受け手の“恋”と向き合うコミュニケーション
佐藤:今回のセッションテーマは「顧客体験」ですが、デジタル時代ならではのやり方で、“顧客の心をどうつかむか”というのは、どの業界の方にも大きなテーマではないかなと思っています。登壇者として、それぞれ際立った事業に携われている方々に集まっていただきましたが、まずは、長瀬さん。直近で日本ロレアルからLDH JAPANに転職されていますが、どのような違いを感じられていますか?
長瀬:推すものが商品という“モノ”ではなく、タレントという“人”に変わったことは大きな変化ですね。オーディエンスの熱量がまったく違う。たとえば、コスメには熱烈なファンはいても、自分以外のファンに嫉妬する女性はいません。ですが、エンターテインメントにはいるんです。なかには恋に落ちている人もいる。そうなると、ソーシャル上のコミュニケーションはまったく異なってきます。これは今までの僕の経験にはないし、新しい顧客体験を創造しないといけない。ただ、このような変化のなかでも、僕の強み、マーケターとして重視しているものは変わらず「アナログ」の部分だと思っています。
佐藤:“CDO”として転職されたのに?
長瀬:そうですね。やっぱりいちばん重要なのは、「現場」。日本ロレアル時代にも売り場に通っていましたし、転職してからはライブに足を運んでいます。お客さんがライブのどの部分で喜んでいるのかというのは、データを見るより、目で見たほうが早い。HIROさんや所属メンバーの人達は、初日の様子を見て肌で感じて、2日目はどうしようかという話をしたりしています。こうした直感に頼る取り組みは、施策の質を高めることができます。そして、そこにデータを加えることで、直感やニュアンスというものがもっと活きてくる。そういう部分で、会社の方向性と僕の役割が合致していると捉えています。
ファーストユーザーのNPSをまず最高に
佐藤:久保くんは、8月に家具のシェアリングサービス「CLAS」を始めたところですが、その前にご自身が日本の初代“バチェラー”として大きな注目を集めましたよね。まずそこに触れないわけにはいかないんですが……(笑)、事業を展開するにあたって、実際プラスになっていますか?
久保:プロモーションという点では、確実にプラスになっていますね。新規事業は認知してもらうことがまず課題となりますが、ありがたいことに僕の名前からサービスに興味をもってくださる方も多い。ただ次の段階としては、CLASというサービス自体のブランドを確立して、認知を拡大していきたいと思っています。
佐藤:CLASとしては、どういう顧客を捉えようとしているんでしょうか?
久保:ターゲットとしては、ライフステージの変化の早い、自分自身で2回目の引っ越しをする人を設定しています。社会人になって一人暮らしを始めるときが1回目とすると、20代後半くらいでちょっと余裕ができて、家具にもこだわりたいなと思って引っ越すのが2回目。でも結局、引っ越しにお金がかかりすぎて、家具はこれまで使っていたものをそのまま持ってきてしまう、というような。
佐藤:なるほど。それって、デモグラで捉えている?
久保:デモグラは、気にしていないですね。それよりも「もっと自由で軽やかな暮らしをしたい」という、僕らの提唱する暮らし方や価値観に賛同してくれる人に顧客になってほしいので、価格や競合優位を打ち出す比較の言葉を使わずに、CLASで得られる体験をひたすら語っています。今は規模より、最初に集まってくれた尖ったユーザーのUXを磨いて、NPSを最高にすることを考えています。そうすることで、その人たち自身がサービスを根付かせてくれるのではないかと。