「利権の破壊」と「投資効果」
佐藤康夫(以下、佐藤):1997年頃、インプレッション保証型のバナー広告が登場してきました。しかし、インターネット広告の話よりもまずはインターネットの説明をしなければいけない時代でした。伊藤穰一さん(現MITメディアラボ所長。以下、Joi)による解説で興味深かったのが、「利権の破壊」と「投資効果」の話です。
「利権の破壊」とは、インターネットが普及することで今後あらゆる中間業者が淘汰されていくという意味です。また、「投資効果」とは、たとえば500万円をインフォシークジャパンに投資してくれれば1,000万円戻せますよ、インターネット広告にはそれだけのうまみがありますよ、という話です。ところが、インターネット広告に限って言えば「利権の破壊」どころか二重構造が生まれてしまったのです。
杓谷匠(以下、杓谷):たとえば、広告主が総合代理店に広告を依頼すると、総合代理店が手数料を取って、さらにメディアレップがまた手数料を取って……という話ですよね。本当は中間層が淘汰されていくはずだったのに、新たな中間層がひとつ増えてしまったということですね。
検索エンジン自体を普及させようと
佐藤:そうでもしなければインターネット広告が立ち上がらなかったということもありますし、仕方ないことではありました。「投資効果」も当初考えられていたものとは程遠いもので、現実はバナー広告の効果ってなんなの? という状態。当時、Joiが話していたことは結果としてGoogle AdWords(2000年に誕生したGoogleの提供するクリック課金広告サービス。2018年に「Google Ads」に名称変更)で実現していくのですが、それはまた後の話です。
Yahoo! Japanは圧倒的にページビューがあったのでそれなりにうまくいっていたのだと思いますが、それ以外は苦戦という状態でした。当時業界では「日本人はタイプしないから、ロボット型検索は合わない。だからディレクトリでいいんだ」といった揶揄があったくらいです。(当時、Yahoo!はディレクトリ検索と呼ばれる「サーファー」と呼ばれる人が手作業でディレクトリを作成する形だった。一方、Infoseekはロボット型検索と呼ばれる自動でディレクトリを作成する形式だった。)
当時は検索エンジン自体を普及させようということでNTTのgoo(NTTレゾナントが運営)とテレビに出たり、検索サイト同士で集まって秋葉原でイベントを行ったこともありました。当時、インテル・インサイド・プログラムという、Webサイトにリッチコンテンツを入れようというインテルのプログラムを通じて、現アタラ代表の杉原(当時はインテル勤務でインテル・インサイド・プログラムを担当)とも出会いました。Infoseekはロボット型検索エンジンをメインとしていてコンテンツと呼べるものはあまり持っていなかったのですが、ユーザーの検索語句こそが重要な資産であるということには気づいていました。そこで、このプログラムを利用し、3Dコンテンツで毎週の検索ランキングを作って表示させることをしていました。