シニアマーケットを開拓する理由
――セガというと、一般には若い世代に向けたゲーム開発のイメージが強いのですが、なぜ今回シニア向け事業を始められたのでしょうか。
倉辻:おっしゃるとおり、当社のコアユーザーは20〜30代がメインです。ですが、年代が上がり、結婚や子育てなどでライフステージが変化する40代前後を境に、ユーザーが離脱する傾向があります。そして一度離れたユーザーが、余暇ができる年代になって戻ってくるような受け皿がなかったので、シニア世代に向けてのアプローチが必要でした。
こうした課題に取り組むため、当時の本社社長室直轄のチームとして、シニア向け事業立ち上げのプロジェクトが始まったわけです。
植中:まずは、倉辻と私の2人だけで、本当に何もないところから始めました。何しろまったくノウハウもアイデアもないところから始めたので、最初は戸惑いの連続でした。
――そうした中で、「趣味」という切り口にたどり着いたのは、どのような経緯があったのでしょうか。
倉辻:シニア市場に詳しい外部コンサルタントの方と共同で、マーケット調査を実施しました。平均的な1日の生活時間調査の他、何を楽しんでいるのか、どういうニーズがあるのかを洗い出したところ、最も多かった回答が「趣味を楽しみたい」というものだったのです。
植中:一方、特に男性側からは、「趣味を楽しみたいが、そのきっかけがない」と悩んでいる方も多かった。ここに、我々がエンタテインメント企業として何かできるかもしれない、という可能性を見出したわけです。
ただ残念ながら、アンケートをとったところ、シニアの興味のある趣味として挙がったのが「旅、健康、グルメ、園芸、学び、鑑賞」で、ゲームは上位には入っていませんでした。今後はまた違ってくるでしょうが、現在ゲームそのもののコンテンツや、ゲームに関する情報がないのはそのためです。

シニア層に絞ったマーケティング支援サービスを提供
――趣味という切り口で、信頼性の高い趣味を楽しむ情報サイトとしての機能と、そしてユーザー自身が趣味を記録して楽しむ機能を備えているわけですよね。具体的な収益はどのように得ているのでしょうか。
植中:今年(2017年)6月下旬に、『シュミカツ!』の会員に実際に製品やサービスをモニターしてもらう「シュミカツ! アンバサダープログラム」を立ち上げました。これは企業の方が、自社の製品やサービスを『シュミカツ!』会員に提供し、記録やグループインタビューを通じて意見を募る他、タイアップ記事へ協力いただくことで、実際の利用者による生の声や感想を発信することができるなど、企業のマーケティング活動の支援を行うプログラムになります。
倉辻:ビジネスモデルとしては、『シュミカツ!』の記録サービスとメディアとしての特徴を生かした新しいマーケティング支援サービスになります。その内容は、会員を対象にしたモニター調査やアンケート調査、インタビュー調査、または会員でシュミロクに記録した趣味体験の記録を『シュミカツ!』の記事として編集して公開するというものです。
実際に使っている様子を会員さん自身が記録した内容は、企業側が思いもつかなかったような気づきを得ることができ、非常に好評です。
――具体的な事例を教えてください。
植中:サカタのタネさんとファミリーマートさん、住友化学園芸さんが組み、コンビニで買える家庭用園芸キット「ファミマガーデン」「育てる」シリーズがあります。この商品についてアンバサダープログラムを展開したのですが、シュミロクを見ていると、みなさんが楽しんで育てていたり、同じところで悩んだりしていることがわかります。
実際にターゲットとなる園芸初心者の方の意見を聞くことで、専門家や企業側が気づかない課題やフィードバックが得られる。たとえば、根腐れを防ぐために植木鉢の底には必ず穴がありますが、初めて園芸をやる方には、穴の役割も水受け皿の必要性もわかりません。シュミロクやインタビュー座談会などを通して得た、こうしたフィードバックを熱心にメモしていらっしゃいました。
――アンバサダープログラムを始められて、企業の方からの反応はいかがですか。

倉辻:シニア層自体、「近しい人からの体験談やレコメンドを重視する」という傾向があるので、同年代の方が使用した体験談というコンテンツが企業の方に喜ばれます。こうして得たフィードバックは、ニーズ理解にも利用できますし、シニア向け商品開発にも使えます。
またシニア層ならではの「フリーアンケートに詳細に意見を書く」という特徴も、企業の方が喜ばれるところです。実際、いろいろな企業の方とお話ししていると、やはり「シニアマーケットのニーズ理解」「商品開発」の2軸での期待が大きいようです。
植中:シニアの視点を知りたい企業はたくさんあります。それも「この製品やサービスを、多くの方々に広く使ってもらいたい」というものから、「深くじっくり使ってもらって、その体験談を知りたい」まで幅広いのですが、シニアマーケットを対象に、こうした様々なニーズに対応できるサービスはこれまであまりありませんでした。そういう意味で、アンバサダープログラムに期待している企業の方は非常に多く感じられます。
