EC市場はオムニチャンネルの登場で新しいステージに
――MarkeZine読者の方はすでにご存じかもしれませんが、改めてECzineがどういうメディアなのか教えてください。
倭田:ECzineは2013年11月にローンチしたEC専門のメディアです。それまでMarkeZineでもECに関する情報は扱っていましたが、アドテクノロジーが非常に盛り上がったことなどから、広告よりの情報が多くなり、とくに中小規模のEC事業者にとって、日々の実務に役立つ情報が少なめになっていると感じていました。そこで、EC専門メディアがあったほうがいいと考え、ECzineを立ち上げました。
ちょうど立ち上げ準備をしている最中にYahoo! Japanショッピングによる「eコマース革命」(2013年10月)が発表されたこともあり、世の中にECの情報が求められているのかなと追い風を感じることができました。そこから2年半、編集長として運営しています。
――ローンチから2年半、EC市場の変化についてはどのように感じていますか?
倭田:いままでは楽天やAmazonが牽引して裾野を広げてきたEC市場ですが、日本では2014年あたりにオムニチャネルがブームになったことで、日本の大手企業でもECを取り入れる空気ができ上がりました。それによってテクノロジーを担うツールベンダーも業界に参入することになったので、EC市場は一段と広がったように感じました。
――そして6月30日(木)、いよいよ『EC市場とテクノロジー活用最新動向調査2015-2016』が発売されましたが、これを作ろうと考えたのはどういった理由からなのでしょうか。
倭田:翔泳社はもともとITをテーマに扱う出版社ですし、私自身もテクノロジーがビジネスに貢献すると信じています。ECも例外でなく、というよりエレクトロニック・コマースですから、他社に先んじて最新テクノロジーを使いこなすことは、他社との重要な差別化要因になると思います。にもかかわらず、ECテクノロジーを切り口にしたメディアや書籍は、あまり世に出ていません。
また『ECzine』はウェブメディアとして、毎日更新することをモットーにしていますが、深く掘り下げて考察すべき情報も、タイムラインに流れていって終わりということも起きてしまっています。とくに経営層の方たちは、毎日ウェブメディアの情報を追いかけている時間もとれないでしょう。そういった理由から、ECテクノロジーに関する情報を、形にあるものにまとめることには意義があると考え、制作に至りました。
テクノロジーをいかにECで活用するか、そのヒントが詰まっている
――では、本調査資料は具体的にどんな内容なのでしょうか。
倭田:1章は「市場分析編」で、国内のEC市場規模やBtoB、BtoCに分類しての傾向、新たな動きとしてのモバイルコマース、それからCtoC市場の成長について分析しています。6月14日に経済産業省が発表した平成27年度版の『電子商取引に関する市場調査』も間に合いましたし、モバイルやアプリに関して深掘りしている調査結果も掲載しています。本章で、EC市場の全体的な動向が分かるようになっています。
2章は「消費者動向編」です。消費者のEC利用動向やデバイス環境について、マクロなデータでまとめています。パソコンとスマートフォンの違いや、よく利用するECサイト、決済や物流手段についても触れています。
3章は「事業者動向編」で、事業者を「ビジネスでECに関わっている企業」としています。その中でも業種を三つに分けました。ECを使って物販しているEC事業者、インターネット上でEC業者に場を提供するモール事業者、EC事業者をテクノロジーで支援しているツールベンダーです。その三者の決算データとテクノロジー活用にフォーカスし、2015年にトピックスのあった企業を紹介しています。
4章は「業界関係者ヒアリング編」です。3章で挙げたEC事業者、モール事業者、ツールベンダーのうち、特筆すべき点があった企業26社に私がインタビューを行ないました。それぞれの立場からすばらしい見解を聞かせていただきましたが、共通するのが、自社のビジネスがどういうもので、どんなテクノロジーが必要かを正確に捉えているということです。一部の企業では、ふさわしいサービスが世にないからと、自分たちで作るところまで進んでいます。2016年、この26社の動きをウォッチしておけば、EC市場の動きがよく分かると思います。
具体的なトピックスだと、多くの事業者が人工知能に注目していたのも印象的です。人工知能に期待することとしては、Oisixでは「お客さんがサイトに来た時点でカゴに商品が入っているようにしたい」、三越伊勢丹では「コンシェルジュ機能を作りたい」とおっしゃっていました。実際の活用例としては、どこまでを人工知能と呼ぶかにもよりますが、データ分析やレコメンド、パーソナライズ、チャットボットあたりだと思います。2016年にEC業界でどこまで利用が進むのか、私自身も楽しみにしています。
さらに、EC事業者の多くが、LINE ビジネスコネクトを積極的に使っていこうとしているとのことで、ECにおいてもLINEの影響力の大きさを実感しました。EC事業者にとって、メールは重要なマーケティング手段でしたが、これまでの一斉配信では効果が下がってきているところが多い。そのため、対策の一つとしてLINEが注目されていると思います。ただ、LINEは決済やアカウントコマース、チャットボットや広告にまで幅を広げていますから、今後ECにおいてもどのような存在感を放つのか、こちらも注目です。
広告が専門の方から見ると、ECってこういう機能が必要なのかという発見もあるでしょうし、一方でマーケティングツールや新しい広告プロダクトも多く取り上げていることから、「やっぱりECも、結局はマーケティングなのか」と改めて思われるかもしれません。
最後の5章は「ウェブアンケート調査結果編」です。ECzine読者のうち、独自ドメインでECサイトを運営している方に22問のウェブアンケートをお願いし、回答をまとめています。テクノロジー導入への期待や課題、分析ツールや人工知能についても尋ねているのですが、結局のところEC事業者が解決したい課題というのが、「新規獲得」と「CRM」の二つに尽きるという結果が出たのには、正直笑ってしまいました。
これからはマーケティングがEC市場に不可欠となる
――ECzine編集長として、EC市場の今後の展望をどう見ていますか?
倭田:実店舗から始まった企業やメーカーでは、電子商取引に対応するための基本的なインフラが整っていないところもあるため、ITへの大きな投資があり、EC化率は伸びるでしょう。一方、EC専業やオムニチャネルのインフラを整えた小売企業では、マーケティングによる差別化のためにテクノロジーを活用していくと思います。後者の事業者の場合、世にないツールを自ら作る、テクノロジー的にはそれほど難しくないけれど画期的なマーケティング施策を打つ、といったことを行なうので注目に値します。
EC事業者にとっては、自社がどのステップにあり、どのテクノロジーを活用するべきなのかを判断する際に、この調査資料はお役に立てると思います。ツールベンダーなど支援事業者にとっては、トップランナーへのヒアリングや、ウェブアンケート結果から、事業者のツールへの期待や不満、導入する組織の実態などが読み取れると思いますので、ぜひプレゼンに活用し、EC事業者の課題解決に役立て、一緒に市場を盛り上げていただきたいです。
MarkeZine読者の方には、「オムニチャネル・ブームは終わった」と感じている方も少なくないかもしれません。しかし、先進企業はインフラが整ったところで、これから本格的な運用や、マーケティングによる差別化をしていこうとしているところです。ECもオムニチャネルも、まったく終わっていません。これからようやく、マーケターの腕の見せどころです。実際にモノを売るのはシビアですが、だからこそ面白い業界だと思います。この調査資料によって、EC業界がどういうものか少しでも感じていただけるとうれしいです。
もし少しでも気になった方がいらっしゃれば、ぜひ特設ページをご覧ください。目次の詳細やページサンプルのほか、4章でお話をうかがった方の関連記事なども紹介しています。じっくり購入を検討していただければ幸いです。
EC市場とテクノロジー活用最新動向調査2015-2016
著者:ECzine編集部、デジタルインファクト
発売日:2016年6月30日(木)
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目次
1.市場分析編
2.消費者動向編
3.事業者動向編
4.業界関係者ヒアリング編
5.ウェブアンケート調査結果編