オリンピックに向け、日本企業にとっても他人事ではない
なぜこうした「想定外」の事態が起きてしまったのだろうか。近年は、リブランディングした「Airbnb」の新しいロゴが卑猥と批判を受けた件など、企業が社名やロゴ、またPR手法を誤ったがために炎上してしまったケースが散見される。
それらはいずれも、すべての消費者が置かれるさまざまな立場を多角的に観察しきれず、結果的に軽視したように消費者の目に映ったことが招いたと言える。その逆に、LGBTなど規模はかならずしも大きくないコミュニティーを取り込んで成功する事例は多い。
特に多様な人種が暮らすアメリカでは、文化や言葉、コミュニティーへの帰属意識などは企業が尊重しなければならないデリケートなファクターであり、今回主に声を挙げた南米系移民人コミュニティーは国の人口の13%を占める巨大マーケットだった。
無人店舗のBodegaは、すでにサンフランシスコに30店舗を設置しており、今後、西海岸地域にも50店舗を、さらに2018年までにアメリカ全土に1,000店以上を展開する計画。しかし、各種メディアで「BodegaがニューヨークをInvade(侵略する)日は来るのか」と報じられるほど敵視されている。(参照:amNEWYORKの記事)

こうした事態は、モノカルチャーと言われる日本の企業にとっても他人事ではない。最近ではサントリーのビール「頂」のテレビCMが女性軽視的な表現が使われていると炎上した件、またニコンが新商品の宣伝に男性フォトグラファーばかりを起用したことが女性差別だとクレームが相次いだのは記憶に新しい。
SNSが普及し、誰もが一個人として自らの意見を発信できるようになった昨今、特にミレ二アル世代やZ世代などの若年層を中心に、自らの考えを表明し、他者と議論を交わすことは当たり前になってきている「ポリティカル・コンシューマー」が増えている。一個人が声を挙げることで企業など大きな主体を動かすことも可能になってきた。
企業と消費者が双方向的にコミュニケーションを取りやすくなったことの利点は、消費者理解の深化や新商品アイデアの着想など大きい。一方で、マーケティング戦略・施策を検討・実行する際には、消費者の多様な立場に今まで以上に共感し、コミュニティーに貢献する意識を持つ必要がある。
2020年の東京オリンピックを目前に控え、企業のインバウンド事業の拡大に伴い、日本人以外をターゲットにしたキャンペーンも増えるだろう。Bodegaのケースを反面教師として、企業はより多角的な視点を持たなければならないことを肝に銘じたい。