LINEを活用し、AIやオペレーターによるチャット対応・音声通話などのカスタマーサポートを実現するLINE カスタマーコネクト。同サービスの導入事例として、MVNO事業を展開するLINEモバイルと、モバイル送金・決済サービスLINE Payの取り組みを紹介する。「お客様にとって、最適なカスタマーサポートとは何かを考え設計した」と語る両社。導入にあたっての経緯、具体的な活用方法と成果を4名の担当者に聞いた。
365日・24時間対応のLINEモバイル「いつでもヘルプ」
2016年9月にMVNO事業をスタートしたLINEモバイルは、カスタマーサポートの窓口に電話とメール、そしてLINEモバイル公式アカウントから接続可能な年中無休・24時間対応の「いつでもヘルプ」を設けている。LINE カスタマーコネクトを活用したLINEでのチャットサポートサービスは、AIによる自動応答(24時間)とオペレーターによるチャットサポート(10時から19時)を提供する。
LINEモバイル・モバイル企画運営室の井上賢治氏によると事業開始当時のサポートは電話とメールのみだった。同社がLINEによるチャットサポートを開始したのは2016年12月のこと。その背景には、LINEモバイルの販路拡大という事業戦略にともなう、カスタマーサポートの強化があった。
導入にあたり、井上氏がUXの設計から開発、リリースを担当。開発にスピード感を求められたため、正式リリース前ではあったがグループ企業間で連携が取りやすいLINE カスタマーコネクトを採用したという。日常的な運用・監視・メンテナンスを行う同部署の松木あゆみ氏によると、LINEによるチャットサポートは高い顧客満足度を誇っているという。
LINE Payはセキュアな環境でスピーディなCSを実現
一方のLINE Payは、2014年12月にサービスをスタート。当初、カスタマーサポートはメールのみだったが、決済サービスのためセキュアな環境でスピーディな対応が必要と判断、2017年夏頃からLINE カスタマーコネクトを導入した。さらにLINE PayのCSマネージャー加藤沙織氏は、他社のチャットサービスとも比較しLINE カスタマーコネクトを選んだ理由として、サービスとの親和性を挙げる。
「LINE Payはモバイルサービスのため、お問い合わせ時にデバイスを操作しながらの通話は難しく、電話でのカスタマーサポートでは十分な支援ができないと考えました。また、決済という高いレベルでの情報管理への配慮が求められるサービスですから、ご本人確認が必要な場合があります。このときLINE カスタマーコネクトを実装したチャットサポートであれば、LINEのアカウントを通しての確認が容易なため、セキュリティレベルの高い対応が可能となるのです」(加藤氏)
LINEアカウントとの連携でユーザーに手厚いサポートを提供
具体的な活用事例を見ていこう。まずLINEモバイルは、契約者への手厚いサポートとオペレーターにつながるまでの“待ち行列”の緩和を軸に、ストレスを与えないカスタマーサポートの設計を行った。
「オペレーター対応の時間は10時から19時です。それ以外の時間や、お問い合わせの数が多くすぐにオペレーターにつながらない場合、そして契約前の一般のお客様は、AIによる自動応答となります。自己解決へ導き、ユーザーのストレスを軽減する。それらをチャットで実現できるよう、LINE カスタマーコネクトをカスタマイズしました」(井上氏)
井上氏は、LINEモバイルのサービスサイトへのアクセス数などを目安に問い合わせ数を予測。対応するオペレーターの人数や席数、お問い合わせ対応にかかる時間を算出し、導線を設計していった。
AIによる自動対応でユーザーの自己解決を促すLINE Pay
続いてLINE Payの事例を紹介する。LINE Payのカスタマーサポートは、まずAIで自動対応を行い、解決しない場合はオペレーターへつなぐという設計だ。「LINEをプラットフォームとしたチャットサービスの事例は少なく、ご満足いただけるサポートがどこまでできるのかという懸念点がありました」と加藤氏。LINE カスタマーコネクトの大がかりなカスタマイズは行わず、標準機能をベースに日々の運用からサポート体制の改善を行っている。
3,300万人もの友だち数を有するLINE Payの公式アカウントは、何かのきっかけで問い合わせが集中する場合がある。そこでオペレーターにつなぐ手前で自己解決を促す導線を工夫し、さらにアクセスの集中を防ぐためキャンペーン配信の時間を調整するなどして、効率よく対応ができるように努めている。
「AIによる回答のベースはFAQデータです。さらに質問例のデータを作成したり、お客様に問いかけるような言葉に調整したりして、AIの学習データを用意しました。またセッション終了後にアンケートを行い、お客様への回答が正しかったかどうかを確認する“振り分け”を行います。満足しなかったという回答の場合、返答履歴をもとに、より最適な回答を判断しAIに学習させることを積み重ねています」(加藤氏)
顧客満足度は90%以上 改善のためにチャットログを有効活用
LINE カスタマーコネクトが正式にリリースされて約1年。参考となる活用事例が限られていた中、自社のユーザーやサービスを分析し、カスタマーサポートを構築してきたLINEモバイルとLINE Pay。両社の取り組みは、どのような成果を上げてきたのだろうか。
まず、共通した成果として挙がったのは「顧客満足度の高さ」だ。両社ともチャット終了後に満足度アンケートを行い、顧客の反応をトラッキングしている。特にLINEモバイルがサービス1周年を振り返り行ったアンケートでは、95%以上の顧客がチャットサポートに満足しているという評価になった。
「一般的に、MVNO事業者は大手キャリアと比べて販売代理店が多くありません。そこで各社Webチャットなどで問い合わせ窓口を設けていますが、LINEモバイルの場合、LINEですぐに問い合わせができるという点を評価いただいているのだと思います」(塩見氏)
LINE Payでは、「当初の狙い通りスピーディな対応ができている」と加藤氏。メールでは複数回のやりとりが必要だった本人確認が、LINEならば確認用書類の画像提出の1回で完了するため、ユーザーから好評だ。さらに「LINEらしいコミュニケーションであるスタンプを送ることで、お客様との距離が近づき、サポートへの満足度につながっている」と分析している。そしてLINEによるチャットサポートはユーザーの満足度だけでなく、サービスの向上にも影響している。
「お客様からのお問い合わせログを分析し、サービス設計やUXの改善に活用しています。たとえば、お問い合わせの多いSIMの設定に関しては、より詳しい内容をFAQに掲載したり、お客様が体感した回線速度の情報を収集したりと、ログを参考にすることは多いです」(井上氏)
ユーザーごとに最適化されたカスタマーサポートを
最後に、カスタマーサポートの今後の展望について話を聞いた。実際にカスタマーサポートの現場に立つ松木氏からは、チャットによる効率化が挙げられた。
「LINEモバイルはお電話によるお問い合わせも受け付けていますが、お待たせする時間が長くなる傾向があります。チャットサポートは一人のオペレーターが同時に複数のセッションに対応可能です。お客様を適切なチャネルへご案内し、待ち時間の緩和を行いたいです」(松木氏)
チャットのオペレーターはレスポンスの速さなど、高いスキルが求められる。そのためオペレーションセンターでは、段階をつけたトレーニングを実施し、オペレーターのスキルアップを行っている。
また塩見氏は、ユーザーの利便性向上を挙げる。LINEモバイルは、セキュリティソフトなど複数のオプションサービスを提供しているが、ユーザーからの製品に関する問い合わせ対応はパートナー企業にお願いすることがある。パートナー企業も独自でLINE カスタマーコネクトを導入しているケースがあるため、それぞれが独立してユーザー対応するのではなく連携することでユーザーにストレスなく解決策を提示できるようになると、満足度もより向上するのではないかと語った。
LINE Payの加藤氏は、LINE カスタマーコネクトの機能追加に期待。現在は問い合わせを受けるのみの体制となっており、チャット終了後、改めてオペレーターより連絡をとる手段はメールに限られている。
「たとえばアフターフォローとして、オペレーターからプッシュ通信ができる機能があればいいなと思います。また電話サポートの声は根強いです。将来的にはチャットから通話につなぐ『LINE to Call』機能の導入も検討をしていきたいと考えています」(加藤氏)
そして理想のカスタマーサポートとは「チャットにこだわらず、ユーザーそれぞれに最適な対応をすること」と話したのは井上氏。UIやコミュニケーション設計でユーザー望むカスタマーサポートを実現していきたいとまとめた。