JR九州というエンターテインメント
内容にもまた、惹き込まれます。JR九州と唐池氏が逆境から立ち上がって企業を成功に導いていく様は、まさに痛快なエンターテインメントです。
たとえば、2016年に熊本と大分を相次いで襲った大地震。その大地震で運行を取りやめていた九州新幹線を、わずか13日で全線運転を再開させることに唐池氏は成功します。その後も、「あそBOY」「ゆふいんの森」「ななつ星」「指宿のたまて箱」などの数々の素晴らしいネーミングの人気観光列車を産み出していきました。
これらの実績から唐池氏は “ネーミングの神様”とも呼ばれているのですが、そのネーミングの要諦も本書では記されています。たとえば「ネーミングは、徹底的に勉強し、とことん考え抜いてはじめてできるもの」という一文に現れるように、コンセプトとネーミングが一致するまでひたすら考え抜いたことから、上記のネーミングが思い浮かんだそうです。
このように、立ちはだかる数々の苦難と、そこで打ち出す具体的な打ち手、その後の成功が描かれる本書は、まるで良質な経済小説のようです。しかしこれは現実世界のできごと。実際の変化と、その過程における唐池氏の考えが描かれている本書は、読みやすいだけでなく、確かに良質なビジネス書でもありました。
人を元気にすると自分も元気になる
本書は構成も工夫されており章ごとに「私がこのころ学んだこと」がまとめられているのですが、それがとてもよいスパイスとなっています。ここから、唐池氏の人柄がよく伝わる文言をいくつか紹介してみましょう。
- 2メートル以内で語り合うと互いに心が通じるようになる
- 「気」のエネルギーは、感動というエネルギーに変化する
- 日々の誠実で熱心な練習は、本番で大きな成果をあげる
- デザインと物語は、いい仕事にはかかせない
このように、唐池氏が「独自の言葉」で語っていることが、本書のなによりに魅力なのでしょう。語っている内容や考え、行った施策のなかには、あるいは他のビジネス書でも書かれているようなことはあります。しかしそれらが、唐池氏の実践を通して、そして唐池氏の独自の言葉を通して語られることで、血の通った、説得力のある言葉になっているのです。
書いた本人でさえところどころ笑ってしまうという本書は、その独自の言葉ゆえに、じわじわと売れる人気の本になっているのでしょう。
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