マーケティングオートメーションは「営業のサポートツール」
MarkeZine編集部(以下、MZ):今ブームになっている、マーケティングオートメーション(以下、MA)ですが、受注率を飛躍的にアップさせる魔法のように思われながらも、実際には活用しきれていない企業も多いですよね。
安部:おっしゃる通りで、MAは運用や設計がとても難しい。人間でも一人の営業マンを育てるのってすごく手間がかかりますよね。それをテクノロジーとはいえバーチャルで作り上げるのはさらに難易度が上がります。ターゲットとなる企業のペルソナを立て、立てたペルソナに合わせたコンテンツを考え、どのタイミングで接触させるかというカスタマージャーニーを設計する。この一連の流れを何度も繰り返すため、かなりの工数がかかります。
また、スコアリングやリードナーチャリングなどMAに関するキーワードを理解していても、実装の段階でつまずいていて、MAをただのメールマーケティングツールとして使っている企業は多いなと。でも、それではMAの本当の凄さは実感できないと考えています。
MZ:では具体的に、MAを活用するにあたって押さえるべきポイントを教えてください。
安部:まずMAを活用する際の前提として、営業のサポートツールだと理解することが重要です。MA活用に失敗している組織はだいたい共通して、この前提部分が押さえられていません。サッカーで例えるなら、営業は売上や利益を出すFW(フォワード:ゴール前で得点を狙う役割)、そしてMAはそれを支えるMF(ミッドフィルダー:攻守両面を担う役割で、フォワードの得点につながる動きもする)です。MFがFWに“良質な”パスを送れば、FWは悠々自適にプレーをしてゴールを決められますよね。一方、どれだけ量が多くても使えないパスだと、FWは散々走らされた結果、見当違いの場所に行かされて疲れただけ、といった事態に陥ります。
これは営業部とマーケティング部の関係でも同じで、マーケティング部は展示会や問い合わせなどで得られたリードを営業に大量に送ります。でも営業部は、“もらったリードで受注につながった試しがない”と内心思っていることもあるでしょう。その一方でマーケティング部はこのように思うのではないでしょうか、“あれだけのリードでなぜ受注が取れないんだ”と。どの組織にもこういった問題は起きています。
つまりMAの理想形は、営業があと一押しで売上や利益が出せる状況までナーチャリングしたリードを送れる存在でなければなりません。そして実装に関しては、“営業の世界観を加味すること”が不可欠です。
強い営業組織に必要な3つのポイント
MZ:営業の世界観を加味するとはどういうことですか。
安部:それは“強い営業組織”とは何かということを考え、それを実装段階で反映することです。私はキャリアのほとんどを営業組織に費やし、その全てでトップの成績を収めてきました。また、100社以上の営業組織に対してコンサルティングも行ってきました。そのような経験を経て、「強い営業組織」は3つのポイントが徹底されていることが判明しました。1つ目はKPIの徹底したマイクロマネジメント、2つ目は実績と目標のかい離が少ない予実管理を徹底すること。そして3つ目は、組織や人ではカバーできない永遠の課題とされるリード管理。このリード管理を改善することが、MAに与えられた大きな役割のひとつです。
例えば会社に営業マンが10人いて、1人あたり30件ずつ、計300件の新規訪問をした場合、どんなに優秀な営業が揃っていても、受注率は良くて10%くらいでしょう。つまり90%の270件は、失注リストとして毎月蓄積され、3ヶ月目には810件、半年経てば1,620件にも増加していくのです。
ただ、このリストの中には「半年後であれば検討できる」など未来に受注する可能性のある案件も入っているわけです。そこで問題になるのは、それを営業マンが半年後しっかりと案件を追っているのか。大半の会社は「No」と答えるでしょう。営業の特性上、営業マンは目の前の数字を追ってしまうもので、本気で管理する場合はそれだけで1日が終わってしまいます。そして放置されたリードは他の会社にいつの間にか受注されてしまう。これが営業組織の現状です。
どんなに厳格な営業マネージャーがいても、先述の増加し続ける失注リストを全て管理するのは不可能です。また、見込み客の獲得には費用も人的リソースもそれなりに割いているはず。仮に1件あたり3万円で獲得できていたとしても、半年経てば3,000万円以上の“資産”が失注リストとして眠ってしまうことになるのです。