400万以上のアプリが生き残りをかける成熟市場
昨今、アプリ事業者によるリテンションマーケティングが注目を集めている。アプリ市場の成熟にともない、アプリ事業者が抱えている課題がようやく顕在化し始めているのだ。
今回は、アプリのリテンションマーケティングの現状や課題、改善策について、アイモバイルのグロースハック事業部で部長を務める上原大貴氏と、リテンションマーケティングのエバンジェリストとしてツールの開発などに取り組む林宜宏氏に話を聞いた。
初めに、アプリ市場の成熟にともなうアプリ事業者の課題について、上原氏は次のように語った。
「国内のスマートフォン広告市場をけん引したのは、ゲームを中心としたアプリのプロモーションです。しかし今やアプリ市場も成熟し、国内だけでもインストール可能なアプリは400万を超えると言われています。このような状況なので、広告を用いて新規ユーザーを獲得し続けるという従来の方法だけで、アプリ事業を成長させることは難しくなっています」(上原氏)
そんな中注目されているのが、ユーザーとの継続的な関係を維持するリテンションマーケティングだ。リテンションとは、維持・保持といった意味を持つ言葉。アプリマーケティングにおいては、ダウンロードしたアプリを使わなくなったユーザーを呼び起こす手法として知られている。
Webサービスでは、ECやメディアを中心にリテンションマーケティングが定着。現にユーザーに最適化された情報をブラウザ上やメルマガなどで表示・配信し、ユーザーのサービス利用を促す施策は定番となっている。
たとえば、ECサイトであれば、カゴ落ちしたユーザーや休眠顧客へ「お買い忘れはありませんか?」とメルマガやプッシュ通知をセグメント配信をする。ユーザー属性やサイト内での行動データなどを基にターゲティングを行い、複数のチャネルを横断してコミュニケーションを図るというのは、既に多くのECサイトが取り組んでいる施策だ。実際、定期的にECサイトからのおすすめ情報を受け取っている方も多いだろう。そしてこれらの施策は、マーケティングオートメーション(以下、MA)の導入により実現している場合が多い。
アプリにおいてもWebと同じく、起動していない・起動回数が少ないユーザーへのアクションを行うとともに、起動中のユーザーにも適切にアクションを行うことで、継続率の向上やアンインストールを防ぐ必要がある。
だがこれまで、アプリにおけるリテンションマーケティングは、あまり進展してこなかった。これには、機能性の高いプッシュ通知やアプリ内メッセージを、各アプリ事業者が独自に開発するには、コストがかかりすぎるという難点が関係しているという。
アドネットワークを持つアイモバイルだからこそできる支援
そこで、クライアントに多くのアプリ事業者を持つアイモバイルは、リテンションマーケティングの支援に着目。pLucky(プラッキー)が展開していた、リテンションマーケティング領域の事業を譲受した。
pLuckyは、2011年に創業したグロースハック系の分析ソリューションを手掛けるスタートアップ企業。これまでにプッシュ通知とアプリ内メッセージ配信を軸としたリテンションマーケティングツールを提供しており、すでに1,000を超えるアプリへの導入実績がある。今回アイモバイルがリリースしたモバイルアプリ向けの成長支援サービス「LogBase(ログベース)」は、これらのツールの機能をすべて搭載したものだ。
「アイモバイルは、広告事業を通して集客を、『LogBase』を通して収益化までを、トータルでサポートすることができます。リテンションマーケティングは、ロイヤルティの高いユーザーによる安定的な収益獲得だけでなく、ユーザー獲得を目的とした広告効果の向上にもつながります。ここに長年アドネットワークを展開してきたアイモバイルの知見とノウハウを活かすことができるのです」(上原氏)
実は、pLuckyが事業譲渡先にアイモバイルを選んだ理由には、上原氏のコメントにある“アドネットワークを展開してきた知見とノウハウ”が大きく関係している。
「pLuckyで提供していたリテンションマーケティングツールは、新規ユーザーを獲得した後のユーザー育成が図れるものです。しかし、私達のお客様であるアプリ事業者は、そもそも新規ユーザーを獲得する段階から課題を抱えており、これを解決できるソリューションを求めていました。アプリ事業者のニーズにトータルで応えるためには、新規ユーザーの獲得という上流側のソリューションも必要だったのです。
新規ユーザーを獲得するためには効率的な広告施策が必須ですが、pLuckyにはそのためのリソースや知見がありません。ですので、広告運用のノウハウがあり、かつアドネットワークを展開している企業と一緒に事業を行いたいと考えていたところ、アイモバイルに声をかけていただき、一緒に事業を行うことになりました」(林氏)
アプリ事業者がリテンションマーケティングを行うことによって、ユーザー数の拡大および広告収入向上という相乗効果を得ることができる。アドネットワークを持つアイモバイルだからこそ、アプリ事業者へ、広告主としてだけでなく、パブリッシャーとしてのメリットも届けられるのだ。
Webだけでなく、アプリにもMAを
今回「LogBase」の開発をリードした林氏は、アイモバイルでリテンションマーケティングのエバンジェリストとして活動している。
「リテンションマーケティングは、エンドユーザーにサービスを使い続けてもらうための改善活動です。アプリインストール後のユーザー行動を観察すると、必ずアプリを使わなくなってしまうきっかけがあります。そのきっかけをなくしていくケアをするのが、リテンションマーケティングの秘訣です」(林氏)
ではここからは、「LogBase」の機能を詳しく見てみよう。
林氏は「LogBase」を、スマホアプリに特化した“リテンションマーケティングのためのMA”と表現する。その機能は大きく2つ。ユーザーの行動を分析し施策を実行する機能と、それを自動化するオートメーション機能だ。
ユーザーへ直接情報を伝えることができるプッシュ通知は、リテンションマーケティングにおいて必須である。だが、開封率の確認のみで施策をストップしていないだろうか?
「開封率が高いか低いかではなく、開封したユーザーが期待する行動をしているかまで追うことが大事です。アプリ利用の継続率を伸ばすだけでなく、ロイヤルティの高いユーザーを理想的な行動へ促す施策を立てる必要があります。
『LogBase』では、プッシュ通知を開封したユーザーが、特定期間内に課金を行ったかなどの分析をすることができます。その結果から新たな仮説や次の施策へとつなげ、検証するサイクルを繰り返すことで効果的なリテンションマーケティングの勝ちパターンを見出すことができるのです」(林氏)
そして、その勝ちパターンを自動化するのがオートメーション機能だ。リテンションマーケティングを継続しなければ、その効果も持続しない。だがアプリ事業者の中には、その重要性を理解しつつも人的リソースが足りず、対応ができないケースが多い。「LogBase」のオートメーション機能では、特定の対象セグメントに対して、定期的にプッシュ通知などの自動配信を行うこともできるため、その課題も解消することができる。
嫌われないプッシュ通知のポイントは?
続いて、基本的なアプリ向けリテンションマーケティングのノウハウを伺った。林氏によると、プッシュ通知は大きく3つの種類に分けることができる。
1つ目は、インストールしたばかりの新規ユーザーへ送るインビテーション。2つ目は、利用頻度が低いユーザーへ送るアテンション。そして3つ目は、キャンペーンなどの情報提供だ。
その中でも利用頻度の低いユーザーへ送るアテンション通知は、DAUの向上が期待できる。林氏は、「インビテーション通知とアテンション通知を自動化し、新規ユーザーの定着を図ると効率的です」と話した。
一方で、プッシュ通知やアプリ内メッセージは、ユーザーに煩わしいと感じられるのではないか、という懸念がある。その点について林氏は「一番最初に、つまりユーザーのアプリ利用初期の段階で、“必要な時に送ります”“あなたにとって有益な情報を送ります”というようなメッセージを送るだけで、ユーザーの受け取り方は大きく変わってくる」という。
特にiOSではOS独自の定型フォーマットのプッシュ受信許諾通知をやめ、オリジナルのメッセージと通知タイミングを設置するのがおすすめだ。なお、このコントロールは、「LogBase」の機能に備わっている。
MAU5万以下のアプリなら導入無料! スモールスタートでも対応可
林氏は、アプリのリテンションマーケティングは「LogBase」を使えば、実行したい施策のほとんどを実現できると自信を見せた。導入方法もシンプルで、SDKの設置(組み込み)のみで完了する。その後の運用は、マーケター主導で行うことができ、アプリマーケティングのPDCAを回すために、都度の依頼でエンジニアに負担をかけることもない。
さらに、“多くのアプリ事業者にリテンションマーケティングを拡げたい”という意図から、「LogBase」ではMAUベースで利用価格が階段式に代わる定額制の料金体系を採用。プッシュ数や配信ルール数の多い少ないに関わらず料金は一定のため、「これ以上利用すると予算オーバーになってしまう……」といったことを考えずに、利用することができる。
そしてMAU5万以下のアプリであれば、無料で導入(利用)が可能だ。プランの違いによる機能制限はなく、スモールスタートで始めたアプリ事業者からの支持は高い。
最後に、上原氏と林氏から「LogBase」の今後の展開をうかがった。
上原氏は改めてクライアントの広告費用対効果を向上させ、アプリ運営にかかるコストの最適化を実現したいと語る。
「将来的には、アイモバイルアドネットワークのリテンション広告と『LogBase』によるリテンションマーケティングを連携させたサービスを提供したいと考えています。プッシュ通知・アプリ内メッセージ・広告と、各ユーザーに合ったアクションを取ることで、リテンションマーケティングの精度を上げていきたいですね」(上原氏)
続いて林氏も、これまでリテンションマーケティングを実行できていなかったアプリ事業者へ積極的に提案したいと意欲的だ。
「アプリ事業者にとって一番大切なことは、サービスの本質をブラッシュアップさせること。グロースハックの部分は『LogBase』にお任せいただき、サービス運営に集中できるよう支援してきたいですね」(林氏)