現代のCMに求められる構造とは
キリン氷結に匹敵するエンゲージメント数を獲得したのは、2016年の代表的なTVCMシリーズと言ってもよい、au「三太郎」シリーズです。誰もが知っているキャラクターの実写版CMコンテンツという形は、江崎グリコのサザエさんを題材にした「OTONA GLICO(オトナグリコ)」シリーズや、トヨタ自動車の「実写版ドラえもんシリーズ」と、過去にも繰り返されてきたSNS上で話題となりやすい典型的手法です。
この手法は元ネタを多くの人が知っていることが大前提に必要です。その中で、昔話のキャラクターはコンテンツとして申し分なく、「昔話の現代風アレンジ」という文脈は、SNS上での話題化と相性の良いネタの一つといえます。
さらに、CM画面の中に肉眼では見えないほど小さな一寸法師を映し込ませるなど、ぬかりなくSNS上でエンゲージメントしやすい仕掛けを散りばめていました。今回このCMがランキング入りした理由は、昔話とのギャップを楽しませるクリエイティブの力のほか、あらかじめ狙って仕掛けられた複数のエンゲージメント要素が相まった結果だといえます。
その他、注目のCMとしては、NTTドコモが当時中高生を中心にSNS上で大流行中だった「斎藤さんゲーム」をTVCMのなかで描いたものがあります。これは、「こんなのあるよ!」とWebから話題が発生し、TVで大量の目撃者を生み、Web上でさらなるエンゲージメントにつながる、「Web to TV to Web」の構造を持った広告施策です。
また、さかなクン、三太郎の両CMともに、Webでよりエンゲージメント(いいねやシェア、コメント、リツイートなどをされること)しそうな人をTVCMにキャスティングした、あるいは、Webで話題になりやすい内容をTVCMにした後、さらにそれがWebで話題化して成功したという意味では、やはり、「Web to TV to Web」の構造だと言えます。これらのCMのランクインは、この図式が一つの成功パターンとなりつつあることを表しています。
エンゲージメント・ポテンシャルの高いコンテンツとの大胆コラボ
ランキングに話を戻すと、いわゆるコンテンツタイアップの施策が3つランキング入りしていることも気になります。日清食品グループと「ファイナルファンタジー」がコラボレーションした「CUP NOODLE XV」CM、同じく日清食品グループ「どん兵衛×ラッセン」、サントリー「天然水×『君の名は。』」です。
「ファイナルファンタジー」は、これまでも繰り返しコラボ企画が生み出されては話題化しているコンテンツですし、「君の名は。」は国民的大ヒットとなったコンテンツなので、話題になるのも頷けます。
度肝を抜いたのは、「どん兵衛×ラッセン」のコラボです。なぜ、ラッセンなのか。両者ともデビュー40周年という取っ掛かりはあったにせよ、ラッセン自体はWeb上でのエンゲージメント・ポテンシャルがほとんどなく、何の解説にもならず申し訳ないのですが、アイデアの勝利と、実施に踏み切った方々の英断としか言いようがありません。
コラボ企画は、これまでも散々行われてきた非常にシンプルな取り組みですが、今後は、“エンゲージメント力が高いコンテンツをSNS上でリサーチしてコラボする”手法が間違いなく増えていくことでしょう。次なるラッセンを見出すのは難しいですが……(笑)。
