ECが当たり前の今、必要なアプローチ
オンラインショッピングは、今やネットを使う多くの人にとって欠かせないサービスのひとつになった。それだけに競争も激しいため、かつてのような一斉配信の購買促進メールやキャンペーン告知メールだけではなく、いかに個々人の意向に寄り添った提案ができるかが、ファンを育てるカギになる。
少数精鋭のマーケティングチームで、20万ものメルマガ会員へのアプローチをカスタマイズして成果を上げているのが、NTTぷららの「ひかりTVショッピング」だ。2010年、同社の映像配信サービス「ひかりTV」契約者への付加的なサービスとして、録画用HDDなどの販売からスタート。現在はテレビを中心にした家の中・暮らしを豊かにするという観点から、家具家電・雑貨類まで取扱商品を広げている。
サービス運営は、同社内のコマース担当チーム30人ほどが担う。うち10人ほどがマーケティングチームだ。同チームでは数年前までユーザーごとのアプローチができず、一斉配信メールでは頭打ちという課題を抱えていた。サービスの成長に伴い、メールマガジン会員もどんどん増えていたため、それをセグメントして内容を送り分けるには、手動の運用では限界があった。
「データはあるが、コミュニケーションできない」をMarketing Cloudで解決
同社コンテンツ事業本部 サービス戦略部 コマース担当 担当部長の芳賀大輝氏は、当時のことを次のように振り返る。「顧客の購買データはもちろんありますが、そのデータやサイト内行動データなどを元にターゲットを抽出し、コンテンツを制作してメール配信の操作をするとなると、毎日はとても無理でした。しかし、週1回や月1回だと今度はタイミングを逃してしまう。やりたいことは見えているのに実現できない状況に悩んでいました」
そんな折に知ったのが、「Salesforce Marketing Cloud」(以下、Marketing Cloud)だった。芳賀氏らは、本システムを用いればチームが直面していた課題を解決できると考え、2015年に導入し、運用を始めて3年弱になる。現在、一斉配信メールの平均開封率19%に対して、パーソナライズしたメールの平均開封率は30%となり、これによる売上の伸長も上々だ。
現在は、年間合計30本ほどのキャンペーンを展開し、アップセルやクロスセル等を目的としたキャンペーン関連のメールを複数配信している。キャンペーン企画やシナリオ立案などを担当する向田氏は、パーソナライズメールの活用として大きく3つを挙げる。
ひとつは、これらのキャンペーンから最適なものを勧めるメール。たとえば直近では、キッチン系のカテゴリーを閲覧したユーザーと、対象商品ページを閲覧したが未購入のユーザーに、炊飯器などキッチン家電を対象としたキャンペーンを案内。該当商品を購入してレビューを書くとポイントが付与されるもので、開封率40%、CTR20%と高い成果が上がった。「通常のメールはCTR10%未満なので、興味がある人にリーチできた手応えがありました」と向田氏。
「マーケティング最新事情レポート」(全49ページ)で
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キャンペーンへのリマインドメール開封率は60%に
2つ目は、アップセルを目的としたキャンペーンの告知だ。キャンペーンにエントリーしてキャンペーン期間中に買い回りをすると、購入金額5,000円~上限5万円の各段階に応じてポイントが得られる「たま~るキャンペーン」について、エントリー済みのユーザーへプッシュした。この際、購入5,000円未満の人にはその旨と購入のきっかけとなるよう特別クーポンを送付、一方既に上限5万円を超えている人にはポイントの追加はないが、さらなる購入を促すためこちらも特別クーポンを送付した。すると全体で開封率30%、CVRは12%に。対象者に送付したクーポンを利用した売上は数千万円に上り、キャンペーン全体の目標もクリアした。
3つ目は、告知や購買促進以外のフォローメールだ。たとえばキャンペーン参加の条件がもう少しで足りる人への案内や、レビューを書けばポイントがもらえる人へのお知らせなどがある。最近では、SIMフリー端末の購入と格安SIM契約に関するキャッシュバックキャンペーンを該当者にリマインドしたところ、開封率は60%に。さらに、端末購入者の大半がSIM契約にも至り、最大設定額のキャッシュバックを獲得した形となった。
こうした多岐にわたるキャンペーンが月に数本動いており、常時10本前後のパーソナライズメールのシナリオが走っている。これを、向田氏をはじめコマース担当チーム内のディレクターとデザイナー、計3人で運用している。
Audience Builder機能でターゲット抽出が一瞬に
目的も対象者も多種多様なターゲティングメールをこれだけ出し分けられるのは、ツールがあるからこそだ。ちなみに同社はMarketing Cloudを現在、ショッピング以外でも映像配信サービスや、電子書籍、オンラインで趣味のレッスンを提供するサービスなどで活用、成果を上げている。
コマース担当チームでは、Marketing Cloudによってかねてからの運用負荷が解消され、まず配信の量とスピードが増したという。制作の面でも、テンプレートをうまく使うことで手間が大幅に省ける上、PDCAを回してクリエイティブも随時変更し、チューニングすることが可能になった。
さらに現在は、プラスアルファの動きを強めている最中だ。そのひとつが、昨年夏、ターゲットをさらに簡単に抽出できる機能「Audience Builder」を追加したこと。ターゲットを絞り込んだアプローチは効果が高いものの、タイミングを逃すとまったく意味がなくなってしまうため、スピード感が欠かせない。向田氏はMarketing Cloudの導入以降、キャンペーンの企画からパーソナライズメールのシナリオ考案と原稿執筆、配信まで、早くて3~4週間で行っていたというが、「それでも『もっとできるのでは』という感があった」と話す。
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仕入れ担当者との連携やアイデア出しがさらに充実
シナリオ考案やターゲット抽出は、向田氏ともう一人の担当者で進めていたが、やはり作業量には限界がある。そこで、想定ターゲットの人数がすぐにわかり、より柔軟かつ素早くセグメントを切っていける「Audience Builder」機能の導入を決めた。
これによる成果のひとつは、当然、メール配信量が増したこと。向田氏は「作業量に無理なく、劇的に増やせた」と実感を話す。具体的にはシナリオでいうと月に5本程度を増やせるようになった。同時に、作業量的に◯本しか送れないという限定的な発想から自由になったことも大きい。以前は、どうしても1キャンペーンにつき最も売上に効果的なシナリオだけを選ばざるを得なかったが、選ぶ手間がなくなり、送った分だけ当然リターンも見込め、知見も貯まるようになった。
また、「Audience Builder」によって、商品の仕入れ担当者との連携がさらに密になったという。「元々、仕入れ担当者とはメールやキャンペーンのアイデアを出し合っていましたが、以前は『ターゲットとなるお客様はどのくらいいるか』と聞かれても作業時間が取れず、回答が数日後になっていました。それがすぐに出せるようになったので、スピード感が全然違います。『Audience Builder、すごい!』というのが率直な感想です」(向田氏)。
現状の数値以外の手応えとして芳賀氏は、多岐にわたる商品の多様な売り方を展開できるようになったことを挙げる。カート放棄など既に自動化しているシナリオではない、商品ごと、ユーザーごとの細かいアプローチが可能になったことが、チームのマーケティングを大きく前進させた。
LINEの情報も含めて一元化したデータの分析に期待
今後は直近で導入した「Salesforce Einstein Analytics」(以下、Einstein Analytics)を使って、分析に力を入れる考えだ。「Marketing Cloudにデータが集約されているので、Einstein Analyticsの分析に期待しています」(芳賀氏)。
また、LINEでの配信にも積極的に取り組んでいく。LINEはやはり開封までのスピードが速く、アクセスも相当に高まるため、特価の案内や商品入荷など、よりタイムリーな情報配信に注力する。現在、既にLINEの友だちのうち90%が「ひかりTVショッピング」のIDと連携済みで、商品出荷情報やポイント失効などを個別に通知している。今後はさらに友だちの母数を増やしながら引き続きID連携を促進し、LINEでのパーソナライズ配信に役立てていく構えだ。
この先に目指すサービス像について、芳賀氏は「より多くのお客様と複数の接点を持ちたい」と話す。「ひかりTVショッピングはテレビ周辺機器から始まって、今では家庭内を総合的に捉えた商品群をそろえつつあります。すると、販促キャンペーンの企画などマーケティングも変わってきます。価格競争ではなく“暮らしを豊かにする”切り口でたくさんの商品を、様々な売り方で提供することが一層我々の強みとなるように、マーケティングを追求していきたいと思います」
カスタマージャーニー研究プロジェクトチームのコメント
加藤:この取り組みは、マーケティング テクノロジーがキャンペーン運用のストレスを減らし、お客様に様々なご提案ができるようになったという、お手本の様な事例です。キャンペーン立案から顧客セグメントの抽出、クリエイティブ制作、メール配信、効果測定というサイクルを回すには時間も手間もかかります。そこに対し、クラウドのセグメント抽出機能とメールのパーソナライズ機能を駆使して、運用のストレスを劇的に減らす。同時に、施策の精度を高めています。少数のチームでも、ストレスのない高速なキャンペーンの運用で、知見を高めていけるという事例として大変参考になるでしょう。
押久保:ユーザーごとのアプローチを試みたいが、実態は一斉配信メールの繰り返しで反応が頭打ちになっている……。やりたいことは見えているのになかなか実現ができない歯がゆい状況の中、テクノロジーを活用して鮮やかに解決を図る様子が伝わってきて共感しました。LINEの情報も含めて一元化したデータの分析が進むことで、今後どのように進化していくのか楽しみです。
カスタマージャーニー研究プロジェクトとは?
「カスタマージャーニー」、顧客の一連のブランド体験を旅に例えた言葉。デジタルやリアルの接点が交差し、顧客の行動が複雑化する中、「真の顧客視点」に立って、マーケティングを実践する重要性が増してきました。
カスタマージャーニーに基づいたマーケティングの必要性は、その認知が進む一方で、「きちんと“顧客視点に基づいたシナリオ”を作成し、運用できている企業はまだまだ少ない」多くのマーケターに意見を聞くと、そのように認識されています。
今回、押久保率いるMarkeZine編集部とセールスフォース・ドットコム マーケティングディレクターとして、各企業とジャーニーを研究してきた加藤希尊氏を中心に、共同でカスタマージャーニー研究プロジェクトを立ち上げました。本プロジェクトでは、「顧客視点のマーケティング」における成功例を取り上げ、様々なアプローチ方法をご紹介していきます。その他の成功例はこちら。
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