何が問題だったのか?
「Bodega」というサービス名は、スペイン語の言葉で「お店」の意味。それだけでなく、アメリカのいたるところにある軽食や日用品を取り揃える「地域密着型のなんでも屋」も指す。
主に南米系移民が家族で経営。アメリカ国勢調査局による2015年の報告では、ニューヨーク市内とその周辺ではコンビニエンスストアの数が「約900」だったのに対して、Bodegaはなんと「約6,500」というから、いかにアメリカ人の生活に浸透しているのかわかるだろう。

Bodegaは古くから南米系移民人コミュニティーを中心に形成されてきた商業文化。ニューヨーカーはおのおの「馴染みのBodega」を持ち、その店主とのコミュニケーションを楽しみにしている人も少なくない。
そうした背景から、「無人Bodega」のサービス開始に際しては、次のような厳しい批判の声がSNS上に溢れた。
「ただでさえ生活が苦しい移民の食い扶持を奪うな」
「その棚は淹れたてのコーヒーも提供してくれるというのか?」
「私はテクノロジーの力には頼らず、今まで通りのBodegaを支持する」
「棚の形をしたBodegaだなんて、彼らはBodegaの根本的な役割をはき違えている」
Bodegaでは「看板猫」が飼われていることも多く、「Bodega Cats」は店の顔として常連客たちに親しまれている。インスタグラムでBodega Catsの写真を投稿し、10万を超えるフォロワー数がいるアカウントもあるほど。そんなBodega Catにインスパイアされたと思しき、黒猫の絵柄をあしらった同社のロゴもやり玉に挙げられた。

事前調査では97%の人が事前調査で「受け入れる」と回答
批判が相次いだ後、前出のPaul氏は同社のブログに謝罪文を掲載。「Bodegaは従来のBodegaビジネスを駆逐しようとは一切考えていない」と前置きした上で、「Bodegaという社名が誤解を招くリスクがあったことは承知していたが、まさかここまでの批判を受けるとは思っていなかった」と、理解を求めた。

「まさか」と彼が言うのは、彼らは社名を決める際、アメリカ国内の南米系移民人コミュニティーに事前調査を行い、「97%」の人がBodegaという社名を受け入れると回答していたからだ。
たしかに従来のBodega経営者たちからは、調査結果とは真逆の声が聞こえてくる。ニューヨーク市内で1日に5,000人もの客が訪れる繁盛店を経営するHan Seo氏は「amNEWYORK」の取材に対して、「僕は常連客の欲しいものは把握しているし、(無人店舗の)Bodegaより速くサービスを提供できるけどね」と話す。
同じく他の店を経営する男性も、「もし新しいものを試したければ試せばいい。だけど流行らないと思う」。地元密着型で顧客との信頼性を着実に築き、大手コンビニエンスストアやドラッグストアにも打ち勝ってきたからこそ、彼らには自信があるのだろう。
今の事態は、創業者の二人にとってまさに「青天の霹靂」だったに違いない。事前に行った世論調査と実際の総意とが真逆になった今回のケースは、「トランプ大統領誕生」の一件を想起させる。