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トヨタがエンジンを擬人化? 若年層へ向けた施策Twitter活用施策「プリガー」とは

 トヨタが行う4代目プリウスのプロモーション「PRIUS! IMPOSSIBLE GIRLS」をご存知だろうか? 昨年12月のモデルチェンジにあわせて、プリウスに採用されているユニットや部品等のうち、40種類を擬人化した施策だ。Twitterを中心に様々な媒体で展開された同取り組みは、何を狙ったものだったのか。戦略と運用の舞台裏を取材した。

トヨタが擬人化プロジェクトに取り組んだのはなぜ?

 トヨタ・4代目プリウスの、若年層向けプロモーション「PRIUS! IMPOSSIBLE GIRLS」(以下、プリガー)をご存知だろうか? 4代目プリウスは「クルマづくりをゼロから見直しつくりあげたクルマ」。その新しくなったユニットやパーツのうち、40種類を擬人化し、性能や乗り心地を紹介した施策だ。Twitterをハブに、様々な媒体でキャンペーンを展開し、これまでのプリウスへのイメージを一新させた。

 これまでのトヨタからは考えられないユニークな施策は、一体どのように実施されたのか。トヨタマーケティングジャパンの齋藤隆幸氏と樋口雅信氏および、Twitterの河本太輔氏に詳しい話を聞いた。

 齋藤氏は、今回の4代目プリウスのプロモーション担当。施策全体を統括している。樋口氏は、デジタル担当としてオウンドメディアやソーシャルアカウントを含む広告戦略に携わっている。

右から株式会社トヨタマーケティングジャパンプロモーション室 第1プロモーショングループ 主任 齋藤隆幸氏、同社メディア・総括室 メディアグループ 樋口雅信氏(※樋は木へんに通)、Twitter Japan株式会社河本太輔氏
右から株式会社トヨタマーケティングジャパンプロモーション室 第1プロモーショングループ 主任 齋藤隆幸氏
同社メディア・総括室 メディアグループ 樋口雅信氏(※樋は木へんに通)、
Twitter Japan株式会 社 ストラテジックアカウントセールス アカウントエグゼクティブ 河本太輔氏

デジタルネイティブの日常に馴染む文脈が擬人化だった

 プリウスは2015年12月、「もっといいクルマづくり」を徹底追及しパーツを含めて全く新しく生まれ変わった。プリガーは、その際に実施されたキャンペーンだ。プリウスといえば、日本を代表するハイブリッド車として広く知られている。その一方で、これまではトヨタが提供する車種のなかでは比較的年齢が高いオーナーも多かった。そのため、若い世代にも魅力を伝えることが重要課題だったと齋藤氏は語る。

 「現在『若者の●●離れ』という表現を目にすることが多いかと思いますが、クルマはその代表格とも言われています。その状況で、いかにプリウスに興味を向けてもらえるかを考えたときに、デジタルネイティブと呼ばれる彼らには、デジタルに親和性の高い文脈でアプローチする必要があると考えました」(齋藤氏)

 そこから生まれたのが、“プリウスの部品を擬人化”し、デジタルをハブに展開するというプロモーションだ。「クールジャパンとも呼ばれるほど、アニメなどのキャラクターは身近になっています。特に、若い世代にはその文化が浸透している。彼らの日常に沿う文脈を作り、クルマも自分事化してもらうことを狙いました」(齋藤氏)

Twitterをハブに、オンラインとオフラインをつないで拡散を促進

 「プリガー施策全体を支える基盤ともいえる役割を担ったものがTwitterです」と樋口氏。テレビCMやラジオCM、新聞の折り込み広告、さらには新宿駅前のOOH施策、プレゼントキャンペーンなど多角的に展開しつつ、各々のタッチポイントの橋渡しとしてTwitterを活用し、ユーザーの反応がTwitterに集約されるようプランニングされた。

 「これまでのプロモーションは、マスメディアを中心に大きな話題を打ち上げて終わり、というケースが多かった。そうではなくて、メディアをまたいで波を何度も作って盛り上げて、ブームを巻き起こしたかったのです。そこでTwitterを受け皿に、様々な展開をすることにしました」(齋藤氏)

 なぜTwitterが選ばれたのか。樋口氏は「キャラクターキャンペーンという特性上、単なるデジタル広告やマスメディア展開では、ターゲット層になかなかリーチしない」と指摘する。

 「そもそもTwitterは特に若年層と親和性の高い媒体です。さらに、興味関心でつながる面があるので、プリガーに興味を持った人づてに情報が伝播する。ですから、Twitterで拡散した盛り上がりから、自社のサイトに流入させる設計をしました」(樋口氏)

 具体的にどのように波を作っていったのか。数値的な結果も含めてタイムラインで見てみたい。

 2015年12月 トヨタ公式アカウント(@TOYOTA_PR)からプリガーキャンペーンの紹介ツイートを投稿すると共にプロモトレンドを実施。同ツイートはすぐに15000近いリツイート、いいねが行われ、同アカウントの過去最高記録を達成した。

 

 さらに、プロモトレンドのハッシュタグ「#プリウス部品を擬人化」にユーザーの反応を集約。キャンペーンの立ち上がりでの話題感を一気に創出した。

プロモトレンドとは?
Twitter上で話題のハッシュタグを表示する「トレンド」欄のトップにハッシュタグ及び関連ツイートを表示する、Twitter社が提供する1日1社限定の広告商品。

 さらに、2016年2月からはOOH、新聞折り込み広告、テレビCMのオフライン展開を開始。また、プリウスの試乗者の感想を歌詞にした楽曲を制作するなど、コンテンツの増強とTwitterでの2次拡散を行った。

 テレビCMでもハッシュタグを表示し、オフラインとオンラインを繋いで拡散を促したり、アイドルの推しメンバーのように、自分のお気に入りキャラクターをハッシュタグ「#プリガー推し部品」で募るプレゼントキャンペーンを実施したりするなど、複数のキャンペーンを展開して話題を広げていった。

 プリガーキャンペーンの特長はハッシュタグの複数活用だと河本氏は語る。「ハッシュタグを幹と枝葉のように使い分けることで、キャンペーン全体の認知向上と一つ下のレイヤーの施策の管理を同時に行い常に会話が生まれるよう最適化されていました。さらに今回の施策ではハッシュタグ作成の際にも、企業の一方的な情報発信ではなく、ユーザー目線でコピーライティングされていた点も印象的です。表面的なキャラクター活用ではなく、きちんと受け入れてもらえてユーザーの会話が巻き起こる切り口を徹底的に検討されていました」(河本氏)

 さらに、ユニークな取り組みが先述した「声」の取り込みだ。プリウスの試乗会に参加した50名の声を歌詞に、有名ボカロプロデューサー「OSTER project」が曲を作り、人気声優の花澤香菜氏演じる「2ZR-FXEエンジン」が歌うプリガーのテーマ曲を作成した。

 「プリウスの良さは、乗っていただかないとわからない。ただ、試乗までのハードルが高いので、それなら乗った人の声を集めて発信してみようと。しかも、それを歌にすれば、もっと伝わるのではないかと思ったのです。ならば、キャラクターに血肉ともいえる声を与え、歌ってもらうことでより立体的なキャンペーン展開ができるのではないかと考えました」(齋藤氏)

 結果、公開初日に圧倒的な再生回数を記録。こちらもプロモトレンドを活用して拡散をしたことで1日で100万回以上、視聴されたという。

流入増だけでなく、ブランドイメージも一新

 施策の結果、初回の公式ツイートをした瞬間に、トヨタのウェブサイトへのオーガニックの流入が跳ね上がったという。また、ネットでのプリウスの評判も、ポジティブなものが増えたという。

 「プリウスの各部品には、なかなか覚えられない複雑な名前がついています。ですが、キャラクター化したことにより、例えば「2ZR-FXE エンジンちゃんかわいい」といったツイートが多く見られました。極端なアプローチではありますが、固有名詞を覚えてくれたということは、自然と皆さんのなかにプリウスが入り込んでいけたのではないかと思います」(樋口氏)

 擬人化されたキャラクターは、全部で40体。それぞれが実在の部品そのものの設定だ。作画を担当した26人の絵師には実際に部品を見てもらい、キャラクターを描いてもらったのだという。結果、Twitterではその絵師や担当する声優自身もそれぞれのアカウントからツイートするなど、第三者からの情報拡散も巻き起こった。

 「コンテンツとして、ラジオで声優さんにプリウスのカタログを読んでもらったりもしました。例えば“アメリカの学園ドラマ風に読む”などシチュエーションを決めて。まさに職人芸です。そこでさらに話題になりましたね。“トヨタがついに、おかしくなった”といったツイートも見られました(笑)。これもデジタル言語的には褒め言葉だと思っています。良い反応を多くいただけました」(齋藤氏)

 結果から見ると成功といえる本施策だが、かなり挑戦的ともいえる。従来のトヨタのイメージとはかけ離れているが、社内の声はどうだったのだろうか。

 「面白いことを常に新しい手法でやっていかないと、これからのお客様の心を掴むことはできません。それが社内でもわかっているので、後押ししてくれる社員も多かったですね」(齋藤氏)

潜在層にアプローチしながら販売につなげる方法を模索したい

 今後も、引き続き若年層に向けてプロモーションを展開していきたいと齋藤氏と樋口氏。具体的な展望を聞いた。

 「実は、既に次の施策を仕込んでいます。今回の取り組みで、若い方々が反応するポイントが見えてきました。今回は認知拡大や興味喚起を重点的に行いましたが、私たちの最終目標はご購入いただくこと。今後は販売店につなぐ施策を強化していきたいですね」(齋藤氏)

 「単純に「面白いキャンペーン」というだけではダメなので、どう販売へ繋げるか、というのは意識しつつ、クルマやトヨタへ意向の無い方にもキャンペーンでトヨタをいいなと思ってもらえて、5年後、10年後に販売につながるために、今回の施策を突破口として挑戦を続けていきたいですね」(樋口氏)

 意気込みを見せる両者に対し河本氏は、Twitterはパーチェスファネルの様々なフェーズで最適なコミュニケーションが展開できると、活用の可能性を示す。

 「車の購買サイクルは7~8年に1回と言われます。しばらくは車を買わない人と、今にでも購入したいという人では、当然コミュニケーションアプローチも異なります。長期的な顧客育成の観点においては、プロモトレンドなどを活用し、3,500万人のTwitter利用者へブランディングアプローチが可能です。特定の興味関心層を捉えるニッチメディアではなく、皆さんのいつも傍にあるスマホ上でよりマスメディア的なアプローチができるのです。

 一方、本音が見えるプラットフォームですから、例えばキーワードターゲティングなどで“この車、欲しいな”といったツイートから、現在のお客様のニーズを探り、今まさに購入検討中のお客様にキャンペーンの合理的な情報提供をすることもできます。このプラットフォームの強みを生かしてこれからもあらゆるフェーズで皆様のビジネスにご協力できればと思います」(河本氏)

 トヨタが次に見せる展開はどのようなものか、Twitterとどのようなタッグを組むのか。今後も目が離せない。

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この記事の著者

東城 ノエル(トウジョウ ノエル)

フリーランスエディター・ライター
出版社での雑誌編集を経て、大手化粧品メーカーで編集ライター&ECサイト立ち上げなどを経験して独立。現在は、Webや雑誌を中心に執筆中。美容、旅行、アート、女性の働き方、子育て関連も守備範囲。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2016/07/11 12:00 https://markezine.jp/article/detail/24574