ターゲティングメディアに必要なマーケティングの感性
瀬尾:もうひとつ、現代ビジネスの好調ぶりには現編集長の奮闘も欠かせません。昨年6月、僕から新書出身の川治豊成へと編集長を代替わりしました。以前も、こうしたメディアにしては少なめの1日10本ほどの更新でしたが、彼の方針でさらに5本程度へと減らしました。その分、1本に時間をかけて、質をさらに高めているのがこの1年での成長にも表れています。
押久保:新書出身とは、意外です。それは瀬尾さんがリクエストされたのですか?
瀬尾:書籍編集者がいいと、上層部に強く希望は伝えましたね。彼は現代新書一筋12年、その間に福岡伸一先生の『生物と無生物のあいだ』をはじめとして多くのヒットを飛ばしています。
なぜ書籍かというと、雑誌編集者はどちらかというと、船長である編集長の方針に従う戦艦の砲撃手みたいな感じなんですね。じゃあ雑誌の編集長はというと、講談社の場合は総合誌になるので、読者はマスを狙っている。僕らが今考えるデジタルメディアは、ターゲットを絞ったところに戦略的に届けることを狙っているので、もう少し狭いんですね。
現代ビジネスはマスを狙っていない。前述のように若く知的な読者をつかんでマネタイズしている、ターゲティングメディアです。それは、ひとつの企画の舵を取って編集を含めて、どこの誰に読ませるかまでマーケティングを展開する書籍編集者が近い。だから、そんな希望を出しました。
メディア企業とネット系企業の知見の融合に可能性
押久保:少し視点を変えて、今、いわゆるネットを主戦場にする企業がメディアを立ち上げる事例が増えています。こうした動きをどうご覧になっていますか?
瀬尾:とてもいいことですよね。新規参入があるということは、業界が活性化します。僕らもネット企業と組めるところはどんどん一緒にやった方がいい。
そのためには、新しい仕組みが必要です。例えばユーザベースに出資したように、メディア企業の強みを活かした組み方もあります。コンテンツを提供して彼らが大きくなれば、なんらかの形で返してもらって、それをまた僕らは書き手に還元していく。ベンチャー企業のスピードや技術力には、僕らはかなわない部分もあるので、得意なところは任せればいいと思っています。
押久保:書き手を育てるように、ベンチャー企業も育てる発想なんですね。
瀬尾:そうですね。元々僕らは書き手や作家を育て、読者をつなげる空間、今でいうコミュニティを育てることを得意としてきました。それによってブランドの付加価値を増やしてきたので、そこに企業やWebメディアも加わるのが21世紀型の出版社のビジネスモデルなのだと思います。
もちろん、ネット系企業が脅威ではないと楽観しているわけでもないので、多角的に戦略を練っていきます。また、僕らはコンテンツ力には自負がありますが、それらをデジタル上でデリバリーする力はまだ足りない。プラットフォームやソーシャルメディアは、僕らの足りないところを補ってくれます。

デジタルによって拡大する出版のフロンティア
押久保:この3月、講談社はジャーナリズム×デジタルメディアをテーマとした「デジタルジャーナリズム・フォーラム」の初開催を主導されました。この狙いをうかがえますか?
瀬尾:ネット系企業がニュースメディアに次々と参入する今、僕らの知見と彼らのデジタルを中心とした知見が融合すれば、この領域はもっと発展するはずです。やはり交流してみると、お互いの常識や認識が違うところがけっこうありました。人材の交流も今より進むでしょうし、当社も求めているので、今後も積極的に議論の場を設けたいですね。
押久保:それは楽しみです。最後に、今後の展望をお聞かせください。
瀬尾:直近では、好調のデジタル2媒体をスケールアップさせ、続く2媒体を軌道に乗せていきます。まだ詳しくは明かせませんが、新メディアの構想もあります。ひとつ思っているのは、やはり出版社のリソースの中で書籍の存在は大きいんですね。当社でも電子書籍が好調ですが、まだ紙のパッケージを電子化した域を出ていません。デジタルの機能で優れているのはアーカイブ性だと思うので、そうした部分にもっとフォーカスして、もっと書籍というコンテンツが売れる仕組みをつくっていきたいと思っています。
デジタルによって、出版のフロンティアは拡大しています。たとえば今の10代は、ニュースをほとんどLINE NEWSで得ているそうです。新聞離れといわれますが、昔の10代もそんなに新聞に熱心ではなく、むしろニュースに触れる場は広がっているといえますよね。ネット系企業は競合とも取れますが、競争環境は逆にチャンスです。前向きに、新しい挑戦をしていきたいと思います。