紙媒体ならではの効果とは?
実際にパナソニックではデジタルとアナログを組み合わせた施策を行い、成果を上げている。デジタルで顧客情報をもとにリストを抽出し、郵送DMでリアルイベントに集客。DMにQRコードを仕込むことで来場情報を取得し、イベント後にデジタルで再度訴求する――といった施策を行ったという。
「我々はOtoOtoO(Online to Offline to Online)と呼んでいるのですが、元々はCLUB Panasonic会員をデジタルでリアルでの商品体験イベントに誘導し、その際にクーポンという形でQRコードを持ってきてもらう。これにより会員情報を特定し、イベントで体験いただいた商品のキャンペーンをデジタルで訴求する、という形で活用を進めてきました。その中でイベントに誘導する手法として、郵送DMが非常に効果があることがわかってきたんです。
ただし金額が高いので、絞込が重要になります。当社の事例ですと、会員属性はもちろんポイント数や入会時期などのロイヤリティなどで絞り込んでからDMを配信することで、配信数の10%超にイベントにご来場いただくことができました」(中村氏)
デジタルではなくアナログな紙媒体だからこそ、配信先の本人だけでなくその家族が見る可能性もあり、より結果に繋がったのではないかと中村氏は言う。DMに対し新聞折込チラシに変わる紙媒体として興味を抱いているという足立氏も、紙媒体ならではの特性について言及した。
「当社もDMには興味をもっています。新聞の購読率が下がるにつれ折込チラシの効果が落ち続けており、それに変わるものが必要だからです。紙とアプリのクーポンは、実はかなり異なります。アプリのクーポンは店舗に行こうと思った際に開かれます。しかし紙のクーポンは、切って財布に入れておくことの方が普通です。有効期限があるので『期限が切れる前に行こう』と来店を促す効果があるんです。このように同じクーポンでも紙のほうが効果が高いため、それを届ける手段として、DMも含めた代替手法を検討しはじめています」(足立氏)
一方一色氏は、DM送付時に対象を絞り込んだリストを使用することの重要性を失敗例を挙げて力説。そのような経験から、現在MAツール導入を進めている点にも触れた。
「以前、基礎化粧品『アスタリフト』という当時50代女性がメイン購買層のブランドのEC部門を統括していた際、電話・FAXからの注文顧客をWeb会員へスイッチしてもらうためにDMを送付したことがありました。EC部門の売上を急拡大させたため、上層部からコスト面でも有利なECに顧客を誘導するように指示があったんです。そこでWebで購入するとポイントを何%か追加付与するキャンペーンを訴求したリアルDMを全会員に送付したのですが、多くの顧客はECの使い方がわからなかったのか、Web会員になっても電話でWeb操作方法を聞きながら注文するという問い合わせが増加しました。結局オペレーターのコストがかかり、当初の目的が果たせなかったんです。
顧客それぞれの嗜好、ニーズ、ライフスタイルに合ったコミュニケーションをとらず、売り手の都合だけの施策ではコンバージョンには繋がらないのだと痛感しました。そこで現在はMAツールの『Marketo』を導入し、限りなくOne to Oneに近い形でクリエイティブやデバイスを選択しながらコミュニケーションをとり、エンゲージメントとコンバージョン両方を獲得するための戦略を構築しているところです。また、日本で得た知見や成功パターンを、グローバル展開するCOE体制も同時に構築中です」(一色氏)