「カゴ落ちDM」の衝撃
カタログ販売ならではのメリットとWebサイトだからこそ実現できる優位性を掛け合わせる――ここからディノス・セシールの石川氏が導きだしたのが、「EC化率の向上」そのものを目指すのではなく、「ECでのUX向上」をめざすことで結果として「EC化率の向上」を実現するという戦略だ。
「今、大手ECサイトでは『即日配送』や『ポイント経済圏』『最安値』『ID・決済』『オムニチャネル』などでUX向上を進めています。規模が違うライバルを相手に、同じ施策をしても競争に巻きこまれてしまいますので、ディノス・セシールならではの強みを活かしたUX向上施策こそが大事だと考えました」(石川氏)
ディノス・セシールという日本を代表するカタログ通販企業の強みは、「商品力」そして「プレゼン力」にあると石川氏は続ける。
「バルミューダのトースターやデロンギのエスプレッソ・カプチーノメーカーといった生活をより豊かにするアイテムや、ダイソンV8モーター搭載モデルにも対応しているスティッククリーナースタンド、洗濯機を置くパン(スペース)がなくて困っている人に向けたステンレスの洗濯機置き台など痒いところに手が届くディノスオリジナルの高品質・高付加価値の品ぞろえが私達の『商品力』です。この豊かな品揃えを、カタログとWebとをうまく組み合わせて訴求していく施策を考えました」(石川氏)
カタログには、顧客を選んでタイミングよく発行できず、コストが高めでWebユーザーへリーチしづらいという弱みがある。一方、Webサイトにはリテンションが弱く、EC単体ではカタログ並みのビジネス規模を作ることがむずかしく、大型ECサイトという強力な競合が存在するという弱点がある。
そこで双方の強みを活かし、弱みを相互に補完する目的である実証実験に取り組んだのだ。
「ECサイトのコンテンツ内で得られるユーザーのアクションデータを活用して、『紙』のDMでタイミングとコンテンツをパーソナライズしてアプローチできないかと考えました。ECサイトでは、ユーザーが商品を一旦『カート』に入れたまま離脱してしまうことが多い。そのカゴ落ちした商品を盛り込んだDMにして、サイト離脱から24時間以内に顧客へ発送するという施策です」(石川氏)
ハガキにはアイテムごとにQRコードを載せ、ハガキからサイトへのアクセスを計測できるようにした。この実証実験の結果、従来のWeb施策と比較して120%のレスポンスを達成できたという。
DMの最新活用から見えるオムニメディアの未来
最後に鈴木氏がマイクを持ち、リクルートジョブズおよびディノス・セシールとの実証実験を踏まえたまとめを行った。
「紹介した2社だけでなく、富士フイルムやアジャイルメディア・ネットワーク、オイシックスドット大地などでも、DMとメールを組み合わせた施策が予想以上の効果を上げています。特徴的なのは、BtoB企業だけでなくBtoC企業でも有効だということです。
なお、アナログ施策を成功させるには、DM単体ではなく、デジタル施策と組み合わせることが重要です。しかも、メールやデジタルによるアプローチよりも前にDMを送ることが秘訣になります。
パーソナライズにおいてはターゲットへの理解をもとにしたシナリオ設計が鍵だということ、クリエイティブ以上に顧客が情報を欲しがるタイミングを逃さないスピードが重要な成功要因だということもわかってきました」(鈴木氏)
加えて鈴木氏は、これまでアナログ施策であるDMの弱点とされていた「スピード」と「コスト」という2つの課題も解消しつつあると説明。
「先ほどのディノス・セシールのケーススタディのように、MAとバリアブル印刷によって24時間以内にユーザーへパーソナライズしたDMを発送できるインフラが整いました。かつ、データドリブンにターゲティングを行うことでコストも圧縮できるようになっています」(鈴木氏)
鈴木氏は、デジタル施策を否定する必要はまったくないとして、重要なのはデータドリブンを前提として、デジタル施策とアナログ施策の長所を融合させていくことだと強調した。その上で、「DM×メール」はある意味では始まりに過ぎない、と語った。
デジタルマーケティング界ではこれまで、店頭やECやスマホアプリといった「顧客化」チャネルをうまく融合させることばかりが強調されてきたが、鈴木氏によると、「顧客化」の前工程・後工程である「アクイジション」「リテンション」の段階において活用する「メディア」も、オムニ化する必要がある、というのだ。
その意味では、DMとメールを併用するというのはリテンションメディアにおけるオムニメディアの試みとして位置づけることが可能であり、メディアのオムニ化の「始まり」だといえるのだ。
「顧客は、自身をとりまくメディアを、アナログかデジタルかなどと意識することなく生活しています。オムニチャネルだけではなく、メディアのオムニ化、つまり『オムニメディア』を意識した施策づくりが今後根づいていくことを期待しています」(鈴木氏)