SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

直近開催のイベントはこちら!

MarkeZine Day 2025 Retail

SNS起点で生まれるマーケティングトレンド

なぜカンヌライオンズの最高賞「Fearless Girl」は、“銅像を置いた”だけで話題になった?

「炎上」と「賞賛」が加速させるエンゲージメント

 もう1つの要因ですが、この施策が米国社会のなかで賛否両論を呼び、「炎上」と「賞賛」の両面で活発な議論が交わされる事態へと展開していった点が挙げられます。前述したように、少女像は、「企業の役員会の女性比率の低さ」や、「金融業界における女性の給与の不平等」といった社会や金融業界が抱えるジェンダー問題に対して、生活者の意識を向けることが狙いでした。

 しかし、銅像設置後の反応は、必ずしもポジティブな内容の声ばかりではありませんでした。活動に賛同する声、単純に新しいシンボルを面白がる声が多数上がるなか、「チャージング・ブル」の作者アルトゥロ・ディ・モディカ氏は記者会見を開いて猛反発。彼は、ニューヨーク市に対して、自身の芸術作品である「チャージング・ブル」が企業の広告活動に勝手に利用されたことで、自身の著作権や商標権が侵害され、さらに作品が持つ元々の意味合いまで歪められてしまっていると訴えました。

 ただ、このアルトゥロ・ディ・モディカ氏の反発に先立ち、ニューヨークのビル・デブラシオ市長は、この少女像を「恐れや権力に立ち向かうことの象徴(“standing up to fear, standing up to power”)(市長による発表の動画より、2017年3月27日公開:https://www.youtube.com/watch?v=X3d0L8iZY0k)」として、当初は1週間限定で許可していた像の設置を来年の国際女性デーまで延長すると決定。この市長の決定に対して、「『Fearless Girl』の撤去を求めることこそ、男性社会の圧力そのものだ!」といった市長の決定を強固に賛同する人々が現れていたりしました。

 一方で、アルトゥロ・ディ・モディカ氏の主張に賛同したアーティストが、「Fearless Girl」に排尿している犬のオブジェを設置。強烈な賛否両論の応酬が数ヶ月間続く事態につながり、議論が議論を呼び大きな話題を形成していきました。

炎上を恐れずに賛否両論を巻き起こすための覚悟、日本ではどうか

 ブラックマンデーの株価大暴落で大打撃を受けた米国。失意の人々を鼓舞する存在であった「チャージング・ブル」が、時代を超えて、米国経済を支えてきた金融業界、米国のマッチョイズム、権力の象徴として再解釈されたことは、劇的な変化を遂げた米国そのものと、その功罪を表す痛烈な皮肉でもあります。

 また、ゲリラで始まった「チャージング・ブル」を認可し、シンボル化していったニューヨーク市自身が、今度はその存在を否定するかのような「Fearless Girl」を受け入れ、設置延長を許可したことにもある種の驚きを感じます。

 このように、生活者の間で大きな話題を生む施策を企画するために最も重要なことは、炎上を恐れずに賛否両論を巻き起こす強烈なメッセージを放つ覚悟と、形にする実現力です。

 しかし、炎上に対してナイーブな日本においては、賛否を許容するコミュニケーション施策には慎重なのが実態です。生活者の受けとめ方やメディア環境の違う日本において海外の事例をすべてベンチマークにする必要はありませんが、マーケティング担当者がこの事例から学ぶべきことは、「少しの勇気を持つ」ことなのかもしれません。そう、小さな少女の銅像のように。

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • note
関連リンク
SNS起点で生まれるマーケティングトレンド連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

物延 秀(モノノベシュウ)

スパイスボックス 副社長。2006年スパイスボックス入社。プロデューサーとして大手企業のデジタル・コミュニケーションをワンストップで支援し、2012年以降はソーシャルメディアを中心とした「共感」と「話題」を生むコンテンツのプランニングとプロデュース、自社ソリューション開発を統括。2016年に事業統括責任者および執行役員に就任。2017年より現職。自社サービス:インフルエンサーマーケティング支援「TELLER」、コンテンツマーケティング支援「BRAND SHARE」、ROI分析プラットフォーム「THINK」、自社メディア:「newStory」自著:『新ヒットの方程式』~ソーシャルメディア時代は、「モノ」を売るな「共感」を売れ!~(宝島社)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2017/07/31 10:00 https://markezine.jp/article/detail/26852

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング