“まとめ買い”は何が起こるかわからない

——今年1月、米P&Gのブランド責任者の方がIAB(アメリカのインタラクティブ広告業界団体、The Interactive Advertising Bureau)で発表したスピーチをきっかけに、日本でも今知られつつありますね。
西口:デジタルメディアの登場以前も、実は同じようなことはあったんですよ。テレビCMのスポット枠を大量発注したが、実際は一部が放送されていなかったという事件が過去にありました。90年代だと、街の屋外広告を束ねる業者に広告主がバルクで発注することもよくありましたが、実態は田舎の公衆トイレの上に看板が貼ってあったりして、そこを指摘すると「いやいやたくさん人が来ますから」と。それで、出稿先の確認できないまとめ買いは止めようと思いましたね。
——まとめ買いは広告主としてはラクですが、何が起こるかわからない。
西口:ええ。なので私は経験上、アドネットワークもあまり使ってきませんでしたが、これはデジタルメディアの抱える大きな問題だし、気づいている以上は何とかしたいという思いがずっとありました。
——そうなんですね。ジャロスロフスキーさんは米Wall Street Journalの政治記者を務めた後、オンラインニュースメディアの先駆けとして1994年にThe Wall Street Journal Onlineを立ち上げ、それからずっとオンラインニュースに携わられています。2014年、なぜスマートニュースへ参画されたのでしょうか?
ジャロスロフスキー:プロダクト自体の魅力、洗練されたテクノロジーやユーザビリティーに惹かれたのはもちろんですが、私も何より理念に共感したことが大きな理由です。
フェイクニュースとフィルターバブルの問題

——スマートニュースはジャロスロフスキーさんがずっと携わられてきた、コンテンツを生み出すパブリッシャーではなく、デリバリーを担うプラットフォームですよね。世の中に良質な情報を流通させるためには、パブリッシャー側で質の高い情報を生み出し続ける選択肢もあったのでは?
ジャロスロフスキー:もちろん、そうですね。ただ、我々のようなプラットフォームが広がっている今、コンテンツを作る側とデリバリーする側がともに協力しなければ、良質な情報を生活者に届けることはできません。
私がプラットフォーマー側に来た背景には、アメリカで先行していたフェイクニュースやフィルターバブルの問題がありました。
西口:フェイクニュースは文字どおり虚偽の情報をニュースに仕立て上げたもの。フィルターバブルとは、ユーザーが好む情報を判別して表示するネットのアルゴリズムの影響で、接触する情報が知らず知らず偏ってしまうことを指します。
ジャロスロフスキー:人はどうしても性質上、自分が腑に落ちる情報を選び、それを深堀りしがちです。先ほど西口さんが「大統領選を機に正しい情報が求められるようになった」と言われましたが、アメリカではここ数年でこれらの問題が大きくなっていて、昨年表層化しました。
なので、真実を伝えるニュースを、ユーザーが独自に判断できるように多様性を保って届けることに私は意義を感じたのです。肩書きがChief EditorではなくChief Journalistになっているのも、ジャーナリズムの視点でプラットフォームを運営する意図があり、日々エンジニアと接して我々のジャーナリズムに対する見解をアルゴリズムに落とし込んでいるんです。