発信する生活者の増加
本稿は、『シェアしたがる心理~SNSの情報環境を読み解く7つの視点~』の書評です。
2017年度の新流行語大賞にも選ばれた「インスタ映え」。Web上のコミュニケーションの手段がビジュアル(写真や動画など)へシフトし、発信する生活者の存在は日々大きくなっています。同書ではこうした変化を解説しながら「発信=シェアしたがる心理」について、考察をしています。
我シェアする、ゆえに我あり
「我シェアする、ゆえに我あり」。同書で最も印象深かったこの言い回しは、17世紀の哲学者デカルトの名言のもじりです。これは、マサチューセッツ工科大学の教授を務めたシェリー・タークル氏によるもので、彼女は「つながっていても孤独?」と題したスピーチで現代の若者を中心としたSNSヘビーユーザーの心理を言い表しました。同書では“シェア”について考える時、彼女の研究はマストで抑えるべきものとして、取り上げています。
さらに、誰もが小中学生の時に先生から言われた「家に帰るまでが遠足です」に倣い「SNSでシェアするまでがイベントです」という言い換えで、ユーザーインサイトの変化に関する言及へと続きます。この部分を簡単に説明すると、シェア自体がユーザーのアイデンティティーを構成するようになっており、SNS映えを意識した消費行動を「インサイトの逆転」であると説明しています。
実際に、SNS映えするカフェメニューが企画されたり、Instagramでは「#ミレニアルピンク」といって、ミレニアル世代の女子が好む柔らかいピンク色を用いたショップや商品が多数企画されていることから、シェアすること自体が目的になっていることがわかります。
ナイトプールが流行したワケを解剖
SNSに限らず様々なアプリの利用傾向からユーザーのSNSにおける行動を解説していく同書ですが、直近で流行っている事例が多数紹介されているので、参考になる情報が多くありました。
たとえば、今年の夏に流行した「ナイトプール」。ナイトプールでは、泳ぐことがマナー違反とされており、基本的にはゆっくりしながら自撮りを楽しむことが暗黙のルールとなっているとのこと。まさに、SNSでシェアするためのイベントです。
こうした流行を“なぜ?”と問いながら解剖していくのですが、その際、同書はSNS映えを下記の2つに解剖しています。
(A)存在としてのSNS映え:美しさや驚きを感じさせるフォトジェニックさ
(B)意味としてのSNS映え:いいね!したくなる文脈性が含まれた体験やシーン
(A)は、“写真映え”とイコールとなるもの。一方(B)には若者ならではの意味合いが込められており、いわゆる“リア充”に関連するものです。仲間内での承認や評価を求めるユーザーにとって、その承認を担保するものがSNSのいいね!であるというわけです。
ナイトプールでは(A)の要素はもちろん、水着になって連れ添える友だちや仲間がいることを示せる(B)の要素もアピールすることができます。近年流行しているハロウィンにもこの2つの要素が組み込まれています。
本稿では、“SNS映え”に関する部分を中心にレポートしましたが他にも同書では、“なぜ今消える動画が求められるのか”や“日本の盛りの文化”“SNS検索へのシフト”など、若者の動向を紐解くために必至なテーマが盛り込まれていました。若者のSNS文化がいまいち理解できないな……と感じているマーケターは、手に取ってみてはいかがでしょうか?