クライアントが心得るべきは「制作と共犯関係になる」こと
代理店サイドの方法論を受けて、資生堂の小助川氏は「データはもっぱら効率の向上に使われているが、栗林さんのように、クリエイティブの精度の向上に使うのはとても重要。結果的に効率も良くなるのだろう」と語る。
資生堂は伝統的に社内にクリエイティブ部門を持つ。その視点で、小助川氏は「クライアント心得帳」として広告主が制作時に留意すべき点を5つにまとめる。
まず「目的は揺るぎなく」。現状の課題と制作の目的が明確でなければ、上長や上層部の意見によって着地点が変わってしまうこともある。「『メーク女子高生のヒミツ』の場合、そもそも若年層ターゲットのWeb動画のノウハウを蓄積すること、資生堂のイメージを変えることが目的だったので、最後までブレなかった。コミュニケーションの“実験”と称していたので社内の理解も得やすかった」。
次に「クリエイティブと共犯関係になる」。主にスマートフォンで見るWeb動画はユーザーと動画が1対1の関係になるので、制作側が楽しんでいる感覚がダイレクトに伝わりやすい。だから、チーム全体の“共犯関係”が大事だという。
3つ目は「説得ではなく納得へ」。上長に企画を通す際は事例を交えて説明し、あたかも自発的に「これはやったほうがいい」と思わせるほうが、説得よりも有効だ。そのためにも、事例をよく知っておくことは欠かせない。
4つ目は「『見せたいもの』ではなく『見たいもの』になっているか」。余剰時間で楽しむWeb動画は、本数の増加もあって、見る気になってもらうだけでも難しくなっている。小助川氏は「基本的に、人は見たことのないものしか見たくない。だから『見たい』と思われるかどうかは本当にクリエイティブの熱量に大きく左右される。『この人たちよくやったな』といった賞賛の気持ちがシェアの動機になることも多い」と指摘する。そして5つ目は、みずからもユーザーとして試して「SNS体質になっておく」ことだ。

Web動画を成功に導くオリジナルチャート

これを受けて栗林氏は「実験や共犯という言葉は、制作側にはありがたい。どれだけデータを見ても読み切れない部分はあるので、それにクライアントが二人三脚で挑戦してくれる姿勢には勇気づけられる」と話す。
3名のプレゼンから、Web動画の世界はますます競争が激しくなっているものの、成功には一定のセオリーがあることが明かされた。「都合のよいところだけを都合よく解釈して企画するとうまくいかないし、Web動画の市場自体が消費されることになる。だが流行りで括らずに、正しく向き合えば大きな可能性があると思う」と越智氏。
最後に栗林氏から、目的を整理するためのオリジナルチャートが紹介された。Web動画という手法を使うべきなのか、使うならどういった方向性で、また予算感はどの程度かなどを確かめられるこのチャートを、クライアントとの間でもよく活用しているという。「このチャートはクライアント側にもとても有効。ぜひ流通してほしい」と小助川氏。セッションは、マーケティングの主流になりつつあるWeb動画のさらなる発展を感じさせる、非常に濃いものとなった。
