JapanTaxiのCXは「決済」と「マッチング」を重視
「周りから『これはいいな』と評価してもらえ、顧客体験を向上させられたなと直接感じた施策は決済に関するサービスの導入でした」。こう語るのはJapanTaxiの代表取締役社長、川鍋一朗氏だ。川鍋氏は日本交通創業家の三代目で、同社の代表取締役会長でもある。基調講演では、顧客の期待に応える新しい顧客体験をどのように実現しているのを、経営者の視点から語った。
日本交通のグループ会社であるJapanTaxi は、ITの力で「世界一の乗車体験」の実現を目指している。同社が2011年にリリースした乗車アプリ『JapanTaxi(旧:全国タクシー)』は500万ダウンロードを突破。日本最大のタクシー配車アプリへと成長した。あらゆる産業でITが進む中、特にモビリティ産業は大きな変革のときを迎えている。
川鍋氏は自身が取り組んだ施策の中から顧客体験の向上に大きく影響を与えたものを2つ挙げた。1つ目は「決算」だ。10年ほど前に日本交通にて交通系電子マネーによる決済を導入したとき、そして直近では乗車中に支払い手続きが完了する「JapanTaxi Wallet機能」を導入したとき。いずれの施策も「周りから『これはいいな』と評価してもらえ、顧客体験を向上させられたなと直接感じた」と話す。
もう一つが「マッチング」だ。長らくタクシーと乗客のマッチングはランダムなものだった。それが、GPSの位置情報により空車の現在地がわかるようになり、リアルタイムマッチングが可能となった。しかし、それを実現するためにはアプリだけではなく、ドライブレコーダーや配車システムなどのハードウェアも必要となる。さらに、JapanTaxiの顧客はタクシー利用者だけではなく、乗務員やタクシー会社なども含まれる。サポート部門に寄せられる様々な問い合わせに対し、属人的に管理していくには限界があった。そこで、Zendeskの導入を決定した。
「クラウドサービスは一度使用するともうそれ以前に後戻りできない、不可逆なもの。導入が遅れれば遅れるほど損することになります。いつかは切り替えなければならないので、いかに早めに飛び込み、使いこなすかが重要です」(川鍋氏)
新しいゴールは「顧客のロイヤルティ」を高めること
続いてZendesk製品開発部門の責任者を務めるエイドリアン・マクダーマット氏が、CX向上のための必要なカスタマーサービスについて解説した。コペンハーゲンで誕生したZendeskは今年で11年目を迎え、「カスタマーサポートの民主化」に取り組んできた。マクダーマット氏によると、この10年間で顧客がサービスやプロダクトへ抱く期待、つまり「良いカスタマーサービスの概念」が変化してきているという。
「顧客は力を持つようになりました。自分の体験をSNSで共有することができるようになり、個人の発信力が強くなったためです。また、サービスの多様化で、どのサービスにも取って代わるものがあります。顧客としてはある企業の体験が気に入らなければ、別のものを試せばいいわけです」(マクダーマット氏)
こうしたコンテクストの中で、サービスやプロダクトの新しいゴールとなるのが「顧客のロイヤルティ」を高めることだ。今までは新規顧客の獲得が重要で、いかに早く、大量に獲得できるかがビジネスを展開していく上での大きな関心事だった。しかし、今後はいかに既存顧客と良好な関係を維持し、ロイヤルティを確立するかが重要だという。新規顧客を探すよりも、そちらのほうが費用対効果も高い。顧客のロイヤルティを維持するために、企業努力やナレッジ、そしてサービスのレベルを向上させなければならず、そのためにまず必要なのが顧客満足度の可視化だ。
「Zendeskのチケットのデータから様々なことがわかってきます。たとえば、顧客からの問い合わせ内容に対する回答までの所要時間と満足度の相関です。たとえ期待に応えられない内容だったとしても、素早いレスポンスであれば高い満足度を維持できます。逆に完璧な回答でも時間がかかってしまった場合、顧客満足度は低下してしまうという結果が出てきます。このことから、『回答内容』よりも『回答までの時間』に期待値が置かれていたことがわかります」(マクダーマット氏)
カスタマーサービスでは、メール、チャット、電話など複数の選択肢を顧客に提供することも重要だという。Zendeskのオムニチャネルソリューションによって、あらゆるチャネルでの顧客とのやり取りを1つのプラットフォーム上に集約することが可能になる。これにより、コミュニケーションのチャネルが途中で変わっても、顧客が同じ情報を繰り返し提供する必要がなくなる。また、自己解決を望む顧客は増えており、ヘルプセンターを構築して自己解決の手段を提供する必要性も高まっている。充実したヘルプセンターを構築することで、すばやいサポート提供と経費削減を同時に行える。
顧客の期待値の一歩先を行くことができるよう、そして正しいアクションが起こせるようになれば、ロイヤルティを維持し、解約を防ぐだけでなく、解約者に再契約を促すことも可能になる。こうしたCXへの取り組みが、さらなる会社の成長につながるはずだとマクダーマット氏は強調する。