ザッカーバーグも求めたアダルト・スーパービジョン

有園:あ、先の話でシェリル・サンドバーグが抜けていましたね。2008年にFacebookのCOOになり、2012年には取締役に就任して、同社初の女性役員として話題になりました。
村上:彼女も、僕と同じアダルト・スーパービジョン(年長者が見守るような役割・前編参照)としてFacebookに行ったんですよ。或る日のオミッドのインターナショナル・オペレーションの会議が終わったときにシェリルが、「ザッカーバーグが“やっぱりアダルト・スーパービジョンが必要だ”っていうから、助けに行くわ」と言ってね。それで皆がわーっと拍手して、送り出した。
有園:そうだったんですね。日本という社会も今後どんどん大人が増えていくから、若い人を見守って転びそうになるときだけ助ける、みたいな感じにしないと生産性が上がらないと思うんですよね。
村上:最初にも話したけど、“放し飼い”ね。若い人がやっている最先端のことは、おっさんおばさんはもう理解も指導もできないんだから、基本は任せる。で、ここはちょっと注意したほうがいいよ、くらい口出す感じかな。あと、大事な役割は、若い人の代わりに世間様に“謝る”ってことですね。
有園:ああ、確かに村上さんは「おまえの好きなようにやれ、責任は俺が取る」とおっしゃっていましたね。だから、面と向かっていうのも何ですけど、じゃあ何かあってもいっか、と(笑)。
村上:そう、謝りに行くのが私の仕事。民放連に呼ばれ、JASRACに呼ばれ……。2006年にYouTubeを買収したときなんか、大変だったよね。
YouTube買収劇とテレビ各局の怒り

村上:もう時効だろうから話しますが、当時Googleは自前でGoogleビデオっていうのをやっていて打倒YouTubeを画策していたわけ。日本においては電通の当時のテレビ局長だった高田さんと組んで展開するはずでした。
一方で民放連は、YouTubeへのTV放送コンテンツの違法アップロードが後を絶たなくて、各局がバイトを雇ってYouTubeをチェックして逐一通報している状態でした。
そうしたらある晴れた金曜日、GoogleがYouTube買収したと。その土日は僕の電話が鳴りっぱなしでしたけど、出られませんでしたよ。
有園:まったく、ご存知なかったんですか?
村上:はい。VPでもM&A案件は知ることができません。それですぐにアメリカに飛んで、町の中華料理屋の2階にあったYouTubeを訪ねました。創業者のスティーブ・チェンとチャド・ハーリーに会って、もう大変なんだよというと、のっけから「わかってる」と。日本の違法アップロードの問題は認識しているし、申し訳ないと思ってるというんです。
だったらすぐ東京に来てくれと頼んで、彼らの最初の海外出張先が日本になったわけ。で、早速JASRACに参上して、怒り心頭の権利関係者の皆さんの話をひと通り聞いて、でもスティーブたちがいうには、DMCAによれば、プラットフォーマーはその上で行われる犯罪行為の責任を免れると。日本だと、プロバイダ責任制限法がそれにあたりますね。