バズの正体は「1対1の情報伝達」の連なり
Web動画という手法を使うからには、当然ながら可能な限り大きな話題化を図りたい。だが、100万ビュー超えなどヒットを飛ばす動画が登場する一方で、実際にはその数百倍、数千倍もの動画が埋もれ、中には逆に炎上の事態に陥るものもある。
アドテック東京2016の公式セッションのひとつ「総計1億ビュー!? Web動画の未来はこっちだ」では、各人が携わった動画の合計再生数が1億ビューにも上るという4名が登壇。昨年行われた動画セッションに引き続き、安川電機100周年記念動画「YASKAWA BUSHIDO PROJECT」を企画した電通の阿部光史氏をモデレーターに、「High School Girl? メーク女子高生のヒミツ」を手掛けた資生堂の小助川雅人氏、そして新たに電通の越智一仁氏、TBWA HAKUHODOの栗林和明氏を迎え、広告主サイドと代理店サイドそれぞれの制作ノウハウやクリエイティブに対する姿勢が語られた。
宮崎県小林市の移住促進PR動画「ンダモシタン小林」や王子ネピア「Tissue Animals」など、自身の企画がいずれも100万ビューを超えている越智氏は「大ヒットではないが、大失敗もしていない。失敗を避ける考え方はあると思う」と話す。そのひとつが「バズの正体は『1対1の情報伝達』の連なり」だと理解することだ。
共感と驚きを前提にした“2回見たくなる”構造
「『バズを起こしてくれ』と言われると、けっこうしんどい。そこで僕が意識しているのが、一見すると情報が爆発的に拡散しているように思えるバズも、最小単位は1対1の情報伝達だということ」と越智氏。
実際にクライアントへも、バズを起こすのは簡単ではないこととともに、だからといって身構えるのではなく「人の心ひとつをどう動かすかが大事」だと最初に説明。バズの発端がどんなツイートや記事だったのか、事例を交えて紹介しているという。
近年ヒットしている動画を分析し、越智氏が掲げる2大キーワードは“大共感”と“大驚嘆”。これを前提に、映像制作における10の切り口を挙げる。前述の「ンダモシタン小林」は、このうち最後に驚きの仕掛けが明かされる“裏切り”や、途中でわかった/わからなかったという“議論”、田舎ならではの“あるある”ネタなど4つの要素を含んでいる。
阿部氏が「おしゃれな動画だなと思って見ていたら、確かに最後に驚かされた。二度見して楽しい動画」と述べると、越智氏は「2回見たくなる構造を考えた」と解説。コンテンツを誰かに勧めるとき、見てよかったと思われるかどうか不安になるもの。そこで、最後の驚きが事実だったと確認できる、本編とは異なる字幕付きの動画で答え合わせができるようにした。
さらに「2回見たくなる」という文言はプレスリリースのヘッダーにも採用。リリースやサムネイルなどコンテンツ周辺にも工夫すると、PR効果も引き上げられる。人の気持ちを丁寧に捉えて制作した結果、再生数はもとよりメディア掲載も多数、目的としていた移住相談の件数も増えた。