強まる、テレビCMの費用対効果への説明責任
スマートフォンの普及による消費者の行動変化とマーケティングテクノロジーの進化により、テレビCMを窮地に追いやるムードは加速化している。これにともない、昨今では、広告主にテレビCMの費用対効果に関する説明責任が求められるようになってきた。
たとえば、トヨタ自動車のハウスエージェンシーであるデルフィスの常務 土橋氏は、今年5月に開催されたADVERTISING WEEK ASIAにて「事業部から億単位の広告予算を預かる宣伝部長は大変。広告出稿に対してベストパフォーマンスを生み出せているかを説明する責任があり、それが十分でなければ“効果のわかりにくいテレビCMはやめるべきでは”という声が事業部から上がる」と話している。
さらに、土橋氏がJAA(日本アドバタイザーズ協会)電波委員長を務めていた際に、宣伝部長108人に行った調査では、約36%が「効果がわからないならテレビCMはやめるべきではないか」と回答したとも紹介している。
そんな中、ようやくテレビCMにおいても“データドリブン”によるPDCAが可能となる環境が整ってきた。
株式会社PTPが提供する「Madison」は、全国で放送されたCMのデータベースである。SOVやエリア配分、枠取りパターンなど様々な角度から、自社および競合企業のテレビCM出稿データを分析できるソリューションで、ビデオリサーチ社と共同で開発されたものだ。
7月9日に行われた日本マーケティング協会主催のセミナーでは、株式会社PTPの代表取締役である有吉氏が、「Madison」から得られるデータにより、マーケティングに起こる変化を話した。
テレビCMがデータドリブンになることで起こる3つの変化
そもそも、テレビCMのマーケティングでは、これまでデータドリブンによるPDCAという概念が薄かった。テレビCMの効果は、売り上げで測るのが理想的だが、テレビCMの領域では出稿データすら十分に整っておらず、売り上げと掛け合わせて分析できる状況でなかったからだ。
有吉氏は、「『Madison』の本質は、効果測定にある。自社および競合企業のテレビCMの出稿状況データと、自社で持つ様々なデータと突き合わせて分析することで、PDCAが回せるようになる」と、「Madison」の本質的な意義を語る。
そして、有吉氏によると、「Madison」により得られるデータがマーケティングに起こす変化は、大きく3つある。
1つは、エリア毎のROIの最適化。たとえば、北海道のSOVと自社のPOSデータを突き合わせてみると、北海道でどの程度テレビCMの効果があったのかを分析することができる。
さらにこれを2つのエリアと比較してみると、テレビCMが及ぼす効果の度合いをエリア別に見ることが可能だ。これにより、全国のROI最適化に向けたPDCAが回り始める。
2つ目に、競合動向を正確に把握することができるようになる。東京に本社がある場合、東京で流れているCMのみを見ていると、他社の動向を見誤る可能性がある。実際に「Madison」のデータを見て、思いのほか競合企業がローカル素材を多用していることを発見し、驚く企業もいるそうだ。「Madison」では、エリア別の出稿データをリアルタイムに把握することができるため、競合の出稿状況を踏まえた広告施策を考えることができる。
最後3つ目に、過去の傾向から未来を予測することが可能になる。「Madison」には、過去4年分のデータベースがある。これからキャンペーンを実施しようとする時にも、その参考になる比較対象が既にあるのだ。また、過去の数字を統計的に分析していくことで、エリア別のSOVや予算配分の最適化に向けて、より精緻なテレビCMの投下モデルの確立に挑戦することができる。