ハッとさせられるCRは、AIにとっては“バグ”でしかない
――自動バナー生成や素人の方々による動画作成など、デジタルの進化によってクリエイティブのハードルが低くなってきています。ひょっとすると今後はプランニングやキャンペーンの設計を、人間ではなくディープラーニングなどAIが賄うことも考えられるのではないでしょうか。
本間:その視点で言うと、ここ最近で皆さんが驚かれているのが、Googleフォトではないでしょうか。Googleに写真をアップロードすると自動的に写真が整理されるサービスですが、Facebookのように「ここに写っているのは、この人じゃありませんか?」という問い掛けだけでなく、「この写真の向き、もしや逆ではありませんか?」という指摘までするように進化しています。
そう、実はGoogleフォトには、相当のAIが取り込まれているんですね。こうしたことから推測しても、クリエーションの世界において、AIのサポートがかなり介入していると考えられます。
私自身、クリエイティブの仕事をお手伝いした経験がありますが、当時はフォトショップの仕事が早い人間というのは、優秀なクリエイターとして評価されていました。けれど今では、フォトショップを始めとしたレタッチの仕事はAIが自動的にやってくれるので、いわゆる「スキル」には成り得ません。
一方で、「コミュニケーションにおいてハッとさせられるクリエイティブが AIに創れますか」というと、それは違う。実は「ハッとさせられる」というのは、コンピューターのアルゴリズムでいうと、「バグ」でしかあり得ないんですね。
――なるほど。まさに、そのお話にハッとさせられました。
本間:今から15年ほど前に伊藤穰一さん(2011年4月に就任した日本人として初のMITメディアラボ所長)が、とても面白い話をされています。「これからは誰しもがライターになれる可能性があるけれど、プロとアマチュアの違いは、プロは0から1を作れるのに対し、アマチュアは1を1.1か1.2にしかできない」ことだ、と。
すなわち、新しい切り口によって新しい意見を作るのは、絶対的に残るライターの仕事なんです。伊藤さんはこのことを非常にかっこよく表現していて、「オリジナルソングが作れるプロとミキシングができるDJとでは、もともとの姿が違う」、とおっしゃいます。
つまりAIが得意なのは、ミキシングのほうです。いわばオリジナルを創ることはトップクリエイターにしか成し得ない、ブルー・オーシャン。誰も考えつかなかったアイデアを作る能力は、AIがどんなに進化したとしても人間に残された仕事なんです。
――クリエイターにとっては未来を実感できるお言葉です。同時に、「0から1を生み出す」努力が欠かせませんね。
本間:そこで重要視すべきは、誰も思いつかないアイデアが、なぜ世の中に出ていないかを理解することです。世の中に出ていない作品には、それなりの理由があります。モラル上の問題なのか、ビジネス上のリスクなのか、本当に今まで誰も思いつかなかったアイデアなのか。そこをジャッジできるクリエイターの存在は、すごく重要だと思いますね。
アメリカではVRはプロがサポートしてみんなで楽しむもの
――となると発想力だけでなく、これまで以上に幅広い知識が必要になりますね。これはコードアワードのテーマでもある「デジタルとクリエイティブの融合」にもつながると思います。この点において、最近、目に留まった好事例はありますか?
本間:今年3月、米国で行われているSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)に行きました。2017年度のテーマが「AI」「AR・VR」「ヘルスケア」だったんですが、特に「AR・VR」については、米国でいかに一つの産業として成り立っているかを実感させられました。


たとえばロサンゼルスには、VRを用いたシアターが存在するんです。そこでは6つほどの作品が、それぞれ20分単位くらいで上映されています。お客さんは好きなタイミングで、好きな作品を見ることができるんですね。ちょうど私が訪れていた時期には「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」の世界が疑似体験できるVRもありました。
――聞いているだけでワクワクしてしまいますね。
本間:そう、ワクワクしちゃうでしょう? しかし日本ではVRって、個人で自主的に楽しむイメージがありますよね。それが米国においては「VRって、自分でやるには意外とハードルが高いよね」という認識があるんです。
実際にGoogleからリリースされている「ハリーポッター」のVRアプリ「Fantastic Beasts」にしても、映画さながらに杖を振るシーンを再現しないと楽しめない。そこにハリウッドチームの考えが加わると、「プロがサポートする映画館を作ったほうがいいんじゃない?」という考えになるんです。
その流れを汲むと、「これまでのVR対応携帯アプリって、セルフサービスに特化しすぎていたのかも」という反省が生まれます。そのことを彷彿とさせるような現象が日本にもあって、昨年の「Pokemon GO」です。
そもそも同じくナイアンティック(Niantic)がリリースした「Ingress」はマニュアルを一切出さず、自ずとユーザー同士のディスカッションを促す“ハイブロウ”な遊びでしたが、「Pokemon GO」はさらにユーザーが多く、自然発生的にユーザー同士が質問し合える状況が生み出されましたよね。
この流れを見ると、携帯そのものは個人で使用するメディアではあるものの、「みんなで一緒にガイダンスを聞き、その後1カ月間は個人でトレーニングし、また1カ月経ったらみんなで集まって楽しむ」というアプリがあってもいいんじゃない? って思うんです。
パーソナルの機関だと思っていたものが、集合の機関としても使える可能性が生まれます。スマホが持つ「通信」という役割に対し、新たな可能性が見えてくるんですね。SXSWで米国のデジタルマーケティングを目の当たりにしたことも含め、リアルなコミュニティが形成されつながりができる「トライバル」なコミュニケーションの可能性を感じています。
――VRへの新たな視点も、AIには及ぶことのできないクリエイティブ領域についても、日本のクリエイターが見出すべきチャンスは、まだまだ転がっているといえるでしょうか?
本間:AIは、過去の記録からしかアイデアを作れません。言い換えれば、クリエイターは過去になかったと思われることを作ってしまえば勝ちなのです。クリエイターは「どうして僕のアイデアが分かってもらえないんだろう?」と悩まされるかと思いますが、それは「あなたのアイデアが、あまりにも世の中の次元を飛び越えてしまっているから」かも知れない。そこは商業クリエイターであればこそ根気強く、仲間を捜す努力をしてほしいと思いますね。