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溢れる動画コンテンツの中でキラリと光るためにすべきこと、おんせん県の「シンフロ」PR戦略に迫る

 大分県のPR動画「シンフロ」をご存知だろうか? 公開2か月で100万回再生を超える同動画。ソーシャルメディアにシェアをした視聴者の約40%が投稿に何らかのコメントを書き加える等、確実に見た者の心を掴みながら拡散することに成功した。多くの動画が溢れる現在、このプロモーションはどのように展開されたのか。今回、動画を制作した西広とPRを担当したPR TIMESに舞台裏を聞いた。

おんせん県おおいたが送り出した動画“シンフロ”とは?

 女性が温泉でシンクロナイズドスイミングをする動画「シンフロ」をご存知だろうか? 大分県内の温泉を舞台に、オリンピックメダリスト・藤井来夏氏が主宰するシンクロナイズドスイミングチーム「RAIKA ENTERTAINMENT」が、「OK Go」のPV等を手掛ける「振付稼業air:man」の振付によるシンクロナイズドスイミングを、国内外の広告賞で多数の受賞歴を誇る「invisible designs lab.」の清川進也氏が手掛けたBGMに合わせて演技するという動画。源泉数・湧出量日本一の“おんせん県”である、大分県のプロモーション動画だ。

 

 このシンフロは、リリース後2か月で再生100万回を突破している。動画コンテンツがあふれ、単純に制作するだけでは埋もれてしまう現在。多くの人に見てもらえ、きちんと成果を出す動画プロモーションを実現するために意識すべき点は何か。コンテンツ制作サイドの視点から、成功の秘訣を聞いた。

お話を伺った株式会社西広ソリューションプランニング局プランニング部マーケティンググループ一ノ瀬萌氏(左)、株式会社PR TIMESマーケティング本部マネージャー千田里美氏(右)
お話を伺った株式会社西広 ソリューションプランニング局 プランニング部 マーケティンググループ 一ノ瀬萌氏(左)
株式会社PR TIMES マーケティング本部 マネージャー 千田里美氏(右)

 福岡に本社を置く西広は、九州全域に支社を構える総合広告代理店。一ノ瀬氏は、プロモーションの企画立案から戦略構築まで広く担当している。シンフロでは、プランナーとして戦略プランニングに参画した。一方、PR TIMESはデジタルに強みを持つPR会社。同社の千田氏は西広が制作したシンフロのポテンシャルを活かしたWEB領域のPRを担当した。

WEBとTVの好循環が拡散を生む

MarkeZine編集部(以下、MZ):まず、「シンフロ」の概要とプロジェクトの流れを教えてください。

一ノ瀬氏:シンフロは、2015年10月5日にリリースした動画プロジェクトです。大分県様は2012年より、「日本一のおんせん県おおいた」というテーマでプロモーション活動をされています。今回の動画も、そのブランド推進活動の向上が目的です。

 プロジェクトの流れとしては、2015年春から当社でのプランニングがスタートし、夏から実際の動画撮影を行いました。このタイミングで、PR TIMESさんにPR施策のご相談をしました。動画のリリース日には、大分県知事による記者会見の直後に、ニュース配信を一斉に行い、特に認知を広げたい関西エリアでは、テレビCMも放映しました。

MZ:とても目を引く動画ですが、視聴ターゲットはどういった層なのでしょうか?

一ノ瀬氏:属性は特に設定していませんでしたが、次の3つの層をイメージしました。

  1. TVCM・TV番組視聴者、
  2. WEBニュース視聴者、
  3. WEB動画コンテンツ視聴者

 戦略的にはWEBニュース視聴者とWEB動画コンテンツ視聴者に向けたアプローチをベースとして、TVCM・TV番組視聴者はWEBでの閲覧を活性化するためのエリアフックとして考えていました。

 リリース後の動画アクセス分析や、ソーシャルリスニング分析からは、活性化するタイミングは朝と夕方の通勤・通学時間、ニュース番組放送時間、そしてであるYahooニュースや人気動画サイトに情報がアップされた時間だということがわかっています。ですから狙い通りWEBをメインに、TVでの情報に触れた人に上手くアプローチできたのではないかと思います。

 また、ニュースサイトからのツイートやシェアの拡散のスピード感が際立つと同時に、TVがツイートのきっかけとして機能していることも実感しました。加えて、WEBの大きな反応をキー局の情報番組で取り上げていただくという流れもございました。そのことで、さらにWEBでの視聴者が増えるという好循環を生むことができました。

発信したくなる「余白」をつくる

MZ:幅広い人に向けてコンテンツをつくり、WEBを中心に話題化させるというのは容易なことではないかと思います。どういった点に気をつけて、クリエイティブを制作したのでしょうか。

一ノ瀬氏:私はクリエイティブの企画には関わっておりませんので、クリエイティブスタッフに聞いた話ですが、「お風呂でシンクロ」という面白さとあわせて、大分県関係者の方々にも発信者になってもらうことをポイントにしたとのことです。大分県在住の方、出身の方、訪れた事のある方、そういったみなさんを刺激して、「この動画を誰かに伝えたい」と思っていただけることを狙っています。

 大分県はJRおおいたシティの開業や大分県立美術館の開館など話題が満載です。そのような部分も第二弾の動画「ご当地サウンド篇(Orchestration Of Oita)」では意識し、温泉だけでなく新しくなった大分を知っていただくようにています。全18市町村を回って録音した様々な音を組み合わせて、動画のBGM(大分出身の滝廉太郎作曲の「春」)を制作しました。この「シンフロプロジェクト」は大分が進める「新プロジェクト」とかけてあります。

 

 こうして一般の方々と街を巻き込むことで大分県の勢いや人の温かさが伝わるものになりました。さらに温泉名など県の情報を散りばめることで、視聴者はそこに自分の情報を乗せて発信したくなる「余白」を動画に持たせられたと考えています。

MZ:実際に、再生回数や情報拡散の成果はいかがでしたか?

一ノ瀬氏:公開から約2か月で動画は100万回以上再生されて、2015年12月段階では106万回再生。海外では、特に台湾でニュースに取り上げられたせいか、23万回以上再生されています。

MZ:多くのかたが視聴したのですね。PRの面ではいかがでしたか?

千田氏:PRの面では、WEBの拡散を目的に活動しました。作品としても完成度の高いシンフロ動画の「実力」をどう引き出すか、WEB拡散の起点を如何に作っていくかが最大の焦点でしたね。結果的にWEBのニュースでは300媒体以上に取り上げられ、TVでもキー局を中心に12番組ほどに取り上げられました。動画の公開当日から4~5日はずっとお祭り状態のような感じで、公開から2か月以上経った今も、番組の自治体動画まとめなどには必ずエントリーし、その中で大分県のシンフロが特にフィーチャーされるという新しい流れができています。

 ただ、今回の目的はPRでありがちな「露出獲得」ではなく、大分県の観光推進に寄与するようなブランドリフトの実現でした。動画をPRする場合、どうしても再生回数が定量的な評価としてついてまわるので分かりやすく“表に出ること”を目指したくなります。ですが、今回の最大の狙いは、この動画に接触した人たちの「大分県」に対する好意的な気持ちが強くなること、「大分県っていいよね」という“望ましい”広がり方をすることでした。情報をただ単にばらまくだけではコンテンツへの共感は生まれないので、「どんな人が、動画のどの部分を面白がって見るのか」を徹底的に考えて実践に移って行った感じですね。

 今回「あぁ上手く伝わったかもしれない」と実感できたのは、WEBニュースや動画をシェアする際に、自分自身のコメントと共に発信する方が多かったことです。多くのWEBメディアがシンフロの見どころを伝えてくれたことで、楽しんで動画を見てもらう雰囲気を作ることができた。定性的な効果ですが、動画本来の魅力に加えて、何か言葉を乗せてシェアしようという行動につながった要因だと考えています。

MZ:単純にシェアボタンを押してもらうだけでなく、自分の気持ちを書いてもらうところまで、行動を促すことができたのですね。

千田氏:その通りです。シンフロ動画には、わざわざコメント投稿までつけてシェアしてくださる方が約40%いました。これは同じ時期に100万再生を超えた他の動画に比べると、約3~4倍程度高い数値でした。PRによるブランドリフトはまさに調査段階ですが、動画市場は、今や500億以上という規模に発展しており、動画コンテンツは飽和状態です。情報の出し先を間違えると、どんなにクリエイティブが素晴らしくても、埋もれてしまうリスクがあります。この状況の中で動画を視聴してくれて、さらにそれを誰かに伝えたいと思ってもらうことは本当に難しい。ブランドリフトを目指すのであれば、コンテンツに共感させるポイントの見極めも重要かと思います。

奇をてらわず、素直に良さを伝える

MZ:動画の視聴者はどのような反応をされていますか?

一ノ瀬氏:ポジティブな評価が圧倒的に多かったです。投稿いただいたコメントには「シンフロ」とともに「大分県」「おんせん県」「すごい」という言葉が一緒に入っていました。大分県に「もっと地元に貢献したくなった」という声も寄せられました。さらに、大分出身の有名人がツイートをしてくださり、そこからファンの方に視聴していただくなど、想定していなかった層にも動画が広まったように感じます。

MZ:最終的には大分県の認知向上やブランドリフトが目的だと思うのですが、その面での成果はいかがでしたか?

一ノ瀬氏:ブランド調査では「大分の温泉は数が多い」という印象が向上する結果が出ていました。さらにある温泉施設によっては売り上げが伸長したケースもあり、一定の効果があったかと思います。

 数字も重要ですが、今回の動画は大分県にとっても、視聴者にとっても、「ポジティブシフト」であったことは大きいと考えています。「妹から勧められて見て、涙がでた」「久しぶりに大分に行ってみようかな」等のコメントがたくさんありました。なかには、全く大分県に関係ない方でも「この動画を見たら、霧が晴れたような気持ちになれる」と言ってくださった方も。全体的に好意的な声をいただきながら、きちんと動画が広まる嬉しい結果を得られました。

千田氏:それだけ、シンフロ動画には何か訴えるパワーがあるということだと思います。動画コンテンツによってはユーザーの議論を呼ぶために、あえて賛否両論のあるネタを仕掛けたり、「●●すぎる」系のいわゆる奇をてらったものもありますが、シンフロ動画の良さは、県の資産や魅力を素直に表現している点にあったと思います。

「拡散はどこで火がつくのか」良い循環をイメージする

MZ:既に少し触れていただきましたが、PR戦略は、どのようなフローで進められたのでしょうか?

千田氏:PR戦略では、ネットニュースの波をつくることを目指しました。記者にとってのニュースソースはプレスリリースだけではありません。ネット上で話題になっているもの、話題になるポテンシャルが高いものなど、“間違いないネタ”かどうかを吟味して、記事にします。読者が面白いと思ってくれなければ意味がないので、タイムリーに報じることよりも良質なコンテンツを選びたい、であるならばPRにおいてまずすべきことは、手当たり次第に情報提供するのではなく、どこが「火付け役」のメディアになるか、考えることです。

 今回であれば、上質なクリエイティブ・コンテンツが好きな読者が多い媒体、ソーシャルを利用して、かつ楽しいことが大好きな読者が多い媒体に絞って、アプローチしました。ここの露出が叶えば良い循環ができると思っていたので、動画の見どころだけでなく、昨今の自治体広報の活性化や、おんせん県おおいたのプロジェクトの歴史など、プレスリリースには書かなかったことも挟みながら、単に面白いだけの動画ではないこともお伝えしていった感じです。

 このあたりのメディアが記事を書いてくださったことで、そこから急激にWebニュースが増え、数日のうちにTV放映もされていました。「SNSの反応があると書きやすいよ」という記者の方には、公開日以降の反響をまとめて、そのあたりも記事で触れて頂きましたね。肝心なのは、メディアが能動的に動いてくれたときにストレスなく記事化できるかどうか。そのためのプレスリリースであり、「こんな関連情報もありますよ」というちょっとしたメール連絡だと思っています。

「シンフロ」と他のコンテンツの違いとは

MZ:PRの観点で、シンフロが持つ特長や、他のコンテンツとの違いは何でしょうか?

千田氏:クリエイティブ面が素晴らしいというだけではなく、なぜ動画を使うかの目的が明確にあることでしょうか。「水深50cm、真夏の温泉で、本気のシンクロナイズドスイミング」という意外性や、「振付師に有名アーティストを起用」という作品力を裏付ける話題性もある。そして「拡散」に対する前向きな気持ちがあったことも大きかったと思います。PRする上ですべてがカチッとはまるストーリーがあることは非常に重要な事だと思います。

MZ:では、最後に制作の観点で、何か成功の秘訣があれば教えてください。

一ノ瀬氏:今回はクライアントである大分県様に大変助けていただいたことが大きいと思います。温泉でシンクロは斬新なアイディアかと思いますし、様々なリスクも考えられます。ですが、「面白そう挑戦してみよう!」と前向きにとらえていただきました。さらに、依頼したら制作サイドにすべてお任せ、ではなく非常にフラットな関係をつくっていただけました。双方に意見交換をしやすい環境ができたので、相互に「やりたかったけど、できなかった」といったフラストレーションを抱えることなく進められたと思います。

千田氏:西広さん経由で大分県の広報担当の方への取材可否をお伺いしたことがあるんですよ。大きな組織だと、返答をいただくまでに数日かかることも多いのですが、翌日にはすぐ了承の連絡をいただきました。西広さんと大分県様との強い連携を感じましたし、チームとしての強さも感じました。

MZ:今回の動画プロモーションは、クライアントサイドの目的意識の高さと柔軟さ、西広さんのストーリー性のある動画制作、PR TIMESさんのWEBにおける情報拡散戦力が巧みに組み合わさったものだったのですね。本日はありがとうございました。

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この記事の著者

東城 ノエル(トウジョウ ノエル)

フリーランスエディター・ライター 出版社での雑誌編集を経て、大手化粧品メーカーで編集ライター&ECサイト立ち上げなどを経験して独立。現在は、Webや雑誌を中心に執筆中。美容、旅行、アート、女性の働き方、子育て関連も守備範囲。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2016/01/25 10:16 https://markezine.jp/article/detail/23643