トランプ激的支持の震源地となった右派メディア
では、今回の大統領選におけるソーシャルメディアのエンゲージメントは、どのような1次メディアが発信したニュースによって得られたものなのでしょうか。

※出典:株式会社スパイスボックス自社ツール集計(調査期間:2015/11/16~2016/11/8)
上の図は、トランプ氏について言及されたコンテンツの獲得エンゲージメント数をメディアごとに算出し、TOP20をランキングにしたものです。これを見ると、日本人にも馴染みのあるワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズ、ハフィントンポストなど、有名メディアのWebニュースサイトが順当に上位にランクインする中、あまり聞き慣れないBreitbart News Network(ブライトバート・ニュース・ネットワーク、以下、ブライトバート)というメディアが5位に入っていることが分かります。
同メディアの総エンゲージメント数は1,800万を超えており、その影響力の大きさが伺えます。実はこのメディア、アメリカでは白人至上主義やオルタナ右翼と呼ばれる人々などに受けの良い過激な記事を発信することで急速に影響力を増大していると言われている、新興右派メディアです。
会長のスティーブン・バノン氏は、白人至上主義や反ユダヤ主義、女性蔑視などの言動についてアメリカの各メディアで批判されている人物で、同氏の思想信条は、ブライトバートのコンテンツ作りにも反映されていると言われています。
同メディアのサイトのほかFacebookに直接アップされる記事、動画を見ると、個人的には、ポリティカル・コレクトネスの検証をせずに、自社の政治信条を元にした強いメッセージを発信することに注力しているのでは、とも感じます。
このブライトバートは、選挙期間中からトランプ氏に好意的な記事を書き続け、「親トランプ」「反ヒラリー」の姿勢をはっきりと打ち出していました。そのため、トランプ氏関連でこれだけのエンゲージメント数につながったと考えられます。
このブライトバートで掲載されている記事の内容に対する正誤や主義主張についての判断はここでは述べませんが、図4や記事そのものを見れば、Facebookなどで配信されているブライトバートの刺激的、かつ煽動的な内容が、時には数万単位で「いいね!」を獲得し、とてつもない勢いでエンゲージメントされていることは事実として理解することができます。この事実自体が何を物語るのかは憶測の域を超えませんが、ブライトバートの記事がそれだけトランプ支持者の間に広まり、支持者に対して大きな影響力を発揮したことは間違いないと言えるでしょう。
近しい属性のユーザー同士が集まるSNS
最後にまとめです。今回、トランプ氏を支持する新興メディアは、瞬間的に感情を揺さぶるコンテンツがよりシェア拡散につながる昨今の情報メディア環境に着目しました。その上で、正確さや事実検証を重視せず、刺激的な発言を繰り返すことで大量のリーチを獲得するという、いわゆる「言ったもん勝ち」を徹底的にやりきりました。この行動に対する、多大なる影響を示唆する分析結果は提示できたのではないかと思います。
私たちが想像する以上に、仲間内の小さなコミュニティでの“何気ない情報”のやりとりが、知らず知らずのうちに個のオピニオン形成に深く関わっていくことは想像に難くありません。しかし、その小さなコミュニティで流通している“何気ない情報”の発信元に対して、私たちは盲目になりがちです。それは、昨今のソーシャルメディアによって生まれた、「近しい属性のユーザー同士のみで情報を共有する」、ある種の村社会的な情報摂取環境が関係するのかもしれません。
異なる価値観がぶつかり合うことの少ない環境では、たとえば、ある記事が情報の信憑性に欠けていたとしても、自身にとって耳あたりの良いニュースであればそのまま一つの「正」として、多くの人が受け入れ、支持することが起こり得るのではないでしょうか。
今回は、ドナルド・トランプの勝利についてソーシャル・エンゲージメント観点で紐解いてきました。政治におけるソーシャルメディアがもたらす影響について、賛否あると思いますが、今回の劇的な現象の因数分解が、少しでも皆さんのマーケティング活動のヒントになれば幸いです。