社会的に重要なニュースを、多様性をもって届ける
——ECサイトのレコメンドのように、情報も個人の主義や関心に偏って提示されてしまう時代ですが、ニュースを届けるプラットフォームとしては「多様性」が大きなポイントになると。
ジャロスロフスキー:そうです。ユーザーが自分自身の信念の延長上だけで情報を求める使い方ではなく、こういう側面もある、ああいう側面もあるのだと気付けるような接触を可能にすることが大事です。
私はレポーターたちに、いつも「ニュースの定義とは何か」という話をしています。ひとつは、人々が興味を覚える内容であること。もうひとつは“News”ですから当然、ユーザーや自分自身がまだ知らない新しい情報であることです。もちろん完璧なパブリッシャーはいないので、正しいと思って報道した情報がひっくり返ることもジャーナリズムにはつきものですが、社会的に重要だ、人々が知るべきだと考える“ニュース”を多様性をもって届けることが非常に重要だと考えています。
——なるほど。その、情報の正しさという部分は、スマートニュースではコンテンツ単位で、品質などを確認するアプローチを取ることで担保しているわけですね。
西口:精査はたしかにシビアですが、安全性を求めるゆえに絞り込みすぎて、我々自身がフィルターバブルをかけてしまわないようには注意していますね。
その兼ね合いはチャレンジングですが、画面の小さいスマートフォンが主流になって特に、重要性が増していると感じています。以前は紙媒体でいろんな見出しを一気に見たり、書店で多様な情報に触れたりするのが当たり前で、PCもまだ画面が広かったのでそこまで視野が狭くならなかったと思いますが、スマホだとこの面積で、しかも以前はみずから検索していたネットの使い方もどんどん受動的になっている。なので、多様性という観点はこれからますます求められると思います。

問題を見据えて広告主が持つべき視点は
——コンテンツや情報を集約するプラットフォームが浸透すると、ユーザーは発信元をあまり気にしなくなるのではと思いますが、その点はいかがですか?
西口:その傾向もあるでしょうが、一方でこんな現象もあります。最近テレビCMで英語圏のニュースを原文で読めることを訴求しています。ユーザーはSmartNews経由でCNNやBBCのニュースに接触し、その後気に入ったメディアのチャンネルを登録して、継続的にコンテンツを読んでいることが数値でも明らかになっています。ユーザーはちゃんと発信元を確認して、メディアの情報を取得しており、この現象はパブリッシャーにも喜ばれています。
——情報の質が良ければ、メディアへの信頼性は高まるのですね。
西口:そうですね。パブリッシャーと我々は、両輪です。これまでSmartNewsはプロダクトの充実に心血を注いできて、広報や広告営業が追いついていないので、今後は日米で強化して、パブリッシャーと広告主へも還元していきます。
——では最後に、西口さんには広告主や広告会社、パブリッシャーに期待することを、ジャロスロフスキーさんには日本の広告業界へのメッセージをいただけますか?
西口:私は長く広告主側にいましたが、アドフラウドやフェイクニュース、フィルターバブルの問題は多くの経営者やマーケターに知られていません。残念ながらネットの世界に完全な自浄作用は期待できませんが、このまま悪意ある場やプレーヤーにお金が流れていくと、オープンであるのがいちばんの特長のインターネットに政府の規制が入る事態にもなりかねない。現状と問題をまず認識していただき、広告を含めて健全な情報接触の環境をともにつくれたらと思います。
ジャロスロフスキー:アメリカでは日本に先駆けて急速にデジタルメディアの問題が噴出し、業界だけでなく一般のユーザーも混乱に陥りました。日本はアメリカの例に学んで、広告主はプラットフォーマーにもっと透明性を要求し、これらの問題が深刻化するのを避けていただきたいと強く思います。