デジタルシフトはWebサービス企業が一歩リードか
――祖谷さんは広告代理店を経てアドビ システムズに参画されています。いわゆる4マス中心のプラニングをとことん追求されてからデジタルマーケティングへと主軸を移したご経験から、マーケティング全体がデジタル化していくインパクトをどのように捉えていらっしゃいますか。
祖谷:広告代理店時代、クライアントに広告効果を説明する際に、テレビの視聴率や雑誌の販売部数といった指標を使うことに、若干の歯がゆさを感じていました。広告の結果として「実際にユーザーが動いたかどうか」を評価したい場合、それらの指標はダイレクトに広告の効果を説明するものではないからです。当時ユーザーの動きは、実際の販売状況から推測するか、サンプリングによるアンケート調査くらいでしかトラッキングできませんでした。
ところが、デジタルが潮目を変えました。ユーザーの行動がほぼリアルタイムで、しかも全数データとしてトラックできるようになったわけです。データをもとに施策を最適化していくための技術的裏付けができたことで、マーケティングのあり方も一変したように思います。
こうした変化をいち早く力に変えているのは、オンラインでサービスを展開している事業会社でしょう。一方で、従来からのマーケティングチャネルの影響がまだまだ強い大企業のマーケターはこの潮目の変化にどう対応していくか、とてもチャレンジングな局面に突入していると思われます。
現場のマーケターへの権限委譲がポイント
――とはいえ、事業会社のデジタルトランスフォーメーションに困難がつきまとうのも事実です。コンサルタントとして日々事業会社に向き合っている岡田さんからご覧になって、事業会社のマーケティング担当者が苦労するポイントはどのあたりにありますか。
岡田:上層部との温度差や部門間の壁ですね。伝統的な企業は組織に縦割りの文化が根付いていることが多いです。その場合、予算を握っている上層部の理解がなかなか得られなかったり、他部門との連携がうまくいかないと全てがストップします。デジタルに割く予算がとれず、プラットフォーム導入のために稟議を回しても頓挫してしまうことも。とりあえずマス広告やデジタルを使っていても従来通りの施策をやって認知をとっておけばいいだろうという考え方が根強いのも事実です。
祖谷:根拠となるデータがあるのに、改善に向けてのアクションが社内で承認されないという話も聞きます。マーケティング担当者個人で判断できることが少ないのがボトルネックになっています。うまく権限を現場に移譲している企業は、この変化の激しい局面にうまく対応している印象があります。
デジタル専業の部門横断型組織で成功する例も
――デジタルトランスフォーメーションがうまく進まない背景には、上層部の理解が得られないという問題があるわけですね。逆に、成功している企業にはどのような組織的な特徴があるのでしょうか。
祖谷:成功する企業では、役員クラスに強い推進役がいるケースが多く見られます。その役員の方ご本人は、必ずしもテクノロジーに精通されているケースばかりではありません。ただ、デジタルのことが100%わかっているわけではなくても、マーケティングの視点で見て「これは避けられない環境の変化が起きているんだ」と直感的に理解して、デジタルシフトを全力で支援してくれるのです。
岡田:マーケティングやプロダクトの部門とは別に、デジタル専業の部門横断組織がある企業も成功しやすいですね。とある企業では、「まずはやってみて数値を見て判断」というポリシーがあるのも追い風になっていました。マーケ担当のデジタル施策への取り組みに対して、デジタル専業のハブ組織がアドバイスやフィードバックを行って支援し、数字を見てモニタリングするというやり方で、マーケティング組織全体のデジタル化を徐々に推進していました。
祖谷:事業部横断型のハブ組織を作って情報を集約させる企業は早く動く傾向にありますね。事業部ごとにプラットフォームを入れてしまうと、事業部ごとのタイミング・ニーズ・予算に応じて個別最適されることになってしまうので、組織のサイロ化が進んでしまいます。