、この部分をカバーして、事業のスケールを実現しています」(福田氏)
では、具体的にリードから受注までの流れをどのようにカバーしているのだろうか? ここで福田氏は、同社の考え方でもある「農耕型マーケティング」を提示する。多くのマーケターが「リードからの案件化率」「案件からの受注率」を追っているが、これでは刈取り一辺倒の焼畑になってしまう。その各ステップでこぼれてしまうリードに注目。これらを案件化し、受注へとつながる流れに復活させるのが「農耕型マーケティング」だ。
「私もBtoBのマーケターを長く経験してきましたが、獲得リードを育てて受注する確率はだいたい2~3割だと思います。裏を返すと、7~8割は脱落してしまう。でも、的確にアプローチしさえすれば、ここからまたリードナーチャリングの流れに乗ってもらうことはできるのです。未案件や失注、ご無沙汰の顧客、あるいは成約済みでも別の顧客を紹介してくれそうな優良顧客など、このあたりはまさに“宝の山”なのです」(福田氏)
MAで省く、農耕型マーケティングの煩雑な作業
むしろ、この農耕型の発想でなければ、前述のGrowth段階での急激なスケールは叶わないと福田氏は語る。「もっと“宝の山”に目を向けて、新規獲得リードのみにこだわらずにナーチャリングをすれば、それが成果に反映され、ビジネスが潤います。これを煩雑な作業なく実現するのが、私が考えるMAの概念であり、マルケトのツールが貢献できる部分です」(福田氏)
では、具体的にどのような機能によって、リードを復活させることができるのだろうか?
ひとつは、自社のビジネスプロセスを定義する機能。匿名状態からセールスリード化、商談、獲得といったプロセスを明確にし、新たに接触した見込み顧客がどの状態にいるかを振り分けることができる。条件設定によって、競合企業や学生など対象外のユーザーを除くことも可能だ。一度脱落したリードは「リサイクル」状態とし、何らかの動きがあれば適切なプロセスに戻したり、営業へアラートを飛ばしたりすることができる。
もうひとつ有効な機能は、「今」でない見込み顧客をフォローする仕組みだ。スムーズに案件化、受注へつながらなかったリードは、タイミングが「今」ではないということも少なくない。そこで、まだ関心が薄い展示会参加者には啓蒙的なコンテンツを、製品ページの閲覧が進んだら事例集を送るなど、それぞれの状況に合った接触を実現する。
既存顧客にも有効なリードナーチャリングの概念
「リードナーチャリングの概念は、新規獲得に有効といわれますが、例えばシステム導入後の企業に活用のヒント集を送ったり、あるいは通信などの契約終了前に契約更新を促すコンテンツを送ったりと、既存顧客との関係構築や離脱防止にも有効です」と福田氏。あらかじめ設定しておくことで、これらのアプローチはすべて自動で行われ、途中でコンテンツの更新などがあっても送付の重複や漏れを防ぐ機能も備えている。
こういった緻密なアプローチを自動で行う肝になるのが、マルケトのMAツールの根幹となる「リードデータベース」だ。ここにあらゆるプロファイルと行動データを蓄積していくことで、細かなセグメンテーションが可能になるのだ。
これら一連の設定と施策の実行は、操作性に優れた管理画面から簡単に行える。本講演の後半では、展示会の準備から実施後のリードナーチャリング、セールスとの連携、成果分析までのデモンストレーションが紹介された。広告やWeb、CRMなどで分断しがちな投資対効果を一貫してトラッキングできる点も、マルケトの優位性のひとつだ。また、高度なスコアリングモデルを通して、営業が優先的にフォローすべき人も明らかになる。
最後に福田氏は、MA活用の多様性を示し講演を終えた。「さまざまな情報から顧客を深く知り、顧客のライフサイクルを統合管理するのがマルケトのMAツールです。新規リードを温めて渡す以外にも、幅広い使い方ができることを実感していただけたらと思います」(福田氏)