EC育ちの分析・予測技術を実店舗に
――今日は、サイト内検索エンジン「ZERO ZONE SEARCH」やレコメンドエンジン「ZERO ZONE RECOMMEND」をはじめとする各種サービスで分析・予測技術を発展させてきたゼロスタートの山崎社長と、スーパーマーケット業界に対するEDI・POS導入を支援してきたノーチラス・テクノロジーズの神林会長にお話をうかがって参ります。
はじめに、両社が小売業における「販売予測システム」でタッグを組むことになった経緯をお話しいただけますか。
山崎:はい。当社は元々EC部門を持つ大手企業を対象とし、サイト内検索やレコメンドなど機械学習を活用したソリューションを提供してきました。レコメンドから出発しサイト内検索を主軸としソリューションの領域を拡張しつつあり、2015年には広告最適化エンジンの「ZERO ZONE AD」、先月には新製品のレビューエンジン「ZETA VOICE」を発表しています。
主なクライアントはヤマダ電機様、イトーヨーカ堂様、大手製造小売アパレル企業様などで、ECと並行して実店舗を多数展開している企業が多いのが特徴です。こうしたクライアントと向き合う中で、実店舗に対してもECで得た知見を活かして支援できるのではと考えてきました。
そんな時に、スーパーマーケットに幅広いネットワークをお持ちのノーチラス・テクノロジーズの神林会長から「販売予測システム」を一緒にやろうとお声がけいただきました。
神林:スーパーマーケット業界で深刻な人材不足が起きている中、ICTの活用が望まれるにもかかわらず、なかなか現場での活用が進んでいないことが耳に入ってきていたのです。そこで、私が窓口になってゼロスタートの持つ優れた予測ロジックをスーパーマーケット業界に導入できないかと考えてお声がけさせていただきました。
山崎:実店舗向けに検索やレコメンドのノウハウを使ってサービスを提供したいと考えていたので、ありがたいお申し出をいただき、“渡りに船”とばかりにご一緒させていただくこととなりました。
サイト内検索で鍛え抜いた「購買予測」技術がカギに
――「販売予測システム」のコアを支えている予測ロジックとは、どのようなものなのでしょうか。
山崎:予測ロジックというと一撃必殺のようなイメージを持たれがちですが、実は小さなノウハウの積み重ねで、実に泥臭いものなんです。例えて言うなら、F1の車があれだけ高速で走れるのは、決して「すごいエンジン」を積んでいるからだけじゃない。タイヤ一つ、ネジ一つという技術の積み上げですよね。ゼロスタートの予測ロジックは、そうした職人的な全体性能の高さで成り立っているんです。
具体的には、消費者の購買予測を行い、それをいかに検索結果に反映するかを研ぎすましてきました。いわゆる「パーソナライズ」の実現に取り組んできたのです。レコメンドはもちろん、検索でも「購買予測」の技術がカギです。こうしてECで鍛え抜いてきた「購買予測」の技術は、リアル店舗での販売予測にも活用できる自信がありました。
――「買う側の予測」は「売る側の予測」にどのようにつながるのでしょうか。
山崎:見る側が異なるだけで、予測を導くデータは過去の販売推移や天候などまったく共通ですし、「購買予測」と「販売予測」はほぼ同じものと考えていただいてよいと思います。
強いて言うなら、「販売予測」は「購買予測」と違って「誰が買うか」を気にしなくてもいい代わりに「いつ買うか」というタイミングを重視します。生鮮食品を扱う以上、「明日以降」ではなく「今日」売れるものを予測することが大切なんです。
スーパーマーケットを知り抜く神林氏も納得の分析性能
――神林会長から見て、「販売予測システム」はスーパーマーケットに対してどのようなメリットを提供できるのでしょうか。
神林: ゼロスタートの技術によって、精度の高い予測を高速で提供できることですね。元々私は家業のスーパーマーケットの経営に携わる中でシステムを担当していた経験があるので骨身にしみてわかるのですが、スーパーマーケットの在庫管理・発注処理は業務サイクル上、その日のうちに処理が終わることが理想です。だからこそ、精度とスピードが極めて高いレベルで両立していることは非常に重要です。
山崎:ゼロスタートは要求レベルの高いクライアントとの取り組みを通じて、ロジックの精度とスピードを高いレベルで両立してきましたので、その点には自信があります。
――システムをスーパーマーケット業界に紹介していくにあたっては、神林会長の業界に対する深い理解と人脈が役立っているとうかがいました。
山崎:そうなんです。私たち側から見ると、神林さんのスーパーマーケットへのアプローチ力は大きな魅力ですね。私たちのチャネルはまだまだEC分野に留まっています。それに、リアル店舗のご担当者が、AIや機械学習といったICT技術を自らの業務に活かそうという発想に対して拒否感を持っていることも少なくありません。
だからこそ、スーパーマーケット業界に対して深い理解をお持ちの神林さんが企画したシステムで、実際に神林さんの口からシステムの説明を受けられるということの安心感は大きいはずです。
神林:スーパーマーケット事業者様には、最新のICT技術ということで身構えるのではなく、「日常的に活用しているEDIやPOSデータ分析の延長線上で『販売予測システム』を活用する」という視点を持っていただけるよう、お話をしています。
――実際の導入にあたっては、両社はどのような業務分担になっているのですか。
神林:私が営業・企画担当として、それぞれのスーパーマーケット事業者様と話をしながら、「販売予測システム」のメリットを紹介したり、そのスーパーマーケット固有の販売予測ロジックの考え方をヒアリングしたりしながら導入を進めていきます。
そういったコミュニケーションをとる上では、私がEDIやPOSの導入を通じてスーパーマーケット業界の考え方を深く理解していることや、自分自身が小売業で受発注業務に就いていた経験が大いに役に立っています。
山崎:スーパーマーケットへのヒアリング内容を神林さんから引き継いで、実装は私たちの方で行います。それぞれの店舗や商品によっても予測ロジックは異なっていますから、たとえば「ネギ用ロジック」「まぐろ用ロジック」というように商品ごとにロジックを積み上げるというかなり地道な作業を進めます。
スーパーマーケットで集めているデータはECに比べるとデータの粒度が大きく、量を集めて解析する必要があるので、そのあたりの設定には様々な調整を行っています。
ノウハウが属人化しがちな発注作業をICTで底上げしたい
――実際に導入された小売事業者の反応はいかがですか。
神林:3月末に提供を開始し、既に数社にてテスト的に利用いただいておりますが、反応はよいですね。スーパーマーケット業界は人材不足の傾向にあり、かつてのような職人技による発注は過去のものになりつつあります。少ない店員数で業務を回していくために、ICTの活用は必須と言えるでしょう。
ただ、「販売予測システム」についてご説明する時に、AI技術については拒絶反応をいただくこともあります。世の中があおりすぎているせいもあってか「仕事をAIに取られる」という心配を持たれるようです。実際にはAI技術は敵ではなく業務を手伝ってくれる頼れる存在なのだと認識してもらえるよう、努力を続けたいと思っています。
山崎:店舗の担当者の方が日々こなしている業務って、まだまだ機械には真似できない、非常に高度なことです。たとえば「お客様の服装」を見て何を売るか判断するカリスマ的な店員さんは、ECにおける購買予測エンジンを磨き上げる上でも「先生」なんです。
ただ、ノウハウをロジック化できておらず、スキルが属人的になりがちなので店舗スタッフによってパフォーマンスに差が出てしまいます。そこにICTを活用することで、人間の力を補完して全体的な底上げができることを知っていただきたいですね。
仕入れ精度はスーパーマーケット社員だった頃の神林氏を超えた!
――今後については、どのような展開をお考えですか。「販売予測システム」や御社のこれからについてお聞かせください。
山崎:「販売予測システム」については偶然の産物で、神林さんとの個人的なつながりがあったからこそ実現したものです。このシステムの開発を通じて、私たちの「販売予測」ロジックがECのみならずリアル店舗でも有効だということが示されたのは、大きな自信となりました。
私たちの予測テクノロジーが使える業界はまだまだあるはずだと感じています。たとえば、遊園地の来場者数予測にも使うことができるでしょう。もしかしたら、渋滞予測やメディアのPV予測なども可能かもしれません。今後はそうした他分野への展開も意識していきたいと考えています。
神林:私自身はやはり小売業界の未来が気になります。時給2,000円でもパートが集まらないというくらい人が不足して、業務が回らなくなってきていると聞きます。そんな状況だからこそICTの手を借りて業務を効率化することを訴えていきたいですね。
「販売予測システム」の発注能力は、100%に近い精度で販売を予測する「名人」クラスの売り場担当者には及びません。でも、スーパーに務めていた当時たまに発注をかけていた私よりは断然精度が高いのは実証済み(笑)。だから自信を持ってお薦めできます。