“ソーシャル=若者”ではなく、“旅写真のシェア”という考え方
MZ:バズやSNSの活用というと、若年層がターゲットという印象ですが、今回はいかがでしたか?
江原:観光局のコアターゲット層は35〜55歳です。もちろんそれ以下でもそれ以上でも構いませんが、若年層というよりも、やはりそこそこ可処分所得があって、ある程度自由になる時間があって、旅が好きな人、という方々をターゲットとしています。
オーストラリアで最も日本に近いケアンズは、ハワイと同じくらいの時間と費用で行ける実はすごく近い場所なんですね。けれど南半球にあるせいか、時間がかかりそう、お金がかかりそう、というイメージをもたれている方が多いです。その心理的バリアを変えたい、といつも思っています。
MZ:オーストラリアって、実はかなり気軽に行けるんですね。
江原:そうなんです。しかもオーストラリアは時差がないうえに夜便が多いので、仕事終わりの金曜の夜に飛行機に乗ってお休みいただければ、翌朝目を覚ますとそこはオーストラリアという感じ。3連休あれば結構遊べるんです。
MZ:しかし、30代後半~のターゲットに向けて自撮りシステムを用意したのはなぜですか?
江原:自撮りは若い方が楽しむイメージがあるかもしれませんが、一方で、もはや若い方に限らず、誰にでも馴染みのあるものだと考えています。しかも、自撮りは旅と密接な関係があると思うんです。Facebookなどを見ると、みなさん旅先でよく写真を撮ってシェアされていますよね。その行動をぜひ、活用したかった。
そこで、オーストラリアで自撮りという発想に至りました。すると、一つの問題が出てきます。オーストラリアは日本の20倍以上の面積があり、雄大な自然が魅力の一つです。けれど、大自然だからこそ、それを自撮りで表現するのは難しいんですね。自撮りはどうしても人物の顔が中心になって、背景がちょこっと入るくらいになってしまうので。
もし、オーストラリアの自然を自撮りで表現できたら、実際に行っていない方にもオーストラリアの雄大さが伝えられるのではないかと思ったことから、G!GA Selfieのコンセプトが生まれたんです。
MZ:インスタグラムのハッシュタグ「#gigaselfie」で検索すると、様々な人のG!GA Selfieの動画投稿を見ることができますね。どれも、最初は人物を写しているのに、ズームしていくと周囲の景色がうわーっと広がり、とてもインパクトがあります。
江原:オーストラリアに行かれた方には、思い出としてお持ち帰りいただき、行かない方にもその映像を公開することで、“オーストラリアって、こんなにすごい景色を体験できるんだ”と感じていただけると考えました。規模感をお伝えしたかったんです。
MZ:確かに、日本にはないスケールの大きさには驚きました。ところで、オーストラリアのインバウンド対策という視点で考えたとき、この施策はターゲットが日本人でなければ、違うものになっていたのでしょうか?
江原:在日オーストラリア政府観光局はターゲットが日本人なので、他の国の方のことを想定したことはありません。ですが、結果としてこの施策は世界中でも広がりを見せています。実際、昨年の9月にゴールドコーストでイベントを行ったときにも、日本人以外にも多くの方にご参加いただけたので、ユニバーサルで通用する施策だと思っています。
MZ:日本人に向けた誘致の場合は、他の国の方と違って気をつけていることなどありますか?
江原:国籍によって海外旅行に求めるものは変わってきますが、日本人の場合はまず安心安全のアピール。そこは外せません。幸いオーストラリアはそういうイメージを持っていただいていますし、安心しておすすめできます。また日本人が旅行に求めるものとして、先ほどの雄大な景色や絶景を楽しむことや、現地の食文化でしょうか。食への興味は他の国と違ってトップ2くらいに入るほど重要です。
未体験のシステムで失敗せずに自撮りをする工夫
MZ: G!GA Selfieのためのスポットは現地で何か所に設置したのですか?
江原:撮影は、ゴールドコーストとメルボルンの2か所で行いました。常設ではなく、体験イベントはゴールドコーストで実施しました。
MZ:なぜその場所だったのでしょう?
江原:ブリスベン線就航と合わせた施策だったので、ブリスベンから近いゴールドコーストにしました。また、現地の景色や抜け感が、G!GA Selfieのコンセプトに非常に合っていると考えました。非常に好評だったので、他の場所からは、“うちはいつですか?”というお問い合わせをいただいたり、他国からも“テクノロジーはどういうものを使っているんですか?”などいろいろなご質問をいただいたりと内外から反響をいただけました。
MZ:素朴な疑問なのですが、G!GA Selfieの仕組みは、用意されたスポットに立ち、スマートフォンから専用サイトに訪問して、シャッターボタンをタップすることで自撮りができる、というものです。つまり、利用者はカメラがどこにあるかわからない状態で、シャッターをきることになるわけですよね。利用者からすると、戸惑う面もあるかと思うのですが、どのようにフォローされたのでしょうか?

江原:仰る通り、モニターもない場所での撮影です。ですから、きちんとスタッフを置いて、セルフィーポイントも用意して「こっちを向いてこうやって撮ってください」とお伝えするようにしました。また撮影から数分で写真が自分のスマホに送られるようにしたので、その場で確認もしていただきました。これによって、きちんとカメラ目線の、みなさんが狙った通りのものを撮影していただけました。
MZ:なるほど、「そこに立てば間違いなく撮れる」という仕組みを作ったのですね。
動画再生は予測の倍以上、日本人以外の観光客にも展開
MZ:本施策のKPI設定と結果についても教えていただけますか?
江原:映像をバズらせることが目的だったので、ビューアシップがKPIでした。200万ビューくらいを予測していたのですが、実際は倍以上の560万ほどでした。今回は特に広告展開はせずに、PRとソーシャル上でオーガニックに展開した結果なので、良い数字だと思います。また、イベント後のメディアに取り上げられる機会も非常に多かったですね。国内のテレビから始まり、海外メディアでの露出も非常に多くて、最終的には約47万8000件の記事になりました。
MZ:実際にキャンペーンに参加された方や、投稿されたG!GA Selfieを目にした方の反応はいかがでしたか?
江原:“すごく楽しかった”“次回はいつ?”“やってみたい”といったコメントを多数いただきました。また、日本人以外の方からの反応も多く、今年の2月にはシドニーで毎年盛大に行われる中国の春節のイベントでも、このG!GA Selfieを行いました。
とにかくソーシャルの拡散力が想定外に大きくて、最たるものがFacebookでした。本当にみなさん沢山シェアされている。これからもソーシャル含め、デジタルはもっと力を入れていきたいと改めて感じました。