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その企画、“一言”で伝わりますか? I&S BBDOのクリエイターの新トップが語る、クリエイティブ論

 2018年4月からI&S BBDOのエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターに就任し、過去2度のクリエイター・オブ・ザ・イヤー賞でメダリストに輝くなど、名実ともに日本のトップクリエイターとして業界を走っている上野達生氏に、これまで同氏がつくってきた作品などを振り返りながら、クリエイティブにおいて求められることについて聞いた。

地方からトップクリエイターに

――I&S BBDOのエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター(以下、ECD)に就任された上野さんですが、これまでは九州を中心とした地方の仕事を多く手掛けられてきましたよね。過去にどのようなお仕事を担当されてきたのか、また現在についても教えてください。

株式会社I&S BBDO クリエイティブグループ
エグゼクティブクリエイティブディレクター 上野 達生氏

 4月にECDとなり、現在はI&S BBDOのクリエイティブ部門を管轄しています。それまでは、福岡に本社のあるBBDO J WESTに長く在籍していました。

 東京では各ブランドの予算も大きく、一つの企業にかかりっきりになることが多いのですが、九州ですと電力やガス、行政、食料品ブランド、各地のテーマパークなど、多種多様なクライアントの案件に携わることができました。

 その中のいくつかのクリエイティブが認められ、様々な賞をいただき、クリエイター・オブ・ザ・イヤー賞に関してはメダリストを2度頂きました。

 地方在住のクリエイターで2回獲ったのは初めてだったそうで、東京の広告関係者から見るとおもしろく見えたのかもしれません。

 また近年は、経済フォーラム、大学、福岡県の小中高の先生たちに向けての講演など、様々な場面で、広告的なコミュニケーションでの問題解決についてお話しさせていただく機会が増えました。他にも、高知県観光特使や肥前さが幕末維新博覧会の広報担当など、代理店のクリエイターらしくない幅広い活動もユニークに見られているようです。

経営とクリエイティブは密接であるべき

――色々な作品に携わられてきたと思いますが、ずばり良いクリエイティブに求められるポイントとは何だと思いますか。

 経営的な視点を持つことが良いクリエイティブを生む上では非常に重要です。クライアントの経営戦略の上に、広告で伝える商品・サービスがあるわけで、まずそこに立って「この商品・サービスをどう変化させるか」考えます。

 具体的には、オリエンテーション(以下、オリエン)と事前に社長からヒアリングした話に違いがないかをチェックします。どちらかにズレがあるとすれば、経営戦略が変わってきた、もしくはオリエンが経営戦略に寄り添った内容でないという理由が考えられます。その場合、その理由を探ることがスタートになります。

――各社の経営戦略に紐づいた、オリエンかどうかを見極めるのが重要だということですね。

 このプロセスを課題の「真」発見と呼んでいるのですが、クライアントと良い結果を出すクリエイティブを作る上で非常に重要だと思います。これができれば解決方法となるクリエイティブは実は難しくありません。私もこれまで、本当の課題は何かクライアントの方とお話しする機会が多くありました。

 きちんと「真」課題を共有した上でキャンペーンを作ったことが良かったのか、九州時代では数年に渡り続くものがありました。最も長いものは、沖縄ファミリーマートさんのキャンペーンで、これは11年続いています。

11年続くキャンペーン、その鍵は「真」課題の共有にあり

――11年同じキャンペーンが続くのは、地方では異例だと思うのですが、どういったことをされているのですか。

 沖縄県のコンビニは、ファミリーマートとローソンの2つしかありません。そして、一番沖縄に根付き、歴史があり店鋪数が多いコンビニが、ファミリーマートさんになります。しかし「セブンイレブンさんの沖縄進出のニュースや出店競争の加速」といった危機感がありました。

 その状況下で「やっぱり沖縄のコンビニと言えばファミリーマートだよね」と思ってもらうための広告活動を行っています。沖縄は“ゆいまーる”という相互扶助の精神が根深い場所であるのを踏まえ、現在は「結。沖縄は家族。」というキャッチコピーで展開を続けています。

 企画の発端は、経営者がどういうことを考えているのか経営視点に立ち、「真」課題を共有して始まった企画だからこそ、11年もの間続いていると思います。

――課題が共有されていれば、アウトプットする際にそんなに苦労することはなくなるのでしょうか。

 はい、アイデアの方向性をぐるぐる考えることがありませんのでスムーズです。極端な例ですが、「頭痛」を風邪の初期症状と判断するのか、眼精疲労と判断するのかで対処方法はまったく変わってきます。風邪であれば風邪薬ですし、眼精疲労であれば眼科で診療してもらうことも考えられます。

――良いクリエイティブを作るため、「真」課題の共有以外にも重要だと考えているポイントはありますか。

 課題の中に潜む危機感を理解することでしょうか。ざっくばらんに意見交換をしている際、「今一番危機に思っていることはなんですか」とお尋ねします。

 「10年後、会社がないかもしれない」という危機感の中でのキャンペーンと、「競合商品との差別化ができなくなっている」という危機感の中でのキャンペーンは、きっと違います。危機感を共有させていただくことで、深く課題を理解することができますし、またクライアントさんの深い意識との調和も実現します。

その企画、“一言”で伝わりますか?

――デジタルメディア・広告が力を持つようになってきましたが、上野さんから見てデジタルとアナログの表現の仕方、企画の考え方に違いはありますか。

 テレビCMをはじめとしたマス広告を企画する時、その企画を“一言”で表せるかどうかをすごく大事にしてきました。一言は、流通しやすい=拡散しやすいという点において重要です。

 そしてデジタルは、それがより顕著です。つまり、デジタル・アナログの考え方に大きな違いはありません。

――テレビCMでは“一言”だったのが、デジタルだとより短くなるんですね。

 佐賀県のプロジェクトで、メディアアーティストの落合陽一氏とコラボレーションした「YOBUKO 限りなく透明に近いイカ」という企画を弊社が手掛けたのですが、これも「落合陽一がイカ」と、言い表せますし、なぜその組み合わせなのかも気になりますよね。

 ビジュアルも見たことがない世界が広がっているものなので拡散しやすい。そうした見たことのない、インパクトのある一枚絵を作るというのも、拡散させるための重要なポイントです。

 2015年に福岡天神にあるデパート、ソラリアプラザのリニューアルCMを企画した時も、天神にフラワーアーティストのニコライ・バーグマン監修の花を大量に降らせる内容にしたのですが、これは「花が天神に降っているCM」という本企画のキーになる一言と、「見たことのない景色」をコンセプトに映像を考えました。

 一言で言える企画。もしくは画像一枚で興味喚起できるものでないとコンテンツの力としては弱いですね。この点は、どのチャネルでも同じだと思います。

I&S BBDOの持つ組織の力

――上野氏から見て、I&S BBDOはどういった組織ですか?

 クリエイティブ・ディレクターの人数は決して多くない上に、規模も大手代理店に比べれば決して大きくありません。しかし、個が立った組織となれば、弊社が他社に勝っていくことも可能だと思っています。テーマは、規模よりも存在感。

 たとえば、大手広告代理店とI&S BBDOのどちらかを選ぶとなれば、ほとんどの方は大きい企業を選ぶと思います。ただ、クライアントから信頼されるクリエイティブ・ディレクターのAさんが弊社にいた場合、「Aさん v.s. 大手広告代理店」という構図になり、勝つ可能性も大いにあります。

 そういった担当者から信頼されるクリエイティブ・ディレクターの集合体がI&S BBDOとなれば、会社の名前は自然と認知されていきます。個が立つ会社へ変えていくことが、今回ECDに任命された私の役目だと思っています。

――“個が立つ”には、どういったことが必要になるのでしょうか。

 クリエイターとしては、賞を獲る、マーケティング・売上に貢献できるおける人、マーケティングであれば色々なアイデア、情報、示唆をくれる人と様々いますが、より専門性のある肩書きがつくことが理想です。たとえば、「女性向け商品といえば……」「オタクマーケティングといえば……」というイメージです。

個人×個人で数百通りの形を作り、組織を強固に

――ECDとして、今後I&S BBDOのクリエイティブ集団をどのように成長させていく予定ですか。

 弊社は創業から70年以上経っていることもあり、真面目という素晴らしい社風があります。クライアントからは、長期にわたるプロジェクトにおいて一緒に進化していくパートナーとして高い評価をいただいております。

 ありがたいことに、その信頼関係ができあがっている中で、今、新しいことへチャレンジをする若手クリエイターが躍動しはじめています。まずは、これをさらに加速させていくことでしょうか。

 先ほど、個が立った人を育てていく必要があるという話をしましたが、個が立っていくには自身の殻を破ってもらわねばなりません。限界を超えることに向き合わないと殻は破れません。キャパシティーを増やすとでも言いましょうか。

 しかしながら、自分一人で殻を破るのはとても難しい。そのため、たとえばAさんには、別のベクトルを持つBさんを掛け合わせる。そうすることで、個人でできることの限界を超えた企画やクリエイティブが生まれる。そして、その組み合わせは数百種。その組織はきっと強いはずです。

――最後に、上野さん個人の今後の目標を教えてください。

 私たちは日本有史以来最大の転換期を迎えていると思っています。広告業界は人口増加と共に市場も伸びていきましたが、これから人口は減っていく。人口が減っている中で行うマーケティング活動は、これまでにありませんでした。

 ですので、これまでのデータは通用しない可能性が高いでしょう。そのため、私たちは、何を大事にするのか、改めて立ち位置を考えなければなりません。「僕たちはどう生きるか」が大ヒットするのも納得できます。

 また2020年は、世界中から人・モノ・お金が集まってくる。これも日本が史上最大に盛り上がるタイミングです。

 “業界最大の転換期”“2020”この2つの時期が重なる中で、業界にとって何か大きな事件が起こりそうな気がしています。2030年に2020年を振り返っても、「あれ、すごかったよね」と言われるようなことが。その中の一つでいいので、自身が携わっていたいですね。ワクワクしています。

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この記事の著者

畑中 杏樹(ハタナカ アズキ)

フリーランスライター。広告・マーケティング系出版社の雑誌編集を経てフリーランスに。デジタルマーケティング、広告宣伝、SP分野を中心にWebや雑誌で執筆中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2018/06/28 10:00 https://markezine.jp/article/detail/28543