クラウド上でクライアントとクリエイターをつなぐ
vivito(ビビトー)は2011年に創業、デジタル動画を施策化したいクライアントが最適なクリエイターをアサインできるサービスを手がける企業だ。
2017年には、デジタル動画プラットフォーム「CRLUO(クルオ)」をリリース。同プラットフォームでは、クライアントとCRLUOに登録された動画クリエイターをつないでいる。
「弊社は、従来の映像制作における課題をテクノロジーで解決することを目指しています。具体的には、制作領域をクラウド化して広告主とクリエイターが共通のプラットフォームでつながり、常に双方がコミュニケーションを円滑に行えるよう支援しています」(辻氏)
また、CRLUOを提供する背景には「デジタル動画とTVCMには用いられるべきクリエイティブの違いがあるから」だと、辻氏は語る。
「デジタル動画は、長らくテレビ番組やTVCMの延長線上で作られてきましたが、本来は似て非なる領域です。なぜなら、デジタル動画は賞味期限が短く、PDCAを回しながらデータドリブンで作られるべきものだからです」(辻氏)
このvivitoとパートナーを組み仕事を進める機会が多いのが、Kaizen Platformだ。同社の岡本葵氏は、動画マーケティングの現状として、「動画マーケティングの市場は、1、2年前から継続的に積極活用している層と、まったく手がつけられていない層の二極化が進んでいる」と語り、その上でvivitoと協業するメリットを明らかにした。
「Kaizen Platformは、運用とクリエイティブの両面でデジタル広告の改善を行っています。その中でvivitoと協業するのは、案件に最適なクリエイターと出会えるからです。また、マッチングされたクリエイターとはクラウドでやり取りでき、生産性が高いという点もメリットですね」(岡本氏)
深刻なディレクターとノウハウの不足
今回の2社が、「動画マーケティング」をどう捉えているのか? 議論の出発点として、昨今のトレンドを聞くと3点が挙がった。
1.Instagramの「ストーリーズ」(24時間だけ再生可能な動画)
2.各種SNSで配信するスクエア型動画(他には、縦型動画)
3.ライブ動画
「これらのトレンドに広告主は対応できているか?」という質問を続けたところ、そもそも出発点に立っていない事業者も多いと両者は口を揃えた。その原因に、岡本氏は「ディレクターの不在」を指摘する。
「動画制作の市場全体でディレクター不足が深刻です。優れたディレクターが一人でもいれば、どのような現場でも乗り切れるのに、その一人がいなくて、始められないわけです」(岡本氏)
また、ディレクターだけではなく、クリエイターも含め動画市場の成長に反して、人材不足が加速している。
「成長市場だからといって、クリエイター志望者は急激には増えませんし、この状況は当面続くでしょう。結果、限られた人に仕事が集中して、クリエイターへの依頼に対する単価が高騰しますよね。動画制作コストが高い要因には人材不足もあるんです。さらに、デジタル広告に精通した動画のディレクターやクリエイターとなると本当に少ないです」(岡本氏)
辻氏は、動画広告業界がノウハウやアセットを十分に共有してこなかった状況も指摘した。
「映像業界は“最高の教材は映画やTVCMだ”という教え方が残っていますが、デジタルの動画広告に求められる要素は映画とは異なります。データドリブンで成果に基づきPDCAを回しながら進めることで、動画としての完成度も高まっていく。こうしたメソッドを教える仕組みやアセットを共有できる場が、現業界内では不足しています」(辻氏)
Kaizenが語る、動画制作のパートナー選定基準
動画の活用に消極的な広告主ほど、自社完結して動画制作を行うのは困難なことから、どういう相手とパートナーを組めるかが重要なファクターとなる。デジタル動画広告の運用実績が豊富なKaizen Platformでは、どのような基準で動画制作のパートナーを選んでいるのだろうか? 岡本氏に聞いてみた。
「デジタル広告の場合、短いサイクルで様々な動画を作り配信するケースが想定されます。そのため、常に柔軟に動ける相手であることが重要ですね。さらに、クリエイターの制作スタイルや得意・不得意の領域が自社に合っているのかを見極めることが求められます」(岡本氏)
さらに、「デジタル領域の制作に注力する姿勢を持っているかどうか」も選定基準に入れるべきだという。
「TVCMをはじめとした映像制作の実績が十分でも、ストーリーをガッチリ固めて絵コンテを作る、といった作法重視の相手だと、デジタルの現場に合わない可能性があります。設定したシナリオと異なる展開でも、柔軟に動けて臨機応変に対応できるチームや人材のほうが、中長期的にパートナーシップを組んで戦いやすいでしょう」(岡本氏)
では、岡本氏が求める条件にvivitoはどのようにして対応しているのだろうか。
「僕らが特殊なのは、クライアントや代理店が提示するニーズに合わせてクリエイターを選定し、チームを編成できることです。クリエイターは十人十色。10人いれば10人とも、特徴や得意・不得意の領域が異なります。
CRLUOは、クライアントの求めるニーズにかなったクリエイターを選び出せる仕組みができているので、案件ごとにPDCAも回しやすく、クライアントへのケアやホスピタリティの高い対応も可能となります」(辻氏)
プラットフォームがもたらすセキュアな環境
広告主が自ら案件にあったプロダクションを見つけることは至難の業だ。しかし、CRLUOの仕組みを活用すれば、ニーズに合わせてクリエイターを選び、チームを編成できる。これなら、動画未経験の広告主も進めやすい。
「Kaizen Platformでは、大手広告代理店や有名SNSから動画の改善案件を引き受けることが多々ありますが、『法人とならやりたい』というケースもあります。特に機密性の高い案件の場合、優れたクリエイターでもフリーランスを理由に起用をためらうデリケートなケースも出てきます。
vivitoなら組織として対応できて、かつクライアントを心配させずに案件にマッチしたディレクター、クリエイターを編成できる。だから私たちも重宝するわけです」(岡本氏)
「クライアントへの納品の品質、スピード感のある対応に加え、セキュリティの強化はとても意識しています。CRLUOに登録するクリエイターを起用する場合、一人ひとりはフリーランスですが、必ずクライアントとはCRLUO(プラットフォーム)経由のやり取りを義務づけています。セキュアな体制を担保してこそ、クライアントも安心して依頼できるので」(辻氏)
海外クリエイターとの協業も視野に
動画制作の従来的な手法とは一線を画し、動画制作のクラウドを進めるvivitoは、さらなるサービス拡充を目指している。Kaizen Platformも今後への期待が大きいという。
「2020年に控える東京オリンピックに向けて、インバウンド(訪日)およびアウトバウンド(海外展開)を目的とした動画施策が増えると予想しています。我々としては、そのチャンスをつかむためにも、vivitoさんのような企業が動画制作における多言語対応を進めてほしいですね」(岡本氏)
同氏の語る「多言語対応」は、単なる言葉の話ではない。国や地域が違えば、当然文化も異なる。日本で良しとする作法や映像の間合いが通じないというのだ。
「たとえばタイだと、パロディ動画に人気が集まり、動画の尺(長さ)も短いものより長いもののほうが成果につながる傾向があります。これは日本にはない感覚ですよね。『その国や地域ならでは』を捉えられる海外クリエイターや、現地に精通するクリエイターと組める仕組みがあると便利です」(岡本氏)
この要望に辻氏は、構想中の展望を明らかにし、海外クリエイターの発掘と市場開拓への意欲を示した。
「2018年6月には、CRLUOの大幅なアップデートを予定しており、多言語対応も視野に入れて進めています。弊社サービスの強みは、リモートで動画を制作できること。国内外問わず、クリエイターとクライアントの円滑な動画制作環境を実現するのが、私たちの目標です」(辻氏)
加速するインハウス化、どう対応する?
CRLUOは、制作したクリエイティブをアーカイブとして残せる他にも、ビフォーアフターを比較することも可能だ。共通のプラットフォーム上で映像を見ながら説明できるので、言語化しにくい修正指示やクライアントの修正意図も確認しやすく、クリエイターへの負担も軽減される。海外への対応が進むと、ネット環境さえ確保すれば国内外で自在に活動できるようになる。
「将来的には、ターゲットや業種などの情報を入力すると、流行や成果を踏まえて最適なシナリオを自動生成できる機能も追加したいと考えています。最終的には、動画制作の企画から制作、納品までの全プロセスをデジタル上で完結させたいです」(辻氏)
一方、Kaizen Platformが見据える一案は、プラットフォーマー側とのパートナーシップ構想だ。
「プラットフォーマーの多くは、配信ノウハウは持っているものの、クリエイティブの制作ノウハウまでは持っていません。そこで、制作ノウハウを持つ弊社とvivitoさん、プラットフォーマーがタッグを組めば、動画制作の新たな仕組みが作れると思っています」(岡本氏)
最後に辻氏は、動画マーケティングの今後に関して、「インハウス化が加速する」と予測した。
「インハウス化が進むと、社内での分析がしやすくなり、企業とユーザー間のコミュニケーションが健全化していきます。その中で、弊社は丁寧かつスピーディーに対応できる体制を確立します。1日でも早く、ディレクションを含めた動画制作全般をクラウド上で完結できる仕組みを構築して、新時代のデジタル動画マーケティングの一翼を担いたいですね」(辻氏)