働く場所、暮らす場所としてのシンガポールは?

佐藤:一般論として、働く場所として、そして暮らす場所としてのシンガポールは、どうですか?
小木曽:働く場所としては、チャンスがある感じがします。2015年中予定のASEAN経済共同体(AEC)実現を前にして、経済がドライブしている。法律や規律がちゃんとしてるので、外国人でもやっていける。治安がいい。多国籍の人が働いているので、シンガポール一か所にいながら、いろんな国が見えるという良さもあります。ある意味のハブなんですね、ここは。
佐藤:デメリットは、特に感じませんか?
小木曽:今のところ、特に感じませんね。暮らしやすいですしね。いい意味で、小さいんです。通勤は30分以内。通勤ストレスがないのも大きいメリットです。
佐藤:読者の中で、シンガポールで働いてみたいと思う人に対して、何かアドバイスはありますか?
小木曽:おすすめしますね。特に、英語さえある程度できれば、世界で通用する仕事っていくつかあると思うんです。プログラマー、デザイナー、マーケティング関係。これらは国を越えて横移動できる可能性があります。マーケティングも、日本は成熟社会だからかなり高度なことをしていますが、国によってはもっと原初的なマーケティングで充分役に立つんです。マーケティングの専門家にとっては、簡単に感じる課題も少なくなく、日本人が活躍できる素地は十分にあると思いますね。
佐藤:広告代理店経験者も?
小木曽:実は僕が今の会社の役員をすることになったのも、広告代理店で培ったスキルやノウハウのおかげなんです。代理店マンて、相手の説明が上手くなくても、相手が何を言いたいか聞きとる能力を磨くじゃないですか。初めての人が相手でも、相手が何を言ってるかわかる。最初、シンガポール進出の情報提供をしていただけなんですけれど、相手の課題が僕にはよくわかって、情報提供以上のお手伝いをし、そうしているうちに役員をやってくれ、という話になりました。
佐藤:他に、必要なものって、ありますか?
小木曽:働くことに対するOS(オペレーション・システム)みたいなものを変える必要はありますね。終身雇用でもないし、年齢で給料が上がるということもないし、“あ・うんの呼吸”も存在しない。例えば、初めてのインド人とも仲良く働けないといけない。これはもう、コンピュータでいうところのOSが変わるようなこと。実際、駐在員でOSを変えられずストレスを抱える人も少なくないようですしね。
日本の働き方がもっと自由になってほしい。本連載ではその中でも、「Where=場所」について、数回にわたってインタビューをお届けしています。以前に出した著書でも僕は、「なにがなんでも会社で働く」と「とにかくフリーになる」の間を模索しても良いのでは?という発想で、第三の働き方として「モジュール型ワーキング」を提唱しました。そんなより良い働き方の要素として、場所も重要なものになってくるはず。小木曽さんも、「シニアは残された年月をどう生きるか。若者は長い仕事生活をどう過ごすか。複眼で考えれば当然、場所も重要になるはず」と語っていました。この後も、東京以外の場所に拠点を移すことを選び取った人々の、さまざまな生き方や考え方や状況を、引き続きお届けして行きます。