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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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マーケティング×テクノロジー×クリエイティブで変わる未来

オープンイノベーションが起こる背景は? AIと機械学習の違いは? これからの企業に必要な視点を考える


データの取得・活用も一種のクリエイティビティ

MZ:ここからは、テクノロジーがどのような影響を与えているかを考えていきたいと思います。今、注目を集める技術というと人工知能がありますね。人工知能によってビジネスはどのように変化するのでしょうか?

松田:今までの話に乗せると、インターネットによって情報量が増えることで、ビッグデータの時代になった。要は、人間の様々な情報がたまりはじめた。ですから、データを解析すれば何か出てくるはずです。が、あまりうまくいっていませんでした。何故なら人間の力で処理できるデータはビッグデータ全体のほんの一部分にすぎないからです。

 しかし、データの重要性は誰もが理解しています。そこに出てきたものが、ディープラーニングです。これは元々30年ほど前からずっと研究されてきたモデルです。マシンの高度化やデータが蓄積されることで本格的な解析が可能になり、2012年ころから話題にのぼるようになってきました。ディープラーニングによって複雑な情報を処理できるようになれば、例えば人間がオペレーションしていたものをbot形式で返せるようになったり、今まではできなかった精度で広告の最適化ができたりします。当然ビジネスへの利用も期待されます。

MZ:つまり、データを持っている企業が人工知能によってさらに先に行くことができるようになる?

松田:そうですね。ただ、ビッグデータも意味のないデータではなくて、きちんと意味のある、人間に近いデータが重要になってきます。ですから今後、企業の競争戦略や競争優位性は、技術やアイデアではなくて、どんな種類・どれくらいの量のデータを持っているのかになると思います。

田場:どうしてもデータを持ちやすい企業と持ちにくい企業が出てくると思います。そうなると、データを持ちにくい企業はどうすべきだとお考えですか?

松田:仕組みづくりが重要でしょうね。顧客との接点があれば、データの取り方はいくらでも考えられます。接点やイターフェースを持っていないならば、まずはそれを作ればいい。私は今からやり始めても問題ないと考えています。ただし、5年後に「データがないんですがどうしましょう?」となると、ちょっと遅いと思う。というのも、オリンピックというトラフィックを取れるイベントが控えています。それまでに何かしらの武器になるものを持っていれば戦える。

得丸:いかにデータを取るか・活用するかを考えることは一種のクリエイティビティだと思います。写真などはこれまでと違った解析手法をすることで、従来は読み取れなかったデータをえられるようになりました。また、今までマーケティングやコミュニケーションに使えるとも思ってなかったようなデータが実は使えるということがわかるケースもあります。

田場:仰るとおりで、データをどう取っていくかはクリエイティブ部門でも頻繁に議論されます。

松田:インターフェースの分野では人間中心設計が主流になってきていますよね。人間がいかに「いい体験」をするかをベースにデザインを組んでいく。私は、データの取り方の設計もインターフェースの設計とイコールだと思っています。そのためのコミュニケーション設計と、取ったデータをどうするかの二つさえ設計がきれいにできてれば、意味のあるデータができあがる。

AI、ディープラーニング、機械学習の違いとは?

得丸:テクノロジーがビジネスに与える影響というと、ディープラーニングなどが出てきたことで、情報処理のコストが劇的に下がり、今までできなかった夢のような話がリアルなものとして目の前に広がりつつある点もあると思います。松田さんはそのような取り組みをされていますか?

松田:私たちは、人工知能を小さいチップに入れて安く提供することを考えています。これで何ができるかというと、例えばチップ入りのUSBを冷蔵庫に差し込むと、中の余り物で今日の献立を提案してくれることが可能になります。このUSBを独身男性用とか家族4人用とか様々なパターンのトレーニング済みモデルで用意すれば、挿し替えることでインターフェースを変えることが可能です。OSを入れ替えるように、脳みそを入れ替える。

 様々な製品でそのようなことが可能になれば、それこそ世界がシームレスになりますよね。例えばUSBを外食先のロボットに挿して、食事を見せれば栄養素を計算してくれる。今度はそのUSBを自宅の冷蔵庫に挿したら栄養を考慮したレシピを紹介してくれる。

MZ:根本的な質問ですが、どうしても人工知能やディープラーニング、機械学習を混同してしまいがちです。これはどう切り分ければよいのでしょうか?

松田:わかりやすく表現すると、機械学習の延長線上にディープラーニングがあります。けれど両者の構造は全く異なります。ディープラーニングはニューラルネットワーク。人間の脳細胞、ニューロンとシナプスの電気信号を計算機でシミュレートしたもののネットワークを積み重ねていくものです。ネットワーク層を深く積み重ねるからディープラーニング。

 一方、機械学習は端的に言えば特徴に応じて何かのアクションを起こすものです。例えばECサイトで水を買ったら、レコメンドが出ます。今は非常に精度が上がっていますが、水を買ったのに別の水をおすすめされるといった経験は珍しく無いでしょう。

 なぜこのような動きをするかというと、水を買ったらそれは水が欲しい特徴だと設計されているからです。すると、システムは「水を買った、じゃあ水を出そう」と判断する。このような、ゼロか1しかないのが機械学習の仕組みです。ただ、水という概念は機械にはないので、人間が教える必要があります。一方で、「●●を買った人はXXも買う」といったパターンの特徴を、機械側が全部自動で行うのがディープラーニングです。

 言葉にするとわかりにくいですが、これが非常に大きな違いです。ビッグデータの話と同様ですが、人間が設計しなければ動かないということは、人間の能力の枠からは出られません。一方、機械が自分で特徴を抽出すると、人間が想像できない豊富な表現力を得られる。

得丸:機械学習は人間が設計しているから、たどっていけば大体のことが見えますが、ディープラーニングはブラックボックスになっているわけですね。

松田:そうです。しかも、層の積み方やネットワークの違い、学習させる基本のデータによって全然違うアウトプットが出る。赤ちゃんを育てるように個性が出てきます。

 また、AIも一緒に並列化されて紹介されますが、正確な定義づけはされていません。よく使われるのは「強いAI、弱いAI」という表現ですね。弱いAIは非常にざっくりと表現すると、まさにディープラーニングのように、「これで何かをしてね」と目的を人間が最初に設計してあげるもの。例えば、囲碁に勝ってね、と囲碁のパターンを与えれば、勝つために何か考えてくれるものです。

 一方、強いAIはドラえもんのような全能的な動きをするものです。学術的にはアプローチが違う。弱いAIは統計学的なアプローチですが、強いAIはどちらかというと、脳の再現なので生物学的なアプローチ。後者は脳自体がまだ開拓中の分野ですから、再現は非常に難しいかと思います。

 ですから今、一般的に言われているAIは弱いAIですね。個人的にはレコメンドは機械学習でAIではないと思いますが……。明確な定義は誰もしてなくて。ただ、AI研究者と、ディープラーニングを研究してるい人たちは話をしていても違いますね。ディープラーニングの話をしていると、数学的な話になる。AIの場合はもっと魂とか哲学的な話になる(笑)。

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データ活用に工夫の余地があるほど、インパクトを生み出す可能性もある

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伊藤 桃子(編集部)(イトウモモコ)

MarkeZine編集部員です。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2016/07/27 10:27 https://markezine.jp/article/detail/24821

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