デジタルで「認知」を獲得するのが難しい理由
企業のマーケティング施策のデジタルシフトが加速する中、これまではTVCMを中心としたマス広告の役割であった「認知」を獲得する領域においても、デジタル施策が求められるようになってきました。
一方、デジタルでゼロから認知を獲得するには、様々な課題が山積しています。そもそもゼロから認知を獲得する、つまり「知らないものを知ってもらう」ためには、アテンションを獲得し生活者を振り向かせる必要があります。
TVCMでは、高クオリティなクリエイティブや有名タレントの起用、コンテンツ(番組)との親和性などにより強いアテンション(関心)を獲得することができます。
しかしネット広告などのデジタル施策の場合、特にスマートフォンにおいてアテンションの獲得を図ろうとすると、強制的に視認させるような形になり、ブランド毀損のリスクが高まります。
また、Googleが2018年2月から「Google Chrome」にユーザーのコンテンツ閲覧の妨げになる広告をブロックする機能を搭載するなど、「迷惑な広告」とみなされるものへの規制は今後も強まることが予想されています。
生活者がデジタルに求めるものは「欲しい情報を、好きなタイミングと手法で効率良く得られる」という選択の自由度と情報効率です。そこにデジタルで「アテンションを獲得して生活者を振り向かせる」ことの難しさがあります。
データで見るファネル転換率と購買ファネルの理想形
トレンダーズでは、食品・飲料・美容など様々なカテゴリの約500ブランドについて、「認知率」「商品理解率」「好感度」「購入率」「リピート率」などの調査データを取得し、分析を行っています。
ここで例として、同価格帯でテイストも近いファッションブランドで、いくつかの指標を比較してみましょう(20~40代の男女2000名に対する調査)。
2つのブランドを比較してみると、認知率(ブランド名を提示して「知っている」と答えた人の比率)はブランドAが57.6%とブランドBを約10pt上回っています。
しかし購入率(そのブランドの商品を購入したことがある人の比率)ではブランドBがブランドAを上回っており、「認知」から「購入」へのファネル転換率を見るとブランドAが21.2%なのに対してブランドBは38.2%と2倍近い値となっています。
また、同様に好感度(そのブランドに「好感を持っている」と答えた人の比率)においてもブランドBはブランドAを上回っており、「認知」から「好感」への転換率も2倍近く差が開いています。
どちらのブランドもTVCMをはじめ積極的にマーケティング施策を展開していますが、こうしてデータを比較してみると「認知」から「購入」、そして「好感」への転換率が高いブランドBのほうが効率的な認知を獲得できているといえます。
このように、認知の獲得を目的としたマーケティング施策を実施する際には、認知率を上げることだけでなく、「購入」への転換率と「商品理解」や「好感」といった認知の質についても意識した上でプランニングを行うことが重要です。
そして生活者の価値観の多様化・細分化が加速している現状を踏まえると、ただやみくもに認知のボリュームを増やすことよりも、購買ファネルの転換率を上げ、ファネルの角度をできるだけ垂直に高めた「バーティカルファネル」を形成していくことが、これからの時代における理想的なマーケティング施策だと考えています。